26 化粧水と石鹸
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今回は(も?)ほのぼの回です。
「にしても、化粧水と石鹸を装飾品で有名なトラスト商会に売り込むとはね。アリーはなかなか目の付け所がいいじゃないか」
「そう思う?」
「あぁ。あの商会の得意客の多くは、外見を磨くのに必死さね。少々値が張ろうと、我先にと買い求めるだろうよ」
トラスト商会との話し合いの結果、からあげとザコクではなく、アリアンナ特製の化粧水と米ぬか石鹸を、トラスト商会に卸すことに決まった。
予想と違うところに着地したためか、大慌てで拠点の隣町に戻ったトラストさん。
一方のアリアンナは、すっかり仲良しになったサングリアさんに、化粧水と米ぬか石鹸の仕上げをお願いしていた。石鹸はまだアリアンナの力だけでは上手く作れないし、化粧水は普通に作ると数日しか持たないので、サングリアさんの力を借りて、長持ちするようにしてもらっているのだ。
勿論、きちんとお客としての依頼であり、対価も正規の金額を払っている。
『親しき仲にも礼儀あり』
転生しても、日本人としての心は忘れません!
「そうだといいなぁ。出来れば、マリの杖やルイの剣を買えるくらい稼ぎたいんだよね。それに私、石鹸と化粧水以外にも、サングリアさんに作ってほしいものがあるんだ。そのためにも貯金しなきゃ!」
「ほう。一体何が欲しいんだい?」
サングリアさんが淹れてくれた温かいお茶をすすりながら、「それはね」と口に出そうとした、その時。
カランと来客を知らせる鐘が響いた。
「ルイ!」
兄の姿に、アリアンナはパッと手を振った。
「やっぱりここだったか。アリー、トラストさんが来たぞ。商品を納品してほしいってさ」
汗をぬぐいながら、ルイが言う。
「いらっしゃいルイ君。ポーション出来ているよ。それとアリー。とりあえず、今できている分全部持っていきな。化粧水五十本と石鹸百個だよ」
アリアンナとは別に、ポーションの制作依頼を出していたらしいルイ。
どこからともなく、ポーションを持ってきたサングリアさんが、一本の瓶を差し出した。
そして続けてアリアンナの目の前に、依頼の品をドーンと積み上げた。
「はは。ありがとう」
◆◇◆◇◆
家に帰ると、トラストさんとトニーさんが待っていた。
「トラストさん!」
「あぁ、アリアンナちゃん、お邪魔しているよ」
「アリアンナちゃん、久しぶり」
「お待たせしてごめんなさい」
用意されたお茶の減り具合に、思ったより長い時間待たせてしまったらしいことを察し、アリアンナは慌てて頭を下げた。
「いやいや、謝らないでおくれ。急に来てしまったのは私達の方なのだから」
「そうそう! 実はアリアンナちゃんが提案してくれた試供品をお客さんにお配りしたら大反響でね。『早く欲しい』って声を沢山いただいたんだよ。だから、もし既に出来ている分があれば、早めに納品して貰えればってね」
「あと、早速だけど、追加発注もお願いしたいんだ。お母さんもどうでしょうか?」
「まぁ、良かったわねアリー」
「うん。商品は全部出来てるよ。あと追加ってどのくらい?」
先日の話し合いの際、正式な販売の前に、パッチテストも兼ねて無料で試供品を配ることを依頼していたのだが、これが結果として良い宣伝になったみたいだ。
恐らく高値で販売されるだろうこの商品。
高い金額を出して買ったのに、肌に合わないとかなったら最悪だもんね。
トラストさんによると、試供品の利用で逆に肌が荒れた等の報告も特に無いらしい。
やはり空間魔法の『消去』を使って、不純物を完全に取り除いているのが良いのだろうか。
それとも、サングリアさんの錬金術のおかげかな?
アネッサの肌の状態からみても、アリアンナの特製化粧水&米ぬか石鹸は高品質だと思うし、まだまだ完全に安心はできないけれど、ひとまず滑り出しは好調だ。
そんな事を考えながら、いったん奥の部屋に下がり、空間から商品を取り出した後、再び顔を出した。
「アリー、『どのくらいですか?』でしょ?」
「そうだった。トラストさん、商品をお持ちしました。それと、追加の商品はいくつ必要ですか?」
すると、好調な売れ行きに内心ご機嫌だったアリアンナに、アネッサからのお叱りが入った。
まだ子どもだからと、大人と交流する時もあえて敬語を使ってこなかったのだが、トラスト商会との会話では、敬語を使って出来るだけ丁寧に話すようにと言われていたのだ。
「ははは。アリアンナちゃんは敬語が上手だね。こんなに早く商品を準備してくれありがとう。追加の分は、とりあえず今回の倍の数を準備してくれると助かるよ」
「倍ということは、化粧水百個と米ぬか石鹸二百個ですね。承知しました! このアリアンナにお任せ下さいっ」
どんとこいと言わんばかりに胸を叩く。
だが、ふたりは、アリアンナの予想と異なる反応を見せた。
「……ぷ。くっくく」
「ふふ。いや、面目ない」
「?」
なんで?
普通に敬語を使って、丁寧に対応したつもりなのに、何故か笑いを堪えるような様子のトラスト商会のふたり。
「いや、何だかアリアンナちゃんが敬語を使う様子が、とても可愛くてね」
可愛い? 敬語が? トニーさんの言葉に、頭上に大きなハテナが浮かぶ。
「もしかして、何か間違ってましたか?」
「いやいや。とても上手に使えているよ。大人顔負けと言っていいくらいだ」
「では何故?」
「何故か……。何でだろうな。小さな子が、一生懸命話している様子が可愛いんだろうね」
何のことか分からないまま、アリアンナは首をかしげ続けるのだった。
____帰りの馬車にて、トラスト商会のふたりは、こんな会話をしていたという。
「アリアンナちゃんが販売員だったら、私は何でも買ってしまいそうだよ」
「小さな子どもの下っ足らずな敬語。あれはまさに反則(販促)技ですね」
「……上手いこというじゃないか」
「お褒めにあずかり光栄です」
「さ。彼女に負けじと、我々も頑張らねばな」
「はい。商会長」




