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第67話 捕獲

 川を渡り、しばらくまた雪を踏みしめ黙々と歩くと、ついに大きな川と合流した。


「ヴェメール川だわ!」


 ミレイアが嬉しそうに声を上げる。セネ川よりもずっと大きなヴェメール川は、10メートル以上の川幅があり、満々と水を湛えている。

 最後尾のリーシェが到着するのを待って、ミレイアがさらに川下を指差した。


「セネ川の合流地点からヴェメールの離宮まではまだしばらくあるけど、もうすぐ街道にもぶつかるはずよ。もしかしたら兵士か誰かがいるかもしれないわ!」


 ミレイアの言葉に3人は手を取り合って喜ぶ。


「皆、疲れていると思うけど、もうひと踏ん張りよ。頑張りましょう」


 コーネリアがそう励ますと、目を輝かせて頷く。希望の光が見えて、断然力が湧いてくる。

 そうして今度はヴェメール川の川沿いを歩きだした。

 だいぶ地形がなだらかになってきて、セネ川沿いよりずっと歩きやすい。とはいうもののすでにブーツはぐしょぐしょになっている。コートもスカートの裾も濡れてしまって、重さを増している。

 リーシェでさえも疲れが色濃く出始めている今、きっと他の3人はもっと辛くなっているはずだ。

 それに太陽の位置がだいぶ低くなりつつある。夜の寒さをこの格好で凌ぐのは相当無理があるだろう。


(早く離宮に辿り着かないと……)


 一言も弱音を吐かず頑張っている3人を見つめ、焦る気持ちをどうにか飲み込む。

 焦ってもどうにもならないと頭を切り替え、リーシェもまた歩き続けた。



◇◇◇



 またしばらく歩いていると、ふとエセルが立ち止まった。背後にいたリーシェが疲れたのかしらと追いつくと、顔を覗き込む。


「どうしたの? エセル。疲れちゃった?」

「ううん。そうじゃなくて……」


 エセルは川とは反対側の森をじっと見つめる。


「ねぇ、リーシェ。あれ、街道じゃない?」

「え!?」


 エセルが指差した先には、ただ森が広がっているようにしか見えない。けれどよく見てみると、木々が少しだけない場所がある気がする。


「ミレイア! コーネリア! 止まって!!」


 少し先を歩いていた二人が足を止めると振り返る。リーシェはエセルと手を繋ぐと、二人に近付く。


「エセルがあそこに見えるのが街道じゃないかって」

「え!? 本当?」


 コーネリアが驚き、ミレイアは確認するように顔を向ける。


「川ばかり見てて気付かなかったわ。確かに場所的にはもう街道の近くのはず。確かめましょう」


 川はまっすぐ続いていて見失うことはないことを確認してから、川を離れるように歩きだす。

 そうして数十歩歩くと、ついに雪のない広い道に出た。


「街道だわ!!」

「やった!!」

「すごいわ、エセル!!」


 4人は今度こそ飛び上がって喜んだ。ずっと我慢していたのだろう、3人の目に涙が浮かぶ。


「さぁ、もうあとちょっとよ。全員で帰って、皆を驚かせましょう!」


 コーネリアが明るい声でそう言った時、遠くから馬の蹄の音が聞こえた。

 一瞬顔を綻ばせた4人だったが、リーシェは咄嗟にコーネリアの腕を掴む。


「隠れよう!」


 兵士かもしれないと思った矢先、野盗たちの顔が浮かんだ。

 リーシェの言ったことを瞬時に理解したコーネリアが、エセルとミレイアの腕を掴む。

 慌てて草むらに飛び込むと、馬の足音はすごい勢いで近付いてきた。


(お願い! 騎士か兵士であって!!)


 祈るような気持ちでドキドキして固まっていると、低い声が聞こえてきた。


「足跡はこっちに向かってたんだろうな!?」

「へい! 確かにこっちです!!」


 聞き間違えるはずのない男の声に、リーシェは愕然とした。一瞬で身体に緊張が走り、手が震える。

 それでも勇気を出して草むらから街道を覗くと、お頭と部下の男が周囲を見回している。


「小娘の足だ。これ以上は進んでねぇはずだ。この辺りを探すぞ」

「へい!」


(まずいわ……)


 ここで見つかる訳にはいかない。離宮はもうすぐそこなのだ。


(折角3人が頑張ってくれたのに……)


 足音が徐々に近付いてくる。このままでは絶対に見つかってしまう。

 3人を見ると、怯えた目をリーシェに向けてくる。その目を見つめ、リーシェは何度目かの覚悟を決めた。


「私がおとりになる。皆はその隙に逃げて」

「え!?」

「ダメよ!」


 リーシェは驚く3人に真剣な目を向ける。


「元々私が狙われていた。だから私が出ていけば、3人は捕まらないかもしれない」

「ダメ! 殺されちゃうわ!」


 エセルが手を握ってくる。その手にリーシェは手を重ねて微笑む。


「離宮に戻って助けを求めて。それまでどうにか踏ん張るから」

「リーシェ!」


 リーシェはエセルの手を解くと、勢い良く草むらを走り出した。


「お頭! いました!!」

「なにぃ!? どこだ!!」


 部下の男が声を上げる。リーシェはそれを後ろに聞きながら、とにかく街道を走り続ける。

 けれどすぐに馬の激しい足音が近付いてくると、ガシッと腕を掴まれた。


「よくも逃げてくれたな!?」

「離して!!」


 がむしゃらに動いて逃げようともがくが、お頭はまったく動じず腕を掴んだまま馬を下りる。


「おい! 他の女は近くにいねぇか!?」

「いえ、いないみてぇです!」

「他のやつらはどこだ!? 言え!!」

「離して!!」


 お頭がどすのきいた声で怒鳴るが、リーシェはただ首を振り暴れる。

 部下が進む先にコーネリアたちが隠れている草むらが見えて、リーシェは焦り余計に大声を出した。


「やめて!! 離して!!」

「うるせぇ!!」

「お頭!! 兵士です!!」

「なに!?」


 複数の馬の足音がしたと思ったら、他の野盗たちが血相を変えて近付いてくる。


「森中兵士だらけです! 早く逃げましょう!!」

「くそっ!!」


 お頭は舌打ちすると、突然リーシェの腹を殴った。

 リーシェは痛みに身体をくの字に曲げてその場に膝を突く。お頭はその身体を持ち上げ馬に乗せた。


「仕方ねぇ! ずらかるぞ!!」

「へい!」


 痛みで朦朧とする中、リーシェはまた野盗たちに捕らえられてしまったのだった。

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