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3:ダンジョンボス戦

 朝目が覚めるとゆっくり体を引き延ばすように背伸びをする。

 外の様子はわからないが、染み付いた感覚からすればまだ早朝だろう。

 恒例の朝の素振りをしてから、俺は朝食にありついた。


 下へ降りる階段も幅が広く見通しが良い。階層が変わっても温度も雰囲気にも変化はなさそうだ。

 ダンジョンでは階層が変わると出てくる魔物も変化するらしいが、ここではそんなに身構える必要はないらしい。

 ミニ羽豚とゴブリンがメインで出てくるのは1階と変わらないが、1階よりも数が少し多くなっている。魔法があれば範囲攻撃なんてのが出来たのかもしれないな……。

 3匹以上になると少し時間がかかってしまうが、俺は持てる力と技を使ってなんとか進み続けた。

 やはり剣術には全身の筋肉を鍛える必要がある。特に足腰は踏ん張りや足捌きにスタミナの部分でも重要で、山で走り回った甲斐があったものだ。


「おらぁ!」


 最後のゴブリンを袈裟斬りで仕留める。この剣は刀とは違い叩き斬るような使い方で、ゴブリンも俺に斬られると無残な姿になる。

 重量も多いので筋力をつけたのは正解だったが、刀のように素早く動かすのには向いてない。俺の剣術で使える技も少なくなってしまうのがたまに傷だ。


 休憩を挟みながらしばらく進んでいくと、また下り階段を見つけた。叔母さんから聞いていたのは全部で地下3階までで終わるはずなので、ここを降りれば目的地に着くだろう。

 ボスを倒してもお宝はないかもしれないが、それだけでも父親に少し近付けるかもしれない。

 今日はここで一夜を明かして行くのがいいだろう。



 ◇



 次の日、階段を降りて行くと大きな扉が目の前に現れた。分厚そうな鉄で出来た扉からは、今までと違った雰囲気を醸し出している。

 ここにダンジョンのボスがいるのだろう。ここにくるまでも危ない場面はなかったし、俺でも攻略できるはずだ。

 小さな握りこぶしを作り、俺は覚悟を持って扉に触れた。


 ゴゴゴゴゴゴーー


 予想通り重低音を放ちながら扉が開いて行く。俺はただ触れただけなのだが、ダンジョンでは触れられると勝手に開く仕組みでも作られているのだろう。

 少し薄暗い部屋の中央には、俺と同じぐらいの大きさの魔物が鎮座していた。

 肌は暗い緑色で小さなツノが生えている。右手には棍棒を持ち目は俺を見続けており、その姿形はゴブリン……その種族進化であるビッグゴブリンだ。


 ビッグゴブリンは基本的に魔力が少なく、魔法を使える者ならば遠くから一方的に倒すことが出来る相手だ。

 だが俺には魔力がない。つまり接近戦で倒すしかないのだ。

 あの棍棒で殴られたら骨を持っていかれる可能性すらある。武者震いを抑えるように深呼吸し、俺はビッグゴブリンと対峙した。


「ゴギャギャ!!」


 棍棒を地面に打ちつけながら威嚇してくる。あの棍棒には硬化魔法でもかかっているのだろうか? 地面に打ち付ける木の音とは思えない。

 あと数メートルに近付くと、向こうが急に走り始めた。棍棒を思いっきり振りかぶり、力に任せた一撃を俺に食らわせるつもりだろう。

 そうはいかない。俺は剣を抜いて腰に構える。


「グガァァァ!」

「でやぁ!」


 勢いよく振りかざされた棍棒に合わせて俺も剣を振り上げる。剣と棍棒がぶつかる刹那、俺は奴の右腕が異様に太いことに気付いた。

 これは間違いなく魔法で強化している。棍棒も強化され、肉体までも強化されているならこのままぶつかっても力で負けることは必須だ。

 俺は弾く方向からすぐに受け流す方へと力の流れを変えた。


「ぐっ!」


 だが予想以上に衝撃が大きい。なんとか受け流したが、棍棒と地面の衝突によって俺は横に飛ばされてしまった。

 地面を転がり、すぐに起きあがって体制を立て直す。目線を切ったら危険な相手だ。追撃の事を警戒しつつ立ち上がったが、何故かビッグゴブリンは動いていない。

 首だけを俺の方へと回してじっと見つめていたが、そのまま顔を歪めてニヤリと笑った。

 ……笑ったのだ。俺が予想以上に軽いことに倒せるとでも思ったのか? それとも吹き飛ばした事により自分が有利なんだとでも思ったのか?

 気に食わない……絶対にぶっ殺してやる!!


「うおおおおお!」


 今度はこっちが剣を上段に構えて突進する。ビッグゴブリンはその場を動かずに腕の力だけで棍棒を振り回して応戦してきた。

 金属がぶつかるかのような鈍い音が部屋に響き渡る。力では確かに勝てないかもしれないが、速さと技術なら俺の方が上だ。

 ぶつかった瞬間に横へ移動しながら剣で棍棒を受け流し、そのまま開いた脇腹へ一撃をお見舞いする。

 だがその剣は傷を負わせたものの浅い。


「ゴギャッ!!」


 雑魚だと思っていた相手に傷を負わされて焦ったのか? 冷静さを失って棍棒をブンブンと振り回し始めた。

 不規則な動きだが、さっきので力の加減を間違えなければ流せることもわかった。その勝負、受けて立とうじゃないか!


 俺は何度も棍棒を受け流しつつ、一撃一撃をお見舞いし続けた。一度の攻撃は確かに浅いかもしれないが、チリも積もればなんとやらだ。どんどん相手の動きが鈍っていく。

 何度も足や腕、腹や背中を斬りつけると、やっと地面に転ぶようにしてゴブリンが倒れた。


「ふぅ。いい勝負だったぜ」


 直撃は免れたものの、かすっただけでもだいぶ体力を奪われた。満身創痍とはいかないが、こいつに勝ったのは奇跡かもしれない。改めて自分に魔力がないことが悔やまれる。

 ビッグゴブリンにトドメを刺すために近づいて行く。

 顔だけは動くのか、俺の方を睨みつけている。だがいくら睨んだって俺の勝ちは変わらない。今すぐに楽にしてやる。

 俺はもうボロボロになりかけてる剣を大きく振りかぶった。


「グギャー!!」


 その瞬間、うつ伏せのままゴブリンが持っている棍棒を振り回してきた。この傷で動けるとは油断していた俺は、なんとか剣で棍棒の直撃は免れたものの吹き飛ばされる。

 地面を転がると体から悲鳴が聞こえた。もしかすると今ので骨折したかもしれない。持ってきた最後の傷薬をすぐに飲んだが、まだ足元がふらふらする。

 さらにガードに使った剣の先が折れていた。まずい、これ以上の猛攻には耐えられないかもしれない。

 ビッグゴブリンが棍棒を支えに起きあがり、大きく口を広げた。


「グギャァァァァァ!!」


 壁を震わせるような咆哮。身体中から血を流しながら叫び終わると、俺の方へまっすぐ顔を向けた。

 お互い最後の一撃だとわかっているのだろう。絶対に俺が勝って終わらせてやる。

 俺は折れた剣を構えてビッグゴブリンに向かって走り始めた。


「うおおおおおお!」

「グギャァァ!!」


 俺の剣が相手の喉に届くのと、相手の棍棒が俺に打つかるのはほぼ同じタイミングか。棍棒をかい潜って最後の一撃を! もっと速く! 俺が勝つために!!


 ビッグゴブリンの棍棒が俺の樹上に落ちようとする瞬間、棍棒が手からすっぽ抜けた。もう魔力も尽きて力も入っていなかったのだろう。

 俺はそのチャンスを逃すまいと、ビッグゴブリンの首を折れた剣で斬りつけた。

 魔法が解けているビッグゴブリンの皮膚は非常に柔らかく、何の抵抗もなく腕を振り抜く。

 大量の血を流しながら、ビッグゴブリンは地面に伏っした。


「…………ふぅ」


 強敵と合間見え、勝利した瞬間の高揚感は何物にも変えがたい。前世でも対外試合などでがむしゃらに強者と対戦し続けたことを思い出す。

 これが刀なら……そう思ってしまうのは、仕方ないことだろう。

 この世界のどこかに刀があるなら、是非手に入れたいものだ。


 この勝利……ギリギリの勝利はもっと自分を鍛えるべきだと言われた気がした。

 満身創痍ではあるものの、俺は魔法が使えなくても、魔力がなくても戦えるという事実は大きい。さらに鍛錬を積んで、妹を取り戻す旅に出るのもいいだろう。

 叔母さんには、剣を壊したことを後で謝らないとな。


 ボス部屋は、部屋を出ない限り魔物が出没することはないらしい。流石に疲れで身体中が悲鳴を上げているので、魔石を回収したら一度休もう。

 ビッグゴブリンの心臓近くから魔石を取り出してマジックバッグにしまう。ウィングピッグの魔石よりは大きいってレベルの大きさだが、売ればいいお小遣い稼ぎになるだろう。

 マジックバックからお泊まりセットを取り出して、俺は休憩を取ることにした。

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