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ある王国  作者: 春並 創
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序章

 太陽が眩しい・・・。思わず目が寄り顔が顰めってしまう。

「なんだよ・・・この太陽は。光の許容量超えちゃってるよ」

それにとんでもなく暑い。まわりの人々もみな一様に顰めた顔であくせく歩いている。直射日光を避けるためにかざした手が一瞬で使い物にならなくなる。照りつける太陽の光がアスファルトを焼き、また反射した光が体の内から外から隅々を熱くする。

「あっちぃなぁ・・・おい!おれはもう休憩だ。お前代われよ」

「嫌だよ。お前早いよ。もっと我慢しろ」

木陰ではたくさんの小鳥たちが涼める枝を取り合っている。日陰を選んで登校する子供たち。明らかに暑さでダルダルな犬を散歩するお年寄りなど、周りをみても一目瞭然な暑さ。これが地球温暖化ね・・・。


 もうダメだ。今日は暑くて仕事したくない。この暑さで会社が溶けてくれねぇかなー・・・だったら仕事しないでいいのに。・・・あーあ。会社に着いてしまった。しかも溶けてないし。会社の中はさすがに涼しかった。というか寒暖差がありすぎるうえ、汗だくなので寒い。

「おはようございます」

にこやかな笑顔で出迎えてくれたのは受付のアヤさん。・・・彼女の笑顔と声で全てが吹き飛ぶ気がする。

暑いやら寒いやらで崩れた表情筋を一気に是正し、精一杯爽やかな笑顔を作り答える。

「お、おはようございます」

でもダメだった。声帯が思うように震えなかった。


「なにやってんだ。恥ずかしいやつだぜ」

ハツさんが鼓動しながら話しかけてきた。

「ちょっと。ハツさん震えすぎだから」

ハツさんはプルプルと残像が見えそうなほど早く、そして細かに震えている。それでいて微妙に伸縮を繰り返しているのでハツさんの下だけ地震が起きているみたいだった。

「恥ずかしいのはハツさんですよ。というか面白いですよ」

ハツさんはフッと鼻で笑うと煙草を取り出し火を着けようとした。

「ダメですよハツさん。こんなところで吸っちゃあ」

「いけねぇ。忘れてたぜ」

ハツさんは手に持った煙草を直そうとしたが、震えすぎてパッと落としてしまった。それは煙草ではなく煙草とライターを模した玩具のようなものだった。

「というよりあなた煙草吸えないでしょう。それも偽物だし」

「俺としたことが。ついダンディズムが溢れだしてな」

「ハツさん。話を戻しますけど、うまく喋れなかったのはあなたにも問題があるのですからね。というかほぼあなたの所為です」

「なぜだ?」

「あなたが震えすぎたからですよ」

「それは仕方がないだろう。俺だってあんな小娘相手にしたくねぇがよ、王の命令とあっちゃあ・・・」


 「おはよう」

不意に後方から声がした。声のする方を向くと奴だった。嫌いな奴。

「聞こえなかったかな?おはよう」

こういうところが嫌な奴なんだよ。

「おはようございます。ワタルさん」

アヤさんが僕に向けたのと同等の笑顔で奴に挨拶をする。

「おはようございますアヤさん」

こいつ、むかつく。態度が全然違うじゃないか。

「おはよう」

「あぁ、おはよう」

奴はこちらを一瞥するとすぐにアヤさんへ向き直りこちらの存在などないかのように談笑を始めた。こいつの名前はワタル。いわゆる同輩であるが、成績は向こうの方が優秀で、ルックスもスタイルも僕よりも断然・・・いや少しだけ良い。だからなのか、ライバル心を燃やさずにはいられない、僕にとっては負けられない相手なのだ。

「アヤさん、では後程」

奴が右手をキザにかざし、僕には心底憎らしい笑顔を向けて去って行った。

「じゃあ僕も。またあとで」

アヤさんに軽く頭を下げながら受付を後にした。


 「おいおい・・・」

またハツさんだ。震えている。

「なんですかハツさん」

「心底情けないぜ。お前」

「そういうハツさんこそいい加減止まってくださいよ」

「馬鹿野郎が・・・。お前・・・俺が止まるってこたぁ、どういうことか分かってんだろうな」

グッと凄むプルプルハツさん。

「男が止まる時はよ、死ぬ時だ・・・。死んで心行くまで止まってりゃいいだろうが・・・」

煙草を取り出し火を着けようとする。それを無言で制止すると、いけねぇと言いしまおうとして落とした。また偽物だった。

「好きなんだろ?あの娘が」

ハツさんは向き直ると、一層プルプルしながら聞いてきた。

「僕には分かりません・・・。この気持ちが本物なのか」

「ふん・・・わからねぇか。だがよ、男には勝負をしなければならない時ってのはあるもんだ。負けると分かっていようと、行かなきゃいけねぇときってのはあるんだぜ」

「ハツさん・・・」

「本物か・・・あるいは偽物か・・・。それを確かめる為の勝負ってのも、あるんじゃねぇか」

「・・・分かりました。僕の覚悟は出来ています。あとは王様の命令次第で・・・」

「・・・偽物じゃねぇのか?お前の覚悟」

「ええ・・・それを証明するためにも、情けなく震えているだけの僕ではないことをお聞かせしますよ」

「おいおい・・・かっこいいじゃねぇかよ。情けなく震えているだけ・・・か。数分前の俺にきかせてやりてぇな」


 職場へ着いた。なんてことはない、僕の仕事とは工場での生産業だ。ライン工と言えば分かりやすいだろうか。車のどこかの部品を一日中作っている。ロッカールームへ足早に進み、早速スーツを脱ぎ、作業服へ着替える。作業服はところどころ黒ずんでいて、仕事の証として誇らしげに汚れている。二枚重ねにした軍手は一日使っていれば破れてしまうので大量にストックしてある。防塵マスクや防護マスクも完璧にセットし、仕事へ取り掛かる準備は万端だ。朝礼が始まるため小走りで工場内事務所へ、同僚とこれといった会話なく集合する。8時まであと2分。始まるのだ。これから長い長い一日が。

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