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ある王国  作者: 春並 創
1/4

起章

 「朝だぞー!起きろ起きろ!」

慌ただしい声がする。せわしなく何度も何度も同じ言葉が繰り返される。

「起きろ!起きろ!朝だ朝だ!」

むくりと体を起こす。瞼をゆっくりと開けたが焦点が定まらず辺りがぼやけている。

「起きたか!よし!」

声の主は俺の状態を確認すると電光石火の如く部屋から出て行った。

・・・部屋から出て行ったので二度寝することにした。瞼を閉じる・・・が、すぐに

「朝だ!起きるぞ!起きなければ!」

うるさい。観念することにした。

「もう・・・分かったよ」

「分かったか?ならいい!」

言い終わるや否や、ヒュンと部屋から出て行ってしまった。敵わないなぁ、あいつには。瞼を開け、あたりを見回す。朝だ。


 猛暑とは思えないほどの優しさで、小鳥のさえずる声が心地よく聞こえてくる。ここで大きな欠伸を一つ。やはりまだまだ眠い。


 「おはよー」「おはよう」「おはようございます」

王国はすぐに賑やかになった。ここはキンレイ王国。人口はおよそ1億7000万人。国土は約65万平方キロメートル。他の王国に比べこれといった特徴はないが、強いてあげるとすれば他の王国に比べ人口密度が少し多いくらいだ。王国では全てのものに役割を与えられている。王に完全に統制された王国は誰もが王の命令に逆らうことなくその任を全うする。その役割、仕事は多岐に渡りこと細かに割り振られている。


 今すぐにでも閉じてしまいそうな瞼を閉じないように支えつつ洗面所へ。顔を洗うために蛇口をひねり流れてくる水を手で掬う。冷たい。夏とはいえ冷たいものは冷たい。

「おい。冷たいぞ」

「知るかよ。自分でやれよ」

態度も冷たい奴だ。

「冷たいー!冷たいぞー!」

またうるさい奴が俊足で駆けて行った。と思ったら帰ってきた。

「自分でやれー!自分でやるんだー!」

本当にうるさい奴だな。

「おい。シンゴ!うるさいから静かにしてくれ。いちいち喚くんじゃねぇよ」

ピタッと止まるシンゴ。

「そんなわけには行かないね。オイラの仕事だ」

いうが早いか、サッと行ってしまった。シンゴの仕事は王国中に伝令をするという重要な仕事だ。王からの命令は勿論、国民同士の伝令や、他国の侵攻などもいち早く王国の全てへ伝える。その俊足は誰もが認めるほどであり、王国中を走り回っているのに疲れた様子、休憩している様子を見たものは誰もいない。その神がかり的な俊足に、シンゴは複数人存在していて王国の各所にいる、違う場所に同時に存在していたなどという都市伝説も生まれた。しかしそれについてもシンゴは「そんなわけないじゃん」と否定しており、シンゴの謎は解けないままとなっている。


 蛇口をひねり直し、温かい水で顔を洗う。気持ちが良い。・・・ふと思ったことがある。この温かいという感覚や気持ちがいいという感情は【誰が】【何が】思っているのだろう。【誰が】はもちろん私だが私の【何が】?脳みそだろうか?皮膚などの細胞が【温かい】という刺激を受け、それが脳へ到達し【気持ちが良い】に変換されるのだろうか。ここまでは分からなくはないが【気持ちが良い】と【思う】のが分からない。【思い】とは主観的で曖昧、あやふやなものであるが、それが極端な話、思い込みで死ぬことだってある。体に異常をきたし、決意に満ちた不義なる行動を起こすこともある。【思い】とは分からない。私が【思う】ことなのに【思う】ことが分からない。自分がしていることが分からないとはとても不安になる・・・。不安になるということは【思って】いるということであり・・・。もうやめよう。終着点が見つからない。


 不意に尿意を催したのでトイレへと歩を進めた。

「毎朝、毎朝なんでトイレに行くのかねぇ」

「溜まってるからだろ」

「溜まってる?何が?」

「尿だよ!尿。」

「にょう?」

「お前、尿しらねぇのか!?」

「うん」

「糞もか!?」

「くそ?知らないねぇ」

「マジかよ・・・こいつ。尿ってなぁ、尿道を通って出る黄色い水だよ。糞は肛門を通って出る茶色い塊。こいつらは体にいらねぇもんなんだよ。だから出してやらねぇといけねぇんだ」

「へぇ・・・あっ!あれか!みたことある!」

「みたことあるっておめぇ・・・。おめぇも毎朝・・・いや、ひょっとすると毎朝ではないかもしれねぇな。っていうか誰だお前」

「僕かい?僕は・・・」


 ・・・ふぅ。すっきりした。・・・っと、いかん!仕事に遅れる!

「やばい!やばいぞ!早く!早くするんだ!」

「うるさいシンゴ!分かってる!」

大急ぎで寝巻を脱ぐ。

「えっと・・・スーツの場所はクローゼットの中だ!」

ヘタレたスーツに着替えた。忘れ物は・・・ない、だろう。仕事めんどくせぇなぁ・・・玄関で大きくため息をつき、輝く太陽の下、職場へ向かった。

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