緑色の猿
緑色の猿
この数日間、森の深いところに仕掛けた落とし穴の罠にイノシシがよくかかる様になった。
と言っても、13箇所仕掛けて一日に一箇所か二箇所に掛かっているという程度だ。
一度ヤマネコもかかっていた。
最初は「おお、今日もイノシシか」と皆喜んでいたのだが、毎日の様にイノシシが穫れると不安の方が大きくなってきた。
「ここに来たばかりの時はイノシシも鹿も毎日穫れたもんじゃが、鹿はすぐに狩り尽くしてしもうたし、イノシシもほとんど見なくなったんじゃが」
村長の言葉から、村人達の生活に問題があると思った。元々草原を移動していた人達だからこうなのかもしれない。
早く農業を推し進めないと、数年後には食べ物なくなるぞ。
そして、とうとう鹿が罠にかかった。
この世界に来て初めて鹿を見たが、奈良にいる鹿と同じ種類みたいだ。
「こりぁ、いよいよ何かの前触れかもしれん」
村長の言葉に、村の皆が緊張する。
「しか? これがしか?」
「すげぇ! 鹿だ! ほんもの?」
子供達は元気だったが。
そして、その不安が現実の形となって現れた。
・
「ミチザネ! お前の畑の前に集合だ!」
午後、僕のところに若い衆が来た。
僕に集合場所を伝えて、また他の家に走って行く。
僕の畑、というのは土魔法実験場の事だ。
村の端から実験場までは、人が爪の先程度に見えるぐらい距離がある。もしもの時のために村から離れた場所に作ったのだが、今は集合の目印になっている。
他にも、弓の練習場が集合場所になったりする。この村人達は草原に目印とか置かないのだ。感覚で「あの辺」と指を差してやりとりしている。それはそれで凄いけど。
そのうち村を広げないといけなくなるはずだ。一定の距離で目印とか置いて目安にしないと。
僕が集合場所に着くと、既に村長とその息子さん、大人の男が数人集まっていた。
僕の後からも男達が集まり、村の大人の男は全員ここに集まった。
そして、その輪の中心にあったのが、
「なんだこりゃ……」
「すげぇ爪だな」
「小さいが、不気味だ」
「ミチザネ、お前の罠にかかっていたんだ」
一番深いところにあった落とし穴に落ちていたらしい。
体も小さく、体重が軽くて杭が上手く刺さらなかったみたいだが、足をやられて這い上がる事ができなかったらしい。
それを、見回りに来た若い衆が槍でトドメを刺したんだとか。
頭や腹の穴はその時のものだろう。
緑色の猿だった。
体の大きさ、胴体と四肢のバランスは、動物園で見たサル山の猿たちと同じだ。
緑色の長い体毛の隙間から黒い皮膚が見える。
毛に覆われていない顔も黒い。成体になったチンパンジーみたいだ。
耳は頭の横に付いており、毛は無く先の尖った大きな耳だった。
長めの爪は太く、ギラリと光を反射している。どれだけ硬くて凶悪なシロモノがひと目で分かった。
口からはイノシシのように上下の牙がはみ出している。
大きさや体のバランスは猿そのものだが、鼻から口にかけては犬の様な形をしていた。噛みつくのが上手そうだ。
「どうじゃゴブリンで間違いないか?」
緑色のそれを近くで検分していた3人の男が、
「はい。間違いありません。こいつはゴブリンです」
と、神妙な顔で頷いた。
・
昔、この場所に辿り着いてすぐに、男達は森に入った。
獲物を獲り、森の中を探索するためだ。
奥にどんどん入って行った。
警戒しながら進み、森に入って3日目の朝、これに遭遇した。
遭遇したのは、今検分していた3人の他にも居た。村長の息子もその1人だ。
皆で検分し、これはゴブリンだと結論した。
「ずっと森の深くには入っていなかったから、最初に見て以来ずっと見たことが無かったというのに…… 何であんなところに」
僕の罠の位置は村の男たち皆が知っている。
皆森を歩きまわっているので、万が一にも罠に掛からないように目印を付けてあるし、だいたいの場所を伝えてもある。
だから、このゴブリンがどれだけ森の浅い場所に出てきていたか分かるのだ。
「最近イノシシがよく穫れておった。鹿も穫れた。そして次はゴブリンじゃ。これは森の奥で何かあったんじゃなかろうか」
村長の予想に、誰もが口をつぐむ。
僕でさえそれは考えていた。皆もそうだろう。
村長が言葉にした事で、明らかに皆の表情も変わった。
実際に戦った人たちの話を聞くため、車座になって情報交換が始まった。
「体も小さいから力はそんなに無かったが、とにかくすばしっこくて槍がなかなか当たらなかった」
「毛の色が厄介だ。茂みに隠れられるとなかなかわからん。俺たちも槍の距離に近付かれるまで分からなかった」
「遠くからなら矢でも殺せると思うが、見分けるのが難しい」
「槍で突くより棍棒で払った方が戦いやすかったぞ」
「ヤマネコは普通、俺達を見つけたら逃げるが、ゴブリンはすぐに襲いかかってきた。アタマが悪いのかわからんが、とにかく凶暴だ。俺たちは3人固まって行動していたんだが、それでも1匹で襲いかかってきた」
「俺達は4匹に襲われたが、連携はとれていなかったな。力押しの狩りしかできない獣だ」
等など、情報が共有される。
ゴブリン遭遇時に怪我人は出たものの、森の探索には腕自慢が出ていたし、ちゃんと警戒もしていたので襲いかかって来るゴブリンは倒せたらしい。
戦ってから逃げた個体もいたが少なかったそうだ。
「これは厄介じゃ。儂らは今まで逃げる獲物を狩ってきたが、ゴブリンは襲い掛かってくる。群れでなくとも襲いかかってくる分、狼より厄介かもしれんわい」
まず、対策として一定のラインに僕が落とし穴を仕掛けた。
ゴブリンが落ちていた罠から、丁度森の中に線を引く感じで穴を掘っていった。正直、堀で良いんじゃないかと思ったが。
目印をつけて、これ以上森に入らない様に徹底させ、これをゴブリン警戒ラインとした。
そして数日過ぎた。
毎日の様にゴブリンが罠に落ちている。
皆の不安が高まっていく。
・
村人達は東から来た。
この草原を囲む東と西の森は薄く、短時間で通り抜ける事ができる。
対して北の森は深く、遠くに霞んで山が見える。
南にも森があるのだが、かなり遠くて僕にはよく見えない。
ゴブリンが森から出てくる様だったら、南側に移動しようと話し合いで決めた。
本当はすぐ移動したほうがいいと思うのだが、自分達で一から作り上げて、5年以上も生活してきたところだ。僕だってもう愛着が湧いている。
・
「どうして今まで気付かなかったんだ!」
僕の叫び声に、ラーテがびっくりした。
「ミチザネ、どうしたんだ? 大声を上げるなんて珍しいな」
「あ、うん。ごめんね。僕ちょっと村長のところに行ってくる」
僕は冒険者だ。一応冒険者タグもまだ持っている。
ギルドに行けばモンスターの情報があるんじゃないかと気付いた。
「なるほど。確かに。街のギルドなら多くの情報があるかもしれんの。あそこの冒険者達も森に入っているはずじゃ」
僕はかちあった事がないが、稀に森のなかで冒険者とあう事もあるらしい。物々交換で食料と道具を交換したりする。
村の北側の森は、街から見て丁度東側になる。
冒険者達は街から西の草原や森、北側の森に入る。
村の北の森にモンスターが出たなら、街にも何かあったかもしれない。
「ちょっと行って情報収集してこようかと思います」
「うむ。任せたぞ」
・
街にはちょっと前に毛皮や乳製品を売りに来ていたので、そんなに久しぶりという感じはしない。
小走りで大通りを進む。
ギルド職員に村での出来事を話した。
いつも無愛想なおばさんの顔が険しくなる。
「情報ありがとうございます。実はこちらでもゴブリンの目撃情報が増えていまして」
村と街の情報を照らし合わせると、森の中でゴブリンが増えている。
最悪、冒険者達がゴブリンを狩りまくったせいで村の方に逃げてきたのかとも考えていたが、そうでは無かったみたいだ。むしろ、その方が対処しやすかったのかもしれないが。
・
ギルドで話を聞いて村に帰ってくると、なんだかピリピリした空気が漂っていた。
「おう、兄弟、帰ったか。街の方はどうだった?」
「はい。やっぱりゴブリンが増えているそうです」
「そうか……」
「何かあったんですか?」
「ああ。サイミのとこのガキが森の近くでヤギに草食わせてたんだがな、緑色の獣が数匹森から飛び出して来て、ヤギを1頭攫っていったらしいんだ」
背筋を冷たいものが走る。
「子供は? 大丈夫でしたか?」
「ああ。びっくりしちまって泣いてたけどな。怪我はねぇよ。今回は…… な」
大人はともかく、子供ではゴブリンに勝てないだろう。
しかも数匹。草原のすぐ近くまで来ているという事か。
ゴブリンは人間に襲いかかってくるという。子供には気付かなかった様だ。良かった。
午後、人員を増やして警戒ラインの罠を確認しに行ったが、途中ゴブリンに何度も遭遇したため、罠の確認は困難と判断し、すぐに帰還した。
「昨日は森の奥まで行けたんだがな」
「一気に来やがった。すぐに森からこっちに溢れ出てくるぞ」
森から帰ってすぐに村の防備を強化する作業を開始した。
「兄弟、土魔法で村の周りを頼むぜ!」
村人達は僕の土魔法を穴掘りの技と認識している。
「はい」
村の周りに堀を作る。
大人の腰程の深さだが、ゴブリン相手なら十分だろう。
堀ができるそばから男達が堀の底に杭を差していく。
村の周りの柵に、余っていた木材を括り付けて強化していく。
家で備蓄していたロープの消費が半端ない。こんなに作ってどうすんだと思っていたが、作っておいて良かった。
日が沈み、女と子供達を村中央の家々に集めた。
家畜のヤギ達も村の中央広場に集めてある。
男たちは交代で見張りにつく。
いつもあんなに元気な子供達が、オロオロと母親の後ろをついてまわっている。今にも泣きそうな顔だ。胸が痛い。
僕は大量の弓を女達に配った。
この村の人たちはだいたい弓矢が使える。
棍棒も配ってはあるが、いかんせん腕力的に扱うのは厳しいだろう。
僕は一番良く出来た弓をラーテに渡す。
「ラーテ、子供達を頼んだよ」
「まかせろ。だいたい、私はミチザネより弓も上手いし力もあるんだぞ。お前が代わりにここに残ればいいんだ」
そういえばそうでした。
これからしばらくはこんな生活が続くだろう。
そう思ったのだが、
「きたぞおおおおお! ゴブリンだあああ!」
見張りの声が夜の空気に強く響いた。
「え? うそ! こんな早く?」
と、驚く僕に、
「昼にヤギが攫われたんだ。それで連中は餌がここにあると知った。別に早くもないだろう。遅いぐらいだ」
と、ラーテさんからごもっともな意見。
「ミチザネ、早く行け。お前でも少しぐらいは役に立つだろう」
「うん。いってきます!」
僕は村の北側に駆け出した。
そこには既に村の男達30人程が集まっており、柵ごしにゴブリンを槍で突き刺している。
今日は2つ月。十分明るい。だが、緑色の毛並みは草原にも近い色だ。夜陰でさらに視認しにくくなっている。
蠢く陰に槍をザクザクと刺していくのは単なる作業だが、得体の知れない何かを相手にしているというストレスで男達は既にいっぱいいっぱいになっていた。
「ちくしょう! ちくしょう!」
「きもちわりぃってんだよ!」
「ああっ! くそ! どんだけいやがるんだ!」
悪態を突きながらゴブリンを突いている。
ギャアギャアと耳障りなゴブリンの鳴き声が響く。
今のところ、北側に集中している様だが、この数で村を囲まれると危ない。
最近子供が増えたりしているが、それでも大人の男が増えたわけではない。大人の男は総勢で41人。つまり、かなりの戦力が北側に集中している。
こいつらが包囲戦を思いつかない事を祈った。
・
槍を何度突き刺したか分からない。
いつの間にか空が白み始め、ゴブリンがちらほらと逃げていき、とうとう全て森へ帰った。
皆無言だった。
あたりには血と糞尿の臭いがたちこめている。
こちらの被害はゼロ。ゴブリン達は結局北側に押し寄せるばかりで、他へは回り込まなかった。運がいい。
だが、疲労は凄まじかった。
「まさか、これから毎晩こうなのか?」
誰かがぽつりと呟いた。
さらに重い沈黙が降りた。
・
太陽が昇り切ってから、村の周りを確認しに行った。
北側の畑は全滅だった。
村で育てているほうれん草っぽい葉野菜がズタズタに踏み荒らされている。
齧った様な跡も無いし、引き抜かれている感じも無い。地面に潰されて散らばっている。
通り道で踏み潰しただけだろう。あの口で草食とも思えないし。
近くにある他の畑が無事だったことからも、野菜は狙われていないと考えられる。
堀の中には結構なゴブリンが落ちていた。
まだ生きている奴らにトドメを刺していく。もう誰も悪態は突かずにゴブリンを突いた。
ゴブリンの死体を集めたが、50体程度だった。
夜通し戦って何度も槍を突き刺した。手応えもあったが、なかなか致命傷は与えていなかったようだ。
死体の数の少なさに、皆落胆する。
押し寄せたゴブリンは50体どころではなかった。はっきり分かったわけじゃないが、村の北側がゴブリンで埋め尽されていた。100や200どころじゃなかったはずだ。
森の中に探索に入った時もこいつらは襲ってきた。
おかしい。いくらなんでも体格差がありすぎる。
自分よりずっと大きな動物に襲いかかるほど獰猛なのか、それとも、
「人間を狙っている…… のか?」
人間を獲物と認識しているのか?
死体を焼いた。
真上に上がった太陽が煙で霞む。
「村長、街に行ってきます! ギルドに報告と情報をもらってきます」
「うむ」
村長に言伝をして、僕は走った。
・
「お? 坊主! 坊主じゃねぇか!」
現場監督に捕まった。
「久しぶりだなオイ、元気してたか?」
いつも朝早く来ていたし仕事も真面目にやっていたからか、憶えられていたようだ。
でも多分名前は憶えてもらってないな。
「工事はどんな感じですか?」
「おうよ。柱までできたぜ。後は屋根張って壁作って…… しかしデカイからな後どれだけ掛かることやら」
僕が地均しで工事に参加したあの場所には、貴族様の別荘が建つ予定らしい。
「ところで、街の外、畑がだいぶやれてましたよ」
「ああ。夜中にゴブリンが攻めて来やがったのさ。冒険者と衛兵で追い払ったが」
街では死者が出たらしい。新人冒険者が2人、突っ込んでやられた。街では畑を守るために城郭の外にうって出たらしい。
ゴブリンは畑の作物を食べないが、踏み荒らされてはたまらない。
てことは、村と違って柵も無しでやりあったのか。冒険者も衛兵もすげーな。
「ギルドでゴブリン討伐の依頼が出てるらしいぜ。おかげでこっちは人手が足りねぇ。坊主、働かねぇか?」
「いえ、僕の村も危ないんで、ゴブリンの方を優先します。すみません」
「そういや森の村の出身だったか。こっちこそすまねぇ」
僕は冒険者ギルドに走った。
・
冒険者ギルドには人がいっぱいいた。
こんなに人がいるのを見るのは初めてだ。というか、冒険者こんなに居たのか。
100人以上はいるだろうか。大きなホールが一杯になっている。
文字が読めない冒険者に他の冒険者が依頼内容を読んで聞かせていたので、僕もこっそり立ち聞きした。
ゴブリンの左右耳と引き換えに報酬が出るとの事だ。
ギルドが指揮して組織的に行動するというわけではなく、冒険者それぞれが勝手にやれって感じだ。
これは助かる。
まず、冒険者ギルド職員に村での出来事を報告した。職員は顔色を変えて、僕の報告を聞きながら書類に纏めていた。
そして、
「村では防衛の人手が足りません。冒険者を連れて行きたいのですがいいでしょうか?」
という問いに、冒険者が了承すれば勝手に連れて行って良し、との答えを頂いた。
つまり、ゴブリンを狩れればいいのだ。街側からだろうが村側からだろうが、森に入ってゴブリンの耳を切り取って来ればいい。そういう事だ。
・
どんどん時間が過ぎていく。
ホールに集まっていた冒険者達が凄い勢いで減って行った。
もうほとんど残っていない。
最初からパーティだった者達はそのまま出ていき、戦力に不安がある少数パーティが仲間を募集したりして、数を揃えて出て行った。
つまり、今残っているのはあぶれ者たちだ。
まさか異世界に来てまで『仲の良い友達とグループを作って下さい』状態に晒されるとは思わなかった。
頑張って声を掛けて回ったが「土魔法? なにそれ何ができるの?」と言われ、穴が掘れますと説明すると、嘲笑され、断られた。
残っている冒険者達のほとんどは、そもそもゴブリン討伐に興味が無く、酒を飲んでいたり仲間とくっちゃべっていたりしている。
だが、壁の花が3輪残っていた。
女性冒険者3人のパーティだ。 彼女たちも仲間を集めようとしていたが、全て断られてぽつんと残っていた。
2人はかなりいい体格をしていた。
1人はロングソードを腰に下げ、服の上から要所要所に金属を使った軽鎧を装備している。髪は銅の様な深い赤色で、くせ毛なのか、短い髪の毛が炎の様に逆立っていた。派手だな。
もう1人は、矢筒と弓を背負って、装備は軽革鎧。
狩人というところか? いや、弓士とでも言うべきか。
暗めの茶色い髪をポニーテールにしている。前髪が長く、瞳が見えない。ちょっとホラーっぽい雰囲気がある。
上背と肩幅がある良い体格をした2人の間にちょこんと立っている女性は普通の背格好の女性だった。一応革の手袋をしているが、他は街娘と変わらない。肩で切りそろえられた金髪の毛先がくるっと内側に巻いている。
他の2人が大きいため、彼女はやたらと小さく見えた。
足元におろしてある大きなバッグは彼女の持ち物だろうか。小さい彼女は他に荷物らしいものは持っていない。
「あ……」
目が合った。とりあえず軽く頭を下げてしまう日本人の性。
もうこの3人しか残っていないし、声を掛けるしかない。
「あの…… すみません。パーティを組んでいただけないでしょうか」
と、揉み手でへこへこ頼む僕に、
「見ていたぞ。お前全て断られていたな。何でだ?」
女戦士から質問が返ってきた。
「その…… 僕は土魔法が使えるんですが…… 他の皆様にはウケがよろしくなかったようで……」
このパーティもダメかと思ったその時、
「土魔法が使えるんですか!?」
と、食いついてきたのは背の低い女性だった。
背が低いと言っても、僕より少し低い程度。彼女がぐいぐいと迫ってきた。顔が近いってば。
「私も土属性あるんですけど、一度も発現した事が無いんですよ!」
「あ、魔導士なんですか?」
僕の問いに、彼女はハっとして、
「すみません。お見苦しいところを。私、魔導士のルルと申します」
「おい、勝手に名乗るなよ」
と言う女戦士に、
「いいじゃないですか。どうせ他に居ませんし」
と、魔導士ルルが答える。
「私も…… 土魔法、見てみたい……」
隣の弓士がぼそりと言う。こういうキャラなのね。
そんなわけで、とりあえず話をする事になった。
土魔法の説明には、ルルまで落胆していた。結構使えるんだぞ? ちくしょう、後で目にもの見せてやるからな。
だが、村の防衛をお願いしたいという話はだいぶ好意的に受け止められた。
「そいつはいいな。森から勝手に出てくるなら楽だ」
「村の方なら…… 他の冒険者もいないしね…… いれぐい」
村に来る前に叩きたいんだけど。
でも確かに、森に入るより迎え撃った方がいいかもしれない。森の中であの数に囲まれたら終わりだ。
「土魔法は…… がっかりですね」
1人土魔法に落胆したままの人がいるが放っておこう。
「忌み地の村か……」
と、エイダが呟いた。
「忌み地? ってなんですか?」
「お前の村がある草原の事だよ。この辺には幾つか忌み地と呼ばれる場所があるんだ。と言っても、特に意味は無い。昔からそう言われているというだけでな。この街の北西に街道を行くともう一つ忌み地があるぞ。これは湖だがな」
この世界にも色々あるらしい。
年寄りや旅人、冒険者生活が長い人が知っている程度の話だと言ってエイダは笑った。話の流れで歳を聞こうとしたらぶん殴られた。
・
なんとか日没前には村に帰ってこれた。
女ばかり連れて帰ってきたのでうちの嫁が少し妬いちゃうんじゃないかと思ったが、予想の斜め上をいって、むしろ仲良くなっていた。
女で腕っ節が強いというのが共感できたんだろう。
半日しか留守にしていなかったのに、村の柵近くに3mほどの櫓が3つ組まれていた。
屋根は無いが、上の床面積は広かった。それぞれ5人程乗れそうだ。あそこから矢を降らせるだけでも違うだろう。
なお、材料は使っていない家だった模様。
現在女と子供達が村の内側の家に集まって共同生活してるし、男も村の外側の家を共同仮眠所にしたので空き家が多かった。それを解体して作ったらしい。
躊躇もなくすぐに解体して必要なものを作るというこの決断の速さには感心した。
もうロープが無くなりそうだ。時間を見て作っておかないと。
・
夕食は冒険者達も一緒に食べた。
この村の風習通り、女冒険者達は村の女達と一緒に食事をした。
女戦士と女弓士の方は、うちの嫁と話し込んでいる。
結構真面目な話っぽいのだが、何の話をしているのかは分からない。
たまにチラチラ僕を見ているので、ラーテが僕の自慢をしているのかもしれないと希望的観測をしておく。
・
夜も更けた頃、櫓の上から声が響く。
3つの櫓の上にいる見張り達は、皆北を指差して叫んでいた。
連中は何でわざわざ夜中に来るのか。
夜行性なんだろうか。
皆配置に付いた。
僕も北側の柵で槍を構えている。
エイダは腰のロングソードを使わず、村で借りた槍を使う。
我が最愛の嫁ラーテと、女弓士サースラ、魔導士ルルは櫓に登っていた。 櫓の上は全て女達だ。村の女達は皆弓を構えている。ちらほら僕が作った長弓が見える。
総力戦という言葉が頭に浮かんだ。
長い夜の始まりだ。




