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僕の土魔法最強伝説!  作者: @さう
第一章 異世界と嫁
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土魔法発現

 土魔法発現


 あの子だ。村で一番年長の、数え5歳になる子。

 ほとんど毎日僕にまとわりついていた子。

 5歳のくせにだいぶデカイ男の子。

 あの子の姿が無い。


 最初は、どこかで遊んでいるんだろうと思った。

 しかし、別の子の証言でそうでは無いとわかった。

 森へ入っていったらしいのだ。

 目撃した子も止めたのだが、一番年長だし、止められずに行かせてしまった。

 その子が僕に泣きついてきた。

 話を聞いてみると、あの5歳児は僕の罠の事を話していたという。

 罠を見に行ったのかもしれない。

 好奇心旺盛なのは悪いことではないが、無謀過ぎる。

 こんな事なら罠の実物を森の入り口付近に仕掛けて見せてあげればよかった。

 考えなかったでもないが、危険だからやめたのだ。

 それからも罠について聞かれた。

 ヤマネコを捕まえた事が気になっていたのだろう。


 ちくしょう。


 僕は他の子に村長の所に行って説明する様に言った。

 そして、森の中に入る。


 村人たちは森の中の草原に移住してから1人も死者が出ていない。

 病になる者もなく、疲れて寝込む事はあるが、それだけだという。

 昔、東にいた頃は病と突然死がそれなりにあったそうなのだが、移住してからは不思議とそんな事が無いらしい。

 つまり、これであの5歳児に何かあったら僕が関係した事で初の死者が出る事になる。

 名前も知らない子が、僕のせいで死ぬかもしれない。

 この村の子供達の名前を呼んだ事がない。知らないのだ。それでもなんとなく生活できていたから気にしたことが無かった。

 今更になって後悔している。

「おおおーい! 5歳児ぃいいい!」

 森の中で叫ぶ。

 絶対探し出して名前を聞いてやる。


 罠の場所はなんとなく覚えていた。

 あれから何度か仕掛ける場所も変えている。

 あの5歳児は罠を探しに入ったはずだが、罠の場所は知らない。

 なので、賭けに出た。

 5歳児が入ったという場所から森に入って、そのまま直進。あの子は割りと単純な子だった。きっと脇道振らずに森の奥に入って行くだろう。ヤマネコは森の深いところに居ると皆知っているのだから。


 ・


 最初は勢いで走っていたが、少し落ち着いてきた。

 顔に擦り傷が幾つもできたからだ。

 この調子で枝が顔に刺さったらたまらん。

 茂みを抜ける時に手も切れてしまっていた。

 鉈でも持ってくれば良かった。

 走るわけではないが、それでも急いで森の奥へ入っていく。


 ウサギにも殺されそうとか言われた身としては、気分が落ち着いてかなりびびっていたのだが。

 よく考えてみたら、ウサギに本当に殺されるとも思えないし、鳥に襲われるとも思えない。

 他に見たのはヤマネコぐらいだ。ヤマネコに襲われると危ないが、ヤマネコも普通は人間に襲いかかって来ないらしいし。

 獣の襲撃はあまり考えなくて良いはずだ。

 周りの警戒よりも、正面の小枝や障害物の方に意識を集中する。


 自分のせいで子供が死ぬかもしれないというのもかなりのプレッシャーだが、それよりも、やっぱりあの子に情がうつっているのが大きい。

 村では子供達を皆自分の子の様に育てる。

 僕も村に馴染んできたという事だろうか。

 人種も全然違うし、年齢的にも難しいのに、あの子が自分の子の様に思えてしまう。

 理屈じゃない。あの子を助けたい。


 森の奥へと入っていく。

 子供の足だ。それほど遠くへは行けないだろう。そろそろ追いつくんじゃないだろうか。


 ・


 太陽が傾き始めている。

 ミチザネと子供を追って、若い衆が森に入っていった。

 私はミチザネの帰りを待つだけだ。

 ウサギに殺されそうな男だが、本当にウサギに殺されるわけがない。……いや、ミチザネなら分からないが。

 どちらにしても、森の中には狼も居ない。きっとだいじょうぶだ。

 下手に転けて大怪我をしていたら? もしも気を失っていたりして助けを呼べなかったら? 森の中で迷子になっていたら?

 くそ、イライラする。

 これも全部ミチザネが弱々しいのがいけない。要らぬ心配ばかりしてしまう。


 あんなヘタレでも、ヤマネコはそうそう襲わないだろう。

 心配なのは子供の方だ。


 いや、違う。もう一つ、ミチザネには危険がある。

 モンスターだ。

 私達がここに移住して間もない頃、森の奥に調査に向かった若い衆が死体を持って帰ってきた事があった。

 緑色の奇妙な獣だった。

 あれは人を襲うと聞いた。

 森のずっと奥の方に住んでいて、男たちもそこへは入らないという話だが、あのバカの事だ、そんな事も分からず森の奥に入ってしまうかもしれない。

 くそ、バカなんだあいつは。

 若い衆に任せておけばいいのに、なんで自分で走りだしたんだ。

 子供を救うためとはいえ軽率過ぎる。

 自分の身を顧みないで、誰かを助けようと走りだしてしまう。

 まるで…… そう、まるで……


 ・


 悲鳴が聞こえた。

 間違いない。聞き慣れたあの子の声だ。いつもギャーギャー騒いでいたあの子の悲鳴だ。

 いつもの楽しい感じじゃない。涙声なのがすぐに分かった。

 僕は駆け出した。

 ガサガサと茂みを激しく揺らす。葉が僕の手を傷つけた。小さな枝が頬をざくりと切った。熱い。でも痛みは無い。

 呼吸をするのも忘れた。

 とにかく早く。


 茂みを抜け、少し開けた場所に出た。

 そこにはあの子と、そしてヤマネコがいた。

 デカイ。この前罠にかかった奴より一回り大きい。

 あれが成体だろうか。

 あの子は木の根本に座り込んで、小石や土、草など、手に付いたものを手当たり次第投げていた。

 だが、それでもヤマネコは怯まず、むしろ激昂していた。

 しゅうしゅうと呼気で威嚇している。

 あの子は5歳時にしては大きい方だが、ヤマネコの方がずっと大きい。

 ふと、地球に居た頃読んだニュースを思い出した。

 飼い犬が赤ん坊を食い殺すというニュースだ。

 自分よりも体が小さい生き物など、動物からしてみれば餌と同じだ。

 少なくとも、子供の頃から一緒に育ったなんてハートフルなストーリーは、あのヤマネコとあの子には無い。

 ヤマネコにとってあの子は完全に獲物、または敵であり、排除可能なサイズの生物だ。

 僕が茂みから飛び出した時にちらりとこちらを見たが、逃げる素振りが無い。

 僕が辿り付く前にあの子を殺れるつもりだろう。

 実際それは可能だ。

「逃げろ!」

 僕の声にあの子が反応した。まだ遠い。

 僕を見たあの子の顔は、涙に濡れていた。あの子が泣くところなんて見たことが無かった。

 よくもやってくれたなヤマネコ。

 怒りがこみ上げる。


 どうしてあの子はヤマネコに威嚇されているのだろうか。

 何かやらかしたんだろうか。

 いや、そもそもヤマネコの生態自体僕は知らない。

 そんな事より、あの子を助けなくてはならない。

 どれだけ足を動かしてもなかなか詰まらない距離に焦れる。


 ヤマネコがあの子へ向かって駆け出した。

 すぐに距離が詰まる。

 あの爪、いや、あの牙、どっちにしてもあの子にとっては致命傷になり得る。僕が辿り着く前に、あの子の首筋をざっくりやって逃げるだけの速さがある。致命傷じゃなくても深い傷を負ったら感染症で死ぬかもしれない。

 僕は50m走何秒ぐらいだっただろうか。

 ほんの数秒の出来事が何倍にも引き伸ばされている。

 色んな事を考えてしまう。だけど遅々として体は進まない。

 ヤマネコはもうあの子の目の前だ。

「うおおおおおおお!」

 叫んだ。

 よくわからないけど叫んだ。

 魔力がごっそり抜けて行った。


 ずざっ、と、ヤマネコがあの子の隣に滑り込んだ。

 転んだのだ。

 何でか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 僕はすぐにヤマネコに飛び掛かった。

 ヤマネコは土を掻いて起き上がろうとしていたが、僕のフライングボディプレスで地面に押さえつけられた。

 隣から、フガッ、という5歳時の声。びっくりさせてゴメンよ。

 僕は腕をヤマネコの首に回した。裸絞だ。

 この体の構造の動物は背後が死角だ。裸絞から抜ける事も、この体勢から反撃する事もできないはず。

 全力でヤマネコの首を締めあげた。

 フガッ、と、喉が詰まる声がした。今度はヤマネコだ。

 いける、と思った瞬間、体が浮いた。

 ヤマネコの成体は大きかった。もう豹なんじゃないかというぐらいだ。だが、それでもまだ僕の方が少し大きい。

 そんな僕を、簡単に持ち上げてしまった。

 野生動物の筋力に冷や汗が噴き出る。

「させん!」

 どうしてそんな言葉を叫んだのか分からないが、このままではマズイと思った。引き摺られ、振り回されたらこの絶好の機会を逃すかもしれない。

 僕が振りほどかれた時、あの子が無事な保証は無い。

 振り落とされて地面に這いつくばる僕を尻目にあの子をざっくりやって逃げられるなんて、そんなのゴメンだ。

 ヤマネコの後ろ足に自分の足を絡めた。

 再びヤマネコを地面に落とす。両足で後ろ足を絡め取ったが、それでも暴れる。エビの様に激しく胴体をバタつかせ、どんどん体勢がズレていく。

 逃がさない。絶対に逃がさない。

 僕は全力で腕を締め上げる。

 もう腕の感覚があまりない。

 顔にヤマネコの体毛が当たる。結構硬くて顔痛い。

 ヤマネコが暴れている内に、僕が下になった。

 重い。腹にヤマネコの体重がのしかかって吐きそうだった。

 でも、この体勢は良い。

 両足でヤマネコの体をホールドした。

 視界の端に、宙を掻くヤマネコの前足が見えた。

 重いし、暴れる。腹にボーリング球を落とされて、ぐりぐり拗じられている様だ。

 でも離さない。

 この体勢ならヤマネコは踏ん張りもきかない。空中に4本足を投げ出して激しく宙を掻いている。

 頭に血が上って何がなんだかわからない。

 ヤマネコを逃がさない。そして、締め上げる。あの子を助けなければ。

 単純な動作と動機に全ての神経が集中する。


 ・


 どれだけ経ったか分からない。

 弱々しく宙を掻いていたヤマネコの前足が痙攣し、そして止まった。

 それを確認してもなお、腕を外す事ができなかった。

 怖かった。まだ生きているんじゃないだろうか。

 外した途端に襲われてしまうんじゃないだろうか。

 ヤマネコが動かなくなった後も、たっぷり時間をかけて、首を締め続けた。


 それからしばらくして、ゆっくりと、ヤマネコの下から這い出した。

 ヤマネコは目を見開き、口を半開きしていた。恐ろしい顔だ。

 5歳児が泣きながら僕にしがみついてきた。

 良かった助かったんだ。

 僕は膝から崩れ落ちた。

「心配かけやがって」

 カラカラの喉から言葉をひねり出すと、5歳児はさらに泣いた。

 

 ・


 5歳児がナイフを持っていたので、それでヤマネコの首を切った。

 動脈がどこか分からなかったので大雑把に大きな傷を付けたら、凄い量の血液が溢れだしてきて焦った。

 まだ生きているかもしれないと思った。

 このままにしておくのが怖くて、とどめらしいとどめを刺した。


 5歳児は、やはり罠を見に森へ入ったらしい。

 何でヤマネコに襲われたかは分からないそうだ。

 ヤマネコは何だか興奮していた様にも見える。いったいどうしたというのか。縄張りに入ってしまったのだろうか。

 あのグータラなオスライオンだって、縄張りに入られると本気出すって話だし。


 5歳時はもう泣き止んでいた。それどころか、ヤマネコの腹をナイフで割いていた。

 内臓を取り出している。凄いな。僕も憶えないと。

 5歳時の横に並んで、内臓を取り出す様子を見ていた。

 肛門辺りを切り裂いて……

「ミチザネ、これ引っ張ってー」

 と、直腸? を握らされる。子どもの力じゃ無理なんだろう。ここはお兄さんが頑張らないと。

 力を入れると腕が震えた。裸絞に全力を出し尽くしていたらしい。恥ずかしながら5歳時と協力して引き抜いた。

 こうやって内臓を取り出すのか。

 獲物を獲ると、森でも村でも解体はやっていた。

 僕も解体を憶えようとしていたが、グロがキツくてあまり見ていられなかった。やっぱり、これから参加するようにしよう。5歳児ですら憶えている。


 しばらくして、胃や腸を取り除けた。

 本当は穴を掘って埋めなければならないらしいが、それは勘弁してほしい。握力が限界だ。

 心臓や肝臓は残っているらしい。僕には全くわからない。

「はい、ミチザネ担いて」

 と言われた。

 僕はもう少し頑張らなければならない様だ。


 ・


 5歳児の言う通り、両肩を通して担ぐと結構上手く担げた。内臓が抜けて少し軽くなっているが、それでも10kgは超えていると思う。

 枝葉の隙間から見える空は赤く染まっていた。

 早く帰らないと暗くなってしまう。 

 来た道を真っ直ぐ帰る。

「ミチザネおそーい。暗くなっちゃうよ?」

 あんなに泣いてたくせにもう笑ってやがる。

 泣いているよりは笑っている方がいい。


 そういえば、

「名前なんだっけ?」

 この子の名前を聞いておかなければ。

「ぼく? ぼく名前無いよ?」

「は?」

「いつもは『ヤギの睾丸』とか、この前『残飯』って呼ばれた」

 あれ? 今度は僕が泣きそうなんだけど。

 ネグレクト? 児童虐待?

 ちょっとこれは家庭訪問が必要ですかね。

 おい、とか、お前、で呼んでいた僕もたいがいだが、流石に『ヤギの睾丸』は無い。


 と、村の人達の声が聞こえてきた。

 何を言っているのか分からないが、この子を探している様だ。

 僕の翻訳魔法は相手を認識しないと使えない。背後から子供達に声をかけられると、知らない言葉でびっくりする。認識していれば後ろから呼びかけられても平気なのだが。どうしてだろうか。

 そして、認識していないと僕の言葉も通じないのだ。

 5歳時に言って、代わりに返事をしてもらう。

 慌てた声と草を掻き分ける音がそこらじゅうから聞こえてきた。

 良かった。


 男たちが口々に無事を確認してくる。

 擦り傷とか多いが特に大変な怪我はしていない。

 顔を枝で切ったけど、顔の傷は自分では見れないので男達に確認してもらった。大したこと無いらしい。

 一応家に帰って夜にでも月明かりで水鏡を覗いてみよう。

 5歳児がだいぶ絞られていたので、やめさせた。

「この子は僕が十分叱っておきましたから。ほら、ヤマネコの解体もやらせたんです。罰としてね!」

 と言って、なんとか周りの男たちをなだめた。怖い怖い。皆僕よりかなりデカイしイカツイ。

 僕の言葉に渋々ながらも引いてくれた。

 あんなに泣き叫んでいた子供をこれ以上怖がらせる必要は無い。危険な事は分かってくれただろう。後は僕が罠の実物を作って見せればいいだけだ。

 男達がヤマネコも代わりに持ってくれた。僕の腕も足も限界だった。乳酸が詰まっている。体が重い。

「またヤマネコかよ」

「しかもこいつはオトナだぜ」

「罠にかかっていたのか?」

「違うよーミチザネが倒したんだよー」

「本当か?」

「え? まぁ、はい」

「首ぐらいしか傷がねぇぞ。ナイフでやったのか?」

「いえ。恥ずかしながら、急いで飛び出してしまって武器になる様なものは持って無かったんで。素手で」

「は…… 本当か?」

「そうだよーミチザネが、こう、ぎゅーってやって、ヤマネコ倒したんだよ」

「凄まじいなお前」

 若干周りが引いていた。格闘技とか一般的じゃないんだろうか? いや、武器の携帯が普通の場所じゃ素手で相手に掴みかかるなんてそうそうある事じゃないか。しかも獣相手に。

 今更になって自分の軽率さに気付く。

 上手く背中に飛び付けたが、あの時、いや、あの後でも体勢が入れ替わっていたら、首に食い付かれてヤバかったかもしれない。

 せめて棍棒になりそうな木でも拾っておくんだった。

 運が良かった。

 やっぱり幸運補正かかっているんじゃないだろうか。


 さて、問題の『ヤギの睾丸』だが。

 どうやら本当に名前が無かったらしい。

 彼らの一族は、例の7歳のお祝いまでは名前を付けない。そういうわけで、それまでは子供達を適当に呼んでいる。

 わざと酷い名前にするのは病魔を退けるためらしい。

 地球でも、モンゴルや、日本ではアイヌにも同じ様な習慣があった。

 児童虐待ではなかったのか。

『ヤギの睾丸』がにっこり笑った。


 ・


 村に帰ってくると、ラーテにぶん殴られた。

 当たり前だよね。心配かけた。

 いつもと変わらない様に見えるラーテの表情も、最近は少し分かる様になってきた。

 確かに心配そうな顔をしていた。

「心配かけてごめん」

 と僕が謝ると、ラーテは舌打ちで返した。

 それから僕の手を引いて、家の前まで連れてきた。

「顔を洗っていろ」

 とラーテに言われて、水桶でバシャバシャと顔を洗う。手が血だらけになった。手の擦り傷からも出血しているが、顔の傷が思ったより酷いのかも。

 ラーテは何か噛みながら帰ってきた。手には乾燥した葉っぱが握られている。

 べっ、と噛んでいたモノを手に吐いて、僕の顔に塗りつけてきた。

「なにこれ」

「薬草だ。動くな」

 言われるまま、顔の怪我の治療を受けた。

 ラーテの顔が近い。相変わらず心配そうな顔をしていた。

 たまらず、

「心配かけてごめんね」

 と、また謝った。

 そしたらさっきと同じように、また舌打ちで返された。

 

 ・


 ラーテと一緒に広場へ行くと皆集まっていた。

 特に『ヤギの睾丸』の母親は息子にすがりついて泣いていた。

 うっかりもらい泣きしそうになった。

 ヤマネコの死体は解体されていた。手早いな。

「お前さんまたヤマネコを狩ってきたそうじゃな。しかも今度は素手で」

「ははは…… 成り行きですよ」

「ウサギにも殺されそうな奴じゃが、ヤマネコを素手で殺してしまうとはのう」

 村長の言葉に周りが若干引いていた。

 待ってよ。ナニコレやめてよ。ちょっと悲しい。

 母親から離れて、『ヤギの睾丸』が僕にまとわりついてきた。それにつられて、他の子供達も僕にまとわりついてくる。

「うぐっ、みぢざで、うざぎにごろざれぢゃっだんじゃないがってぇ」

 泣いてる子もいる。ウサギに殺されるのを心配していたのか? 心配してくれていたのは嬉しいけどちょっと悲しいぞ。

「まったく、お前さんは子供に好かれておるのう」

「ははは…… 何でなんでしょうねぇ」

 ずいっ、とラーテが近くに来た。

「ミチザネ、お前本当にヤマネコを素手で倒したのか? 罠ではなく?」

「え? うん。そうだね。少しだけ魔法も使ったけどさ」

 そう。僕はあの時魔法を使った。使っていたのだ。

「そうか……」

 それだけ言って、ラーテは下がった。

「今日はミチザネの武勇を祝うぞ」

 と、村長の音頭に広場がわいた。特に男達が。

 酒飲む気だな。


 他の獲物も持ち寄って、宴会が始まった。

 そんな、宴会をする程の事かとも思ったけど、これは村長の考えなのかもしれない。

 子供が行方不明。村はそのストレスの中にあったのだ。森の中を探索する男達も、村で待つ女達も、かなりの心労があったはずだ。

 それを晴らすための宴会なのかもしれない。

 村長あれでやり手だな。


 ・


「ほう。とうとう土魔法が発現したのか」

「はい。お陰でなんとかなりました」

「ならばあのヤマネコは土魔法で倒したのか?」

「いえ、転ばせるだけで精一杯でした」

「お前さん、土魔法の才能は凄かったはずじゃが」

「そうなんですけどね…… 転ばせるのが精一杯でしたよ」

 村長が僕を可哀想な物を見る目で見つめてくる。


 あの時、ヤマネコが転けた辺りの地面を見ると、土が盛り上がっていた。

 ただ地面が盛り上がっているだけかとも思ったが、それは多分無いだろう。

 地面の盛り上がりは四角柱だった。自然にこんな形ができたとは考えにくい。

 高さ15cmほどのそれが、ヤマネコの足を引っ掛けたのだ。

 もし飛び越えられていたらアウトだった。ホントに運がいい。


「兄弟! ほら、飲め飲め!」

「怪我してる時に酒飲むと怪我が酷くなる体質なんです。すみません」

「そうか! 仕方ねぇな。兄弟の分も俺が飲んでやるぜ!」

 女達は少し離れた所で子供達と一緒に食事をしている。

 ラーテがヤマネコの肉を齧っていた。

 一瞬目が合ったが、すぐにそらされた。

 2つ月の夜だ。

 少し遠いが、ラーテの表情が見える。

 喜んでくれているのは分かった。

 

 ・


 ミチザネが帰ってきた。

 私がどれほど心配したと思っているのか。

 ヘラヘラしていたので殴ってしまった。


 ミチザネは顔を怪我していた。

 体力も無いくせに無理をするからこうなる。

 枝で顔を切ってしまったらしい。

 薬草を付けておいた。少し傷跡は残るかもしれないが、明日には塞がっているだろう。


 ヤマネコを素手で倒したらしい。

 私の耳がおかしくなったんだろうか。

 素手で?

 ミチザネは魔法を使ったと言っていたが、あいつの魔法が大したことないのはよく知っている。

 転ばせたと言っていたので、驚かせる程度だったんだろう。

 にもかかわらず、ヤマネコを倒してしまった。

 こんなに大きな獣を素手で。

 元々よくわからない男だったが、さらによく分からなくなった。

 ミチザネは一体何者なんだ?


 だが、分かった事もある。

 どうやらミチザネは私の事が好きらしいという事だ。

 他の大人や子供達の冗談だと思っていたのだが、本当だったらしい。

 傷の手当をしている時になんとなく分かった。錯覚では無いと思う。

 夫婦というものは、結婚してからそういう気持ちが芽生えるものだと聞いていた。それにミチザネは外国人だし、親や村長が結婚相手を決める風習は無かったそうだ。

 何で私のようなガサツな女を好きになるのか。自分で言うのもなんだが、あいつ頭おかしいんじゃないだろうか。


 私がヤマネコの肉をかじっていると、ミチザネがこっちを見ていた。

 なんだか恥ずかしくなったので、知らん振りしておいた。

 あの目だ。

 何か遠くを見ているような、しかし、はっきり何かを見ている様な。


 ふと、やっぱりミチザネは英雄なんじゃないかと思った。

 どうしてそう思ったのか。そんなわけない。

 でも…… もしかして……


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