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端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
森の民の村

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163/165

15

 ネルを拾って手綱を握ったシャイディーンは、指示されるままに馬車を走らせた。


 国境を越えて隣国に抜けた後は、そのまま港町へ向かい船に乗る。

 その際、馬車は港町で売り払われ、船賃へと変わった。

 途中、時化に見舞われて軽い船酔いにかかった以外はさして問題もなくオーレンジ連合へと到着する。


「てっきりフラフラ放浪でもするのかと思ってたけど、まっすぐ帰るんだな」

 レッドフォード王国での滞在中は、時間を見つけては町をふらついていたネルを見ていたシャイディーンは不思議そうに首を傾げた。

 宿の食堂で晩酌のワインを楽しんでいたネルが、そんなシャイディーンを鼻で笑う。


「当然じゃろう。検体も大量にゲットできたし、検証するなら村の設備が一番充実しとるんじゃから、さっさと帰るにきまっとる。追加の情報や現地の検証結果は残したトマから随時送られてくるじゃろうしのう」

「うわ。あくどい笑顔だな」

 嫌なものを見たとばかりに顔をしかめて、シャイディーンは自分もワインを煽る。

 その豪快な飲みっぷりを眺めていたネルが、ふと思いついたように口を開いた。


「そういえばお主、義手が欲しいと繰り返していたが、どの程度のものが欲しいんじゃ?」

「どの程度って、そりゃあ、理想は元の通り剣が振るえるくらいだな」

 空になったグラスを再びワインで満たしながら、シャイディーンは当然のように答えた。


「見た目にこだわりは無いんかのう?」

「見た目~~??」

「そうじゃ。本物そっくりにしてほしいとか」

「どっちかというと素材に金属でも使って頑丈に作ってもらいたいくらいだね」

 なみなみと注いだワインをこぼさないように口に運びながら、シャイディーンはあの日の事を思い出す。





 出撃当初、シャイディーンの所属する部隊は優勢だった。

 防衛に重きを置いていたこともあり、砦を背にしていたことも強みだった。

 さらに、護るだけでなく、少しずつではあるが敵国側に相手を押し返し、自軍の陣地を増やしてさえいたのだ。

 それが、白銀に輝く派手な全身鎧を身に着けた騎士が率いる一団が、戦場に姿を現した瞬間から一気に崩されていった。

 

 揃いの黒い鎧を身に着けたわずか30騎ほどのその軍勢は、槍を突き刺されようと剣で切り付けられ血を流そうと一向にひるむことなく突進してきた。

 中には足を潰されて背中にはハリネズミのように矢が突き刺さっているのに、這いずりながら前に進もうとしている騎士もいたほどだ。

 あきらかに体は死に瀕しているのに、それでも瞳からギラギラした光が消えることなく、最後の瞬間まで戦い続けるその姿は、明らかに狂気を宿していた。


 あまりに異様な光景に味方はひるんで、無意識のうちに一歩後ろへと下がってしまう。

 結果、その隙をつかれてしまった。

 手下の切りひらいた血路を一直線に駆け抜けた白銀の騎士に、自軍の前線司令官を討ち取られてしまったのだ。

 その帰り道で、ついでのようにシャイディーンの腕は刈り取られた。


(来ると分かっていたのに、避けられなかったのは初めてだったな)

 腕を犠牲にかろうじて庇った部下と自分の命だけは守る事ができたけれど、それを誇ることはできない。守れた以上に、たくさんの命が散ってしまったのだから。


 指揮官を無くした事で防衛陣に穴が開き、そこからはあっという間に陣が崩れて敗走することになる。

 戦闘を繰り返すうちに、砦から遠く離れてしまっていたのも失敗だった。

 思えば、調子よく押し返していたのも、敵に誘い出されていただけだったのだろう。

 どうにか総大将であるディノアークを守りながら砦へと撤退していたが、守り切れずひどい傷を負わせてしまった。


 駆け付けた援軍に後を任せて、治療のために戦線を離脱したが、シャイディーン自身も血を失い過ぎて最後の方は記憶にない。

 さらに、生死をさ迷うディノアークの命を守るために呼び出した主君の最愛(レイアース)まで失う羽目になった。


 レッドフォード王国と同盟を結んだことで、かろうじて国を守ることはできたけれど、あれは明らかに負け戦だった。






「見た目にこだわって、また腕を切り落とされるのはごめんだぜ」

 吐き捨てたシャイディーンの語気の強さに、ネルは目を細めた。

「ふーん。……そうじゃな。頑丈さは分からんが、自分の思い通りに動く義手とやらなら、心当たりはあるぞい」

 こちらはちびちびとグラスを傾けているネルの口元がニンマリと吊り上げられた。


「まだ試験段階じゃから、物になるかは分からんが、試してみるか?今のところ、人間での成功例はないみたいじゃがの」

「失敗したら死ぬのか?」

「命まで落とした人間は居ないのう。義手をつなぐ際、ひどい痛みが続くようで、みんな音をあげて逃げ出したんじゃ」

「……あえて人間って言い方してるのが嫌な感じだな」

 ニヤニヤ笑っているネルに、シャイディーンが眉をしかめる。


「いい勘じゃなあ。実験に使われた動物は、ほとんどが発狂して自傷行為の果てに命を落としたわい」

「ハッ! とんだ問題物じゃねぇか」

「じゃが、生き残った動物は、その装具を元の手足のように自在に操ってみせたぞ?」

「………マジか?」

 疑うような視線を投げかけるシャイディーンに、ネルはそこだけは真剣な顔でコクリと頷いた。


「まぁ、無理強いはせん。今までの義手でもお前さんが知る物よりは高性能じゃろうて。興味があるなら、紹介はしてやるから話を聞いてみたらいい。向こうも被験者は大歓迎じゃろうからのう」

 最後の一口をおいしそうに飲み干して、ネルはさっさと席を立った。

 一人残されたシャイディーンは苦虫をかみつぶしたかのような顔でしばらくその場から動かなかったが、次の日からも変わらず御者台へと座り続けたのだった。


 そうして、無事に村の近くまでたどり着いたシャイディーンは、ネルに一服盛られ、気がついたら村の中へと運び込まれていた。

「血族以外の人間を初めて村へ招く時のお約束じゃ」

 悪びれる事なく笑ったネルは、約束通り、義手の研究者に引き合わせてくれた。


「ぼくはユースティ。君が噂の人間被験者3号だね~。よろしく~」

 まるで鳥の巣のようなもしゃもしゃ頭の持ち主は、陽気な声で名乗ると手を差し出してきた。

「シャイディーンだ。とりあえず、どういったものか話を聞かせてくれ」

 既に決まった事のような言葉に、引きつった笑顔を浮かべながらも握手をするために手を伸ばしたシャイディーンだったが、ユースティはその手を掴むとすぐさま袖をまくりペタペタと腕全体を触ってきた。


「うん。鍛えられたいい腕だね~。この大きさなら、前の被験者に使ったものを改良すれば再利用できそうだ。あ、中古品とか気を悪くしないでね~。何しろ素材がなかなか手に入らない貴重品だから、使えるものは使いたいんだよね~」

 ペラペラとしゃべりながら、今度は失われた右腕にも触れてきた。


「ちょっとごめんね~。ああ、肘下7センチくらいか~。もう少し残ってた方が接合に都合が良かったんだけどな~。まぁ、肘が残ってるだけでも僥倖かな~?前の人は肩先から無かったからね~。どうも関節が増えるほど痛みが強いみたいだから~、これなら少しは我慢できるんじゃないかな?」

 ユースティの突然の暴走に、抵抗することも忘れてポカンとしていたシャイディーンは、袖をまくるどころかシャツをはぎ取られそうになってようやく我に返った。


「ちょっと待て!勢いがすごい!というか、早口すぎて何を言ってるのか良く分からん」

 体ごと引きはがすように後ろに下がると、シャイディーンは牽制するように大声をあげた。

 ユースティは逃げられて空になった手をパタパタと振った。


「あぁ、ごめんね~。ようやく被験者が現われて実験が再開できると思ったら興奮しちゃった~」

 ユースティは、まるで子供のような無邪気な笑顔でニコリと笑う。言っている言葉は無邪気には程遠かったけれど……。


「どういったものかの説明だったね~。とりあえず、現物を見せるよ~」

 そう言って連れていかれたのは、獣舎だった。

 いくつかのエリアに分けられて小さな小屋が並び、いろいろな動物が飼育されていた。


「ラック!おいで~。君のお仲間予定の人が来たよ~」

 ユースティがその小屋の一つに入り奥へ呼びかけると、チャカチャカと軽い足音と共に一匹の犬が駆け寄ってきた。

「そいつは……」

 茶色の長い毛並みを持った中型犬の前右足と後ろ足が二本とも、明らかに木製の義足だったのだ。

 不思議なことにベルトなどはなく、犬の体に木製のつるんとした義足が生えているようにしか見えなかった。


「君の先輩、ラック君だよ~。ラック、お座り!」

 カチャカチャと音をたてながら、犬は足を折り曲げ、ちょこんと座ってみせた。

「おて!おかわり!ふせ!」

 ユースティの号令に合わせて、犬はチャカチャカと動く。

「ごろん」

 最後に腹を見せて転がった犬の足をユースティは握ってみせた。


「指の関節や爪まで再現するの大変だったよ~。苦労したかいがあって、スムーズに動かせるけどね~。触ってみる?」

 促されて、シャイディーンは呆然としたまま犬の足をそっと握ってみた。


「すげぇ、細かいな」

 爪の先まで精巧に作られている足は、しかし、あきらかに木製と分かる固い感触だった。当然体温などもない。


 初めてみる人間が怖かったのか、犬は、おびえたようにびくりと足を引いてシャイディーンの手から逃げた。

 その動きは滑らかで、まるで本物の足のようだった。


「マジか……」

 シャイディーンは、自分の見ているものが信じられないように、何度も瞬きをした。

 再び手を伸ばすが、犬は飛び上がるように起き上がると、ユースティの後ろへと逃げてしまう。


「義足に使われている材料は、特殊な寄生植物の一種でね~。宿主を操って、自分の成長に都合のいい環境へと移動させて~、最後は宿主を養分に新たな場所で地面に根を張り成長するんだよ~。なかなか面白いでしょ~?つまり何らかの手段をもって~、相手を動かしてるってことなんだよね~。その回路を逆に利用して~、こちらの意思で植物の方を動かせないかと思ったのが始まりでね~」


 はじまった解説は専門的な言葉が多く、シャイディーンにはほとんど理解できなかった。

 それでも、目の前で自由に駆け回っている(ラック)の姿だけで、シャイディーンには十分だった。


「つまり死にそうな痛みに耐える事さえできれば、俺はあの犬みたいに手を取り戻す事ができるってことだな?」

「おおむねそんな感じ~」

 長い話を遮ったシャイディーンに気を悪くすることもなく、ユースティは笑顔で頷くと親指を立てた。


「ヤベェな。伝説の一族なら、俺の希望を叶える義手があるんじゃないかとは思っていたが、想像以上だわ」

 シャイディーンは小さな声でつぶやくと、しばらくの間無言で考え込んだ。


 そんなシャイディーンを放っておいて、ユースティーはラックとボールで遊び始めた。

 するとそんなユースティの肩に、上の方から猫が一匹飛び降りてきた。

 小屋の梁の上に潜んでいたのだ。


「おや、知らない人がいるのに出てくるなんて珍しいね、お嬢」

 グルグルと喉を鳴らしながら頭を擦りつけてくる猫に、ユースティはくすぐったそうに笑う。

 お嬢と呼ばれた猫は、チラリと考えこんでいるシャイディーの方に視線を投げた。


「フフフ。君たちの後輩になるかもしれない人が気になる~?」

「ニャーン」

 猫は返事をした後、トンっと軽い動作でシャイディーンの肩へと飛んだ。

 突然、肩へとネコが飛び乗られたシャイディーンが、我に返る。


「その子が、この実験の成功例第一号だよ~。どこが装具か分かる~?」

「どこって」

 肩に乗っていた猫を抱きとると、シャイディーンはまじまじと観察した。

 全身が滑らかな毛皮に覆われており、動きもしなやかだ。

 抱かれているのは嫌なのか、するりと腕から逃げ出した猫はグルグルと喉を鳴らしながら体をシャイディーンの足に擦りつけている。


「正解は尻尾だよ~」

 首を傾げるシャイディーンに、ユースティが笑いながら種明かしをした。

「木で作った尻尾を、毛皮でコーティングしたんだよ~。もともとの毛皮を使ったから、分からないでしょ~?お手入れはちょっと大変なんだけどね~」

 しなやかに動く長い尻尾が、くるりとシャイディーンの足に巻きついては離れていく。

 まるで自慢しているような動きに、シャイディーンは目を丸くした。

「ラックは実用性重視。お嬢が見た目重視。どっちも一長一短あるけど~、とりあえず自由に動かせるようになるまでは微調整もあるしむき出しのままがお勧めかな~」

 尻尾を触ろうとして威嚇されているシャイディーンに笑いながら、ユースティはコテリと首を傾げてみせた。


「さて、君は自分の腕を取り戻すための実験に参加する~?それとも、やめとく~?」


お読みくださり、ありがとうございました。


今回の主人公はシャイディーンでした。

爺ちゃんとおっさんの二人旅、なんだか楽しそうですよね。

そして、ちょっとユースティ君が、取引持ち掛ける悪魔っぽく感じたのは私だけでしょうか?


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