始まり2
「あ、台風ほどじゃないか。」
ジンが、もどかしそうに回っていたが
「主殿、先に参る。」
目標位置に向かって飛んでいく。
「ジン、頼む。」
ここからなら、ジンは1-2秒で魔法を発動した正体を確認できる。
僕も少し大きなカラスに擬態して、ジンの向かった先に滑空する。
「タシーム、タブレット持ってきて!」
シルフィアも、タシームの中に潜り込んでいた。
もう到着したのか、ジンの焦った声が聞こえた。
「おそらく少女が魔法使い、襲われております主殿。
介入しますか?」
「もう着く!」
この辺りは大規模な開発が予定されていたが、結局何年も宙づりで、廃ビルが集まっている場所だった。
昼間は格安で賃貸されるために、ちょっと怪しいオフィスが何軒か入っている。
だから夜になると、ほとんど人けが無い。
そんな場所の裏路地は、ゴミや不法投棄に都合がいい。
足音をさせないように降り立つと、二人が見えた。
120キロはありそうな巨漢のサラリーマン風の男が、壁でビール瓶の底を砕いた。
ゴミの散らばった一番奥に、僕と年は変わらない女の子が倒れこんだ体制から、四つん這いに、そして顔だけ振りかえって恐怖におびえた顔で男を見た。
「このアマー!」
ビール瓶が、情け容赦なく振り下ろされる瞬間。
僕は唇が切れそうなくらいの声で叫んだ。
「フリーズ!!」
いつも、すごく冷静なんだけどね。
追いついたタシームとシルフィアが背後に降り立った。
「あ、ちょっとフラッとしてる。」
シルフィアが楽しそうにつぶやいた。
巨漢の男が地面から5cmくらいの位置で、表面だけ凍って止まってる。
女の子は男が叫んで、振りかざした時に観念したのか、目を閉じて震えていた。
一応、紳士の心得は学んだので、女性に対しての気遣いはあるんだけど、つい四つん這いの、お尻に目が
「パンツ履いてないの?」
女の子が目を開けて、僕を見た。
タシームが、タブレットを僕に渡すと、細かい霧のようになって、女の子を助け起こした。
普通、第一声に、ありがとうくらい言うよね?
「アンタ、誰よ?!」
僕は初めて出会った少女に怒鳴られた。