表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Scare Crow  作者: 大藪鴻大
9/48

雀 3

 これ、読んでくれている人っているのだろうか。そう不安に感じ始めたこの頃、どうやら読んでくれた足跡らしきものを発見しました。

 読んでくださっている方、ありがとうございます。これからも拙い物語ですが、投稿していきたいと思います。最後まで、温かい目で見守ってくださると幸いです。

 また、気が向いた方はどしどし感想や意見をください。それなりの対応ができると思います。よろしくお願いします。

 俺はデパートの一角にある洋服店にいた。平日の昼過ぎだからなのか、デパートを歩く人々の年齢層が偏っているようだ。その中で、四十代の男と若い女性の組み合わせは目立つのか、通り過ぎる四十過ぎの女性たちが、じろじろと観察してくる。俺と視線が合うと目を逸らすのは、きっと俺の仕事とは関係ないのだろう。

 今、俺の目の前には女性服が並ぶ。そして、目の前にはそれを選ぶ少女がいる。

「ねえねえ。これ、どうかな。」

 少女は服を一つ取りだすと自分の体の前に当て、俺に見せる。似合ってるんじゃないか、と適当に返事をする。

 

 なぜ俺がこんなところにいるのか。話は二、三時間前に遡る。少女と一緒にファミリーレストランを出たとき、少女が口を開いた。

「雀さん、このあと暇?」

「夜に依頼がある。」

 俺がそう言うと少女は目を輝かせ、妙な馴れ馴れしさで俺の腕にまとわりつく。

「じゃあさ、付き合ってくれない?」

 やけに大人びた声を発する。男性を誘惑する、女性特有のあの声だ。

「嫌だと言ったら?」

 少女が俺の腕から離れ、微笑みかける。人を魅了する笑顔というよりは、人を脅迫する笑顔だった。

「そんなこと言っていいのかなあ。君の仕事の成功失敗は私の気分次第なんだから。私のご機嫌とっておいた方がいいと思うけどなあ。」

 俺は肩をすくめる。やはり、そうそうに縁を切った方がいいのではないだろうか。そのうち、とんでもない条件を突きつけてきそうな予感がしてならない。

「分かった。俺が悪かったよ。付き合うよ。」

 俺がそう言うと、少女はまた俺の腕にまとわりついてきた。

「私とデートができるなんて、雀さんって幸せ者なんですね。」

 

 四十のおじさんとデートということもないだろう。どちらかというと、娘の買い物につきあうお父さんと言った方が近い。いや、こんな大人の娘の買い物に付き合うお父さんなど、この国にはそんなにいないだろう。ということは、やはりデートか。

「ねえ、これとさっきのだとどっちがいい。」

 少女が別の服を取り出し、身体に当てている。違いがよく分からない。何と言えばいいのか、分からない。

「何と言えばいいのか、分からない。」

 少女は身体に当てていた服を元の位置に戻した後、肩をすくめる。

「君、女の子とデートしたことないの?」

「ないな。」

 俺の発言に不快感を示すと思われた少女は、意外にも笑った。

「そりゃ、そうだよね。私たちにそんなこと、出来ないよね。」

 確かに少女の顔は笑っていた。しかし、目が笑っていなかった。どこか遠くを見つめているような、去りゆく誰かを見送るような目をしていた。何か言葉をかけようと口を開こうとするが、何も思い浮かばず、そのまま口を閉じる。俺は、少女の機嫌を取るためではないのだが、目にとまった白いワンピースを手に取る。

「これなんか、いいんじゃないか。」

 俺は少女の身体に白いワンピースを当てる。少女は俺の顔を見ると、不服そうに眉間にしわを寄せる。

「君の目どうなってんのよ?今、私が何着てるか、分かってるの?」

 分かっている。少女は白いワンピースを着ている。俺はその無地の白いワンピースの上に、ほとんど同じような白いワンピースを重ねている。

「おまえは白が似合うからな。白という色はどんな色を組み合わせても作ることができない。逆に、黒は全ての色を混ぜれば簡単につくれる。」

 少女は、しばらく俺の手に握られた白いワンピースを見つめていた。見つめたまま体が震えていた。泣いているのか?そう思ったのは一瞬で、次の瞬間には笑い声が聞こえた。

「あのね、そんなこと言うんだったら赤と青と黄色だってそうでしょ。だって、その三つは三原色なんだから。中途半端な知識を披露してもらいたくないよね。」

 少女の笑いは止まらない。俺も笑う。苦笑いだ。

「――――う。」

「なに?」

 俺が聞き返す前に、少女は白いワンピースをレジに持って行った。店員が少女の着ている服と持っている服を見比べ、訝しげな顔をする。やはり変か、と俺は思う。しかし、よくよく考えてみると、同じような服を買うからといって、おかしいということもないのではないか?

金額がレジに出る。なぜ、何の装飾もない服にそんな値段がつくんだ、と思わざるを得ない値段だった。

「それじゃあ、よろしく。」

「は?」

「デートの基本知ってる?女の子が買って男の子が払うんだよ。」

 女の子が勝って、男の子が恨む。そう聞こえたのは気のせいだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ