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Scare Crow  作者: 大藪鴻大
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鳩 16

 ようやく、ここまで来ました。あと三話で、この物語はおしまいです。クライマックスということで、前書きは短めにします。みなさん、最後まで「Scare Crow」をお楽しみください。

 その場にいた人間の動きが止まった。まるで、カメラのシャッターを切った瞬間のような静止があった。見下したような、勝ち誇ったような笑みを浮かべたまま、八代が膝から崩れ落ちる。膝をつくと同時に八代の表情が消え、上半身が倒れている間、苦痛の表情を浮かべていた。八代が倒れるにつれ、カーテンを徐々に開けるように黒コートの人物の姿が見えてきた。その人物はフードをかぶっており、その顔は認識できなかった。

 ワンテンポ遅れて、八代の部下が狙いを俺からその男に変えた。銃を構えたときには、男はもうそこにはいなかった。代わりに、また一人呻き声をあげて崩れていった。乾いた音が二、三回鳴ったかと思うと、また八代の部下が二、三人倒れていった。

 黒コートの男の動きは素早く、その姿を目で捉えることは困難だった。興奮しているのか、八代の部下たちが何か叫びながら応戦している。

 一体何が起きている?その戦いの結末を見届けたいという思いもあったが、黒コートの人物が味方であるという保証はどこにもない。偶然、男の視界に俺が入っていないだけかもしれない。男が勢い良く振り返ったとき、胸元に十字架のネックレスが二つ見えた。

 手摺りに乗っかっている小さな鳥を見る。「東京特許許可局」と鳴いた鳥は、もう鳴くことなく、小さく首を傾けていた。

「来てくれたのはうれしいけどよ。」

 俺はつまらないと思いながらも指摘せざるを得ない。

「それはウグイスだろ、おっさん。」

 俺は手摺りを乗り越える。手摺りを乗り越えただけなのに、そこから見える景色は、手摺りを超える前とずいぶん異なるように見えた。世界が広がって見えた。その広がった世界を抱きかかえるかのように、俺は両手を広げる。

 自らの鼓動と呼吸を合わせ、カウントをする。カウントがゼロを迎えると同時に、重心を前に移動させ、落下を始める。鳥も、それに合わせて飛び立った。

 周囲の景色の流れが加速すると、まるで時間を遡るかのように、一日前の記憶が鮮明に蘇ってきた。


「なあ。結局、人は空を飛べるようになったのか?」

 月の光だけが照らすアクアブルーの部屋の中、俺は郭公のおっさんに尋ねた。郭公のおっさんは寝ていたわけではないのだろうか、返答するのにしばらく時間がかかった。

「どういう意味だ?」

「いや、飛行機だのロケットだの、空を飛ぶ方法っていろいろあるだろ。一応、空は飛べるようにはなったんだよな。けどよ。それって、空を飛ぶっていうか、空を移動するようなもんだろ。どうも、空を飛んだとは認めたくないんだよな。」

「ハングライダーとかでも、ダメなのか?」

 郭公のおっさんが目尻に皺をよせながら尋ねる。まるで、孫の悩みを一緒に考えるおじいさんのような表情だった。ハングライダーか。考えてなかったな。

「でも、それって、カッコよく落ちているだけだろ?空を飛んでいるって言わねえんじゃねえの?やっぱ、自分の力で飛ばなきゃさ。」

 確かにな、と郭公のおっさんはつぶやく。

「申し訳ないな。」

 郭公のおっさんはどこか別の場所に視線を移し、本当に申し訳なさそうにつぶやいた。赤ん坊の寝息が微かに聞こえてきた。



 空を飛んだのはわずか一秒ほどのことだった。十階の高さだと、それが限界だった。すぐさま紐を引っ張り、パラシュートを開く。パラシュートが開くのと同時に、上から降ってくる爆破の音が耳を貫いた。上に引っ張られ、落下の速度が情けないほどゆっくりになる。割れたガラスの破片が、横を加速しながら地面に落下していく。鳥の落とした羽のような速度で、地面に着地する。狭い路地だったおかげか、そこに人影はなかった。

 リュックサックを下ろす。加速しながら地面に向かって落下するイメージを持っていた俺は、その緊張感のない速度に少し落胆した。カッコよく落ちるどころか、ただ舞い降りただけだ。

 上を見上げる。どうやら、八代のオフィスのある階から黒煙が立ち上っているようだ。

「生きていたのかよ、雀。」

 安堵したわけでもないのだろうが、全身の力が抜けそうになる。爆発に気が付いたのか、消防車とパトカーのサイレンが遠くから聞こえてくる。俺は力が抜けそうになる足を踏ん張る。ビルを見上げる野次馬たちの目を盗み、すぐさまその場を離れた。

 大通りを二つほど越えると、公園が見えた。あの、桜が好きな老婆とヒマワリ好きの少女がいた公園だ。俺はその公園に入り、そのとき座っていたベンチに座る。砂場にはどこかの雪まつりの雪像のような立派な城が佇んでいた。砂上の楼閣という言葉を聞いたことがあるが、その城はそう簡単には崩れなさそうだった。

 あの赤ん坊はどうなっただろうか。運び屋に預けたのはよかったが、ちゃんと運んでくれるだろうか。

 疲れがたまっていたのか、俺は横になると、瞼が自然に落ちた。深く深く、冷たい闇の底に沈んでいった。


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