※第21話 ギルドと初〇〇 ⑥
「なっ!?嘘だろ!?そいつAランクの魔物の筈だぞ!?」
後退していた冒険者達が驚きの声を上げる。
『グルルルッ!!』
冒険者達の声に反応するかのように熊に似たような魔物は怒りの声を上げながら立ち上がった。
三メートルはありそうな魔物の巨体は、あたしが蹴とばした所為で真っ黒だった毛皮は冒険者の血と泥などで汚れている。
毛皮のお陰なのかダメージは思ったよりも受けていないらしく質の悪いガラス玉のような赤黒い眼が怒りの所為なのかギラギラと輝いているように見えた。
「「ひっ…」」
冒険者達の方から上がった声を合図にしたかのように熊に似たような魔物はグッ…と身体に力を溜めたかと思うと先程の比では無い速さであたしに迫ってきた。
振り上げられた丸太のように太い腕。
「さっきと一緒とかワンパターン過ぎじゃないっ?」
首を刎ねられた冒険者の血が付着したままの鋭い漆黒の爪を刀で弾き、あたしは急いで熊に似たような魔物から距離をとる。
空気中に魔力を感じたかと思った瞬間―…
ザンッ!!
勢いよく何かが切り裂かれるような音がして熊に似たような魔物から血飛沫が上がった。
『グギャアアアアァァァ……ッ』
騒音と言っても良いくらい大きな悲鳴を上げ熊に似たような魔物がフラフラと後退する。
「―…今ですわっ!!」
フラウさんの声に導かれるようにあたしは走りだし熊に似たような魔物の首を刎ねた…―。
血飛沫を上げ巨体がドンと鈍い音をたてて崩れ落ちる。
その横を、勢いが有り過ぎたのか宙に舞い上がりゴロゴロと地面の上を転がる熊に似たような魔物だった首。
「「「「は・・・?」」」」
………みんなの心は今、一つになった。
え!?なんでそんなに簡単に首、吹っ飛んでんの!?
―――――
――――
―――
「まぁ…なんだ…、その、助かったよ。ありがとうな」
ちらりと転がっている熊に似たような魔物だった首を見ながら感謝の気持ちを伝えてくれる冒険者。
この人がリーダーなのか魔物との戦闘の時も指示を出していたような気がする。
危険だとあたしに伝えてくれていたのも。
残りの人たちも「ありがとう」「助かったよ」と言ってくれた。
「…いえ、夢中でしたし気にしないでください。もう少し早く駆け付けられたらよかったんですけど…。すみません…」
血溜まりの中に倒れている"死体"。
無我夢中だったときはあまり気にならなかった。
けれど少し冷静になってしまった今は、それを直接見る事が出来ない。
非日常過ぎてまだ何処か高揚している部分も確かにまだある。
しかし、やっぱり自分は一般的な日本人なのだ。
…生々しい人の死を前にどうしていいのかわからなくなる。
「いや、こちらこそ気にしないでくれ…。俺たちが力不足だったんだ…」
仲間の"死体"を見つめ悲痛な声でポツリと返され何と言っていいのかわからなくなってしまう。
他の2人も悲痛な表情で肯定する。
「…出来るだけ急いで移動しよう。血の匂いに釣られて他の魔物が集まってくるかもしれん」
そう言うと仲間の"死体"に近付き遺品を集め始める。
他の2人は木の傍に急いで穴を掘り始めた。
「アリス様、魔物の死体を片付けましょう?」
フラウさんに促され血飛沫で汚れた熊に似たような魔物の死体に近付く。
「フラウさん、軽く血を洗い流してもらってもいいかな?」
血が付いていても四次元バッグに入れていれさえすれば、それ以上血で汚れることはないけれど汚れている"モノ"を入れることに抵抗がある。
「そうですね。洗い流しましょうか」
そう言うとフラウさんは水の魔術で血を洗い流し風の魔術で乾かしてくれた。
おー…、洗濯乾燥機いらずですねー…。
サクッと魔物の死体は収納させていただきます。
「ありがとう、フラウさん」
手の空いたあたしたちは木の傍で穴を掘っている冒険者達に声をかけると穴を掘る手伝いをした。
魔物や動物達に掘り起こされないように出来るだけ深く…。
あの後、木の傍に死体を埋葬し言葉少なにあたしたちは森を抜けた。