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令嬢、思い出す

なんやかんやありますが、ポジティブだけどたまにネガティブ、努力家だけどたまに怠け者、ツンデレだけど結局はデレる高松夕夏、もといルビレシア・ショグニンの非日常をお楽しみいただけましたら、作者としても幸いです。


「きゃああああああああああああ!?」



と言ったときにはもう遅く、ルビレシアは侯爵家の立派な階段から落ちていた。



ガンと頭と背中を打ち付けた痛みで、目の前に星が舞う幻覚まで見える。



(も、無理…痛い、また死んでしまうわ……)




(…………また、ってなに?わたくし、死んだことなんてないわ)





そこまで考えた刹那、彼女の脳裏に1人の記憶――人生が夢のように展開された。






その名は、高松(たかまつ)夕夏(ゆうか)

日本の都市部に生まれ、お嬢様として生きた絶世の美女。



彼女は国立の最難関・T大に現役一発合格、卒業後は父親が取締役兼社長を務めていた会社を僅か23歳で受け継ぎ、才色兼備の若手女社長として世間に名をとどろかせた。



夕夏には幼馴染の千沙(ちさ)という作家がいた。

彼女の実家は貿易商で同じく富裕層だったため、実家の繋がりがあり、夕夏も幼い頃から千沙と行動を共にしていた。



だが、華々しい経歴を持つ夕夏は、俗にいう “ツンデレ” で、それも内側に入れていない人物に対してはツンの部分が容赦なかった。それはもう、かなり。


そんな性格も相まって、ライバル会社を真正面から蹴散らしていた彼女は、様々なところで恨みを買っており、特に王手の会社の不正とその隠ぺいの事実を見つけ、それを発表した際には株にも多大な影響を与えた。



そして、その潰れた会社の元社長にナイフで胸を一突きされ、死んだ。27歳という若さで。



彼女には1年後に結婚する予定の御曹司の婚約者もいたし、きっと、大きな反響を呼んだだろう。








(なんて、そんなことはどうでもいいのよ!わたくしの記憶なのだし。それより、これってあれよね、千沙のよく書いていた小説のテーマ、異世界転生よね……!?というか、ルビレシアって名前、聞き覚えがある気がするのだけれど……)



『ほう、自我が芽生えたか』


(え、どなた!?)


『我の名はティオーツ。世界を司るもの』


(神様なので……!?)


『そうともいうな』


(そうとしかいいませんわよ。ええと、神様……ティオーツ様とお呼びしても?)


『許そう』


(ではティオーツ様。わたくしの今の状況はどうなっていますの?貴方様はなにかお知りで?)


『知っているもなにも、そなたの生前の活躍には目をひかれてな。我のいとし子の願いもあり、そなたの魂を愛し子の作り上げた世界へと落としてやったのだよ』



(いとしご……?って、千沙のこと!?)


『そうだ。ち、チサと言ったか?我はその女を深く愛しておってな。チサがそなたが殺されたときに我に頼んできたのだ』


(「いとしご」などとおっしゃられている割に、名前もご存じなかったのですか……?)


『姿形しか知らぬな。神の中では人間などそんなものだ』


(あら?では千沙の顔がお好みだったのね……)


『何か言うたか?』


(まあ。いいえ、何にも申しておりませんわよ)



ティオーツと名乗った神は、足元まである長い銀髪と怜悧さを感じさせる精悍な顔立ちの若者に見えた。



聞くと、夕夏が死んだ際に千紗が「あぁ、神様。いらっしゃいますならどうか、どうか夕夏を私の書いた小説のヒロインに、自ら幸せをつかみ、周りの者たちに愛される存在にしてくださいませ」と両の手を組み願ったそう。





その話を聞いた夕夏――もといルビレシアは、親友が死んだ際の的外れな親友の行動を責めるでもなく、飛び上がった。




(嘘!?わたくし、ヒロインになれたの!?)

『うむ、我がいとし子、チサの願いを叶えるためヒロインとやらに転生させてやった』



(ありがとうござい、ますわ、ティオー、ツ、様、……、ん?)




『ん?どうした。何かあるなら言うてみぃ。我が答えてやろう』


(で、では。恐れながらティオーツ様)


『うむ、なんだ?』


(ええと、貴方様は、わたくしを【ヒロイン】に転生させてくださったのですよね?)


『え、あ、あぁ。我がいとし子を擁護する者の名にかけてな』


(では申し上げますが。千紗の書いた小説の中に「自ら幸せをつかみ、周りの者たちに愛されるルビレシアという名のヒロイン」など、出てきませんわ)


『……、は?』


(主人公の悪役令嬢にざまぁされる侯爵令嬢なら登場いたしますが)


『……なら、我が貴様のそのひ、ヒロインの転生先をヒロインとやらと間違えたというのか?』


(ええ、そうでしょうねえ。十中八九それしかありませんわね)


『す、すまなかったな、それは。し、しかしな、チ、チ……、我がいとし子はそなたの転生先を物語の主人公へと頼んできたのだぞ。そなたらが住んでおったニホンという場所では女の【主人公】を【ヒロイン】というのじゃろ?』


(あ、あぁ。そうですわよね。この手の話に疎い方々はそう思われるのも致し方ありませんわよね)


『そ、うなのか……?ああ、でもそなたはすでに9年間もその者として生きているのじゃろう?すまないが、もうそこで頑張ってくれ』


(えぇ、えぇ。神ともあろう偉大なティオーツ様がお間違えになられたのです。わたくしがざまぁ展開を回避して差し上げますわよ、転生者の威信にかけて!)


『ザマァカイヒ……?いや、そなた、怒っているのか?そのようにすぐに怒りを出すから()(もの)のように逆上するものがおるのだろう……!』


(怒りますわよ当然でしょう!?わたくしには大変見目の良い婚約者がいたのだから!!愛し合ってはなかったわ別に政略結婚だものそれは全然いいのよ。でも彼を見たことが神様にはおありで!?信じられないくらいイケメンなんだからっっ!!)


『……ふむ。そなた、濃いな。なんとも』



要するに、夕夏は面食いだったのである。


自身も絶世の美女だったが、彼女が興味を持つのはイケメンの男子だけだった。

男は顔さえよければ何でもいいタイプだ。


そのため、婚約が決まったのは幼少期だが、見目の良い人物、つまりイケメンが結婚相手の彼女は1年後の結婚を大変心待ちにしていた。

それが正攻法で罪を摘発(てきはつ)しただけの王手ライバル社のはげたぬき(元社長)に殺されたことで、何もなくなってしまった。



(ああああああイケメンを見れなくなっただけでもさいっあくなのに、次の人生がざまぁされる側のヒロインですって!?ルビレシア(彼女)には悪いけど、貴女の人生、わたくしの好きにさせてもらうわよ!いいですか神様!?いいですね!!)



『お、おう、よかろう』



そうして夕夏は、ルビレシアの人生を好き勝手にする権利を手に入れたのだった。

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