第8話 異常発生
森の奥へ進むにつれ、違和感が強くなる。さっきよりも明らかに気配が多く、視界の端で何かが動き続けている。
「……多いわね」
レナが低く呟く。
「さっき受付も言ってましたよね、増えてるって」
「ここまでじゃない」
短く否定された直後、茂みが揺れた。
ゴブリンが飛び出してくる。
一体、二体、三体――さらに奥から続く。
「チッ……」
レナが踏み込み、斬る。倒す。だが数が減らない。
『右側面、接近。対応成功率82%』
(いける)
「右!」
レナが反応し、一閃で仕留める。
『背後接近。回避成功率76%』
「後ろ!」
レナは半身をずらして躱し、そのまま斬り返す。
確率が動きに変わる。考える前に口が動く。
「左から来る!」
レナが迷いなく合わせる。
連携が成立する。
(いける……!)
そう思った、その時だった。
奥の空気が変わる。
重い。
圧が違う。
レナの動きが止まる。
「……下がって」
「え?」
「いいから!」
その直後、木々が大きく揺れた。
現れたのは、一回り大きい影。赤黒い肌、異様に発達した腕。
「……ゴブリンじゃない」
「…キングよ」
短く断言される。
ゴブリンキングがこちらを見るだけで、体が固まる。
『戦闘確率算出』
『勝率:3.2%』
(……無理だ)
レナはそれでも踏み込む。正面から間合いを詰め、剣を振る。
『攻撃成功率42%』
剣がぶつかり、弾かれる。
「っ……!」
キングの腕が振られる。
『被弾率58%』
レナがギリギリで躱す。だが余裕はない。押されている。
(レナでも勝てないのか……)
『勝率:2.4%』
さらに下がる。
逃げる? 無理だ。
戦う? 無理だ。
完全に詰んでいる。
『提案があります』
「……なんだよ!」
『機能拡張を推奨します』
「サブスクだろ!金ねえって言ってんだろ!」
『無料体験が利用可能です』
「……は?」
『初回限定、30分間のみ上位機能を解放します』
レナが叫ぶ。
「あなたは逃げなさい!」
キングの攻撃を受け流しながら、それでもこちらを逃がそうとしている。
(逃げるかよ)
ここで逃げたら、何も変わらない。
「……やる!」
『了解。機能制限付きで解放』
視界が変わる。音が遠のき、キングの動きが遅く見える。
『最適行動 上位補正開始』
『確率演算 精度向上』
『再現機能 一部解放』
『剣技 再現可能』
『盾技 再現可能』
『風属性魔法 簡易再現可能』
体が勝手に動く。
『右へ一歩。成功率91%』
一歩ずれる。
キングの攻撃が空を切る。
(見える)
「レナ、右!」
レナが反応する。
躱す。
『反撃成功率84%』
(今だ)
「今!」
レナが斬る。
浅いが、通る。
『次行動:左側面回り込み。成功率88%』
(高い)
「左からいける!」
レナが動き、キングの視線がズレる。
その瞬間、体が前に出る。
『剣技 再現』
踏み込み、振る。
だがそのままではない。
『最適化補正』
角度が変わる。軌道が歪む。
棍棒が唸るように振り抜かれる。
狙いは雑なはずなのに、軌道は異様に正確だった。
打撃がゴブリンキングの腕に叩き込まれる。
「当たった……」
『命中率92%』
キングが振り返る。
『被弾率67%』
(マズい)
『防御行動 再現』
腕が動く。
受けない。
流す。
衝撃を逸らす。
「……そんな受け方」
レナの声がわずかに変わる。
そのまま空気が収束する。
『風属性魔法 簡易再現』
圧縮。
解放。
振り抜いた棍棒の軌道に沿って、圧縮された風が叩きつけられる。
キングの体が揺れる。
レナの視線が明確に変わる。
「……それ、魔法?」
「分からん!」
次の数字が浮かぶ。
『次行動成功率90%』
(いける)
全部が繋がる。
(勝てる…!)
第8話を読んでいただきありがとうございます。
今回は
・森での異常発生
・ゴブリンキングという格上の存在
・そして“勝てない状況”からの転換
を描いています。
これまで積み上げてきた連携や判断だけでは通用しない相手に対して、
新たに解放された力がどう作用するのか、その入口の回でもあります。
シンは強くなったわけではなく、
“最適化された動き”と“再現された技術”によって戦えている状態です。
このズレが、この先どう影響していくのかも見どころになります。
そしてレナ。
彼女にとっても、今の戦いは明らかに想定外の出来事になっています。
これまで見てきた戦い方とは違う“何か”を、初めて目の当たりにしています。
次回はいよいよ決着。
この状況をどう終わらせるのか、ぜひ見届けていただければ嬉しいです。
引き続きよろしくお願いします。




