第29話 視線の正体
今回は森での続きになります。
少しずつですが、違和感の正体にも触れていく回です。
シンだけが見えているものと、
他のメンバーが感じている“ズレ”も意識して書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
森の中、少し引いた位置で足を止める。奥からの圧は消えていない。群れは減っているのに、流れだけが同じ方向へ押されている。
「どうする」
グリスが低く言う。
周囲を見て、流れを読む。中央へ押し込まれている。外に逃げ場がない。
(中央を抜く)
『提案:局所突破案』
「正面はダンが受けて左に流す。マリーは風で外周を右に寄せて中央を空ける。グリスは繋いで道を維持。レナは先行個体を落とす。俺が抜ける。合図は“今”だ」
一拍の後、レナが短く言う。「いける」
グリスが笑う。「いいな、それ」
ダンは無言で頷き、マリーは「任せて」と返した。
踏み込む。
『反応:収束』
すぐに来る。グラッジボアが正面に三、側面に二。
(……違う)
一体ずつじゃない。前、右、後ろ。複数の動きが同時に見える。ばらばらだったはずの情報が繋がり、ひとつの流れになる。
『複数対象の同時解析を開始』
(いける)
「正面三、右二!」
「受ける」
ダンが前に出る。
「盾技:シールドバッシュ!」
盾を叩きつけ、突進の勢いを殺しながら角度をずらす。
『再現可能スキル獲得:盾技・シールドバッシュ』
(合わせる)
「使う」
『再現:盾技・シールドバッシュ』
衝撃を受けず、横へ流す。流れが左に固定される。
「右寄せる!」
マリーが一歩引く。
「風魔法:ウィンドスラッシュ!」
風の刃が外周を削り、群れを右へ押す。中央に細い空間が生まれる。
「繋ぐ!」
グリスが踏み込み、崩れかけた流れを切らさず道を広げる。
(今だ)
「今!」
レナが先に出る。
「剣技:ラピッドステップ」
低い踏み込みから一閃、進路上の個体を切り落とす。
『再現可能スキル獲得:剣技・ラピッドステップ』
(速い。初級の時は間に合わなかった)
「使う」
『再現:剣技・ラピッドステップ』
今は、間に合う。一瞬で間合いが詰まる。
中央を走る。ダンが受け、グリスが繋ぎ、マリーが流れを押さえる。無理なく、一直線に通る。
最後の一体をかわし、斬る。
抜けた先、開けた場所。
空気が変わる。
(……いる)
『観測状態:強化』
背中に冷たい感覚が走る。逸らさない。意識を合わせる。
ノイズが走る。
『補正:視界安定化』
押し切る。
一瞬だけ、視界が止まる。
見える。
無機質な――目のようなもの。ただ、こちらを見ている。
(見られてる)
次の瞬間、視界が戻る。
その直後、グラッジボアたちの動きが変わった。さっきまでの流れが嘘みたいに崩れ、ばらけるように散っていく。
「……は?」
グリスが声を漏らす。
「ちょっと、何これ……」
マリーが周囲を見回す。
「……終わったのか?」
ダンが低く言う。
「……散ってる」
レナが短く答える。
誰も理由が分からない。
(……離れたのか)
そう考えるしかない。
「……何か、あったのか?」
グリスがこちらを見る。
一瞬だけ迷う。
「……分からない」
それだけ答える。
沈黙の中で、群れは完全に消えた。
(依頼は達成だな)
そう思って息を吐いた瞬間、内側で静かな変化が走る。大きくはないが、確実に何かが整う感覚。
『必要経験値を獲得』
『各種能力が向上しました』
(……上がったか)
思考の引っかかりが一段減る。さっきまでより、流れが素直に読める。
その変化を確かめる間もなく、隣で別の気配が跳ねた。
レナだ。
一段どころじゃない。明らかに違う上がり方。
(……そういえば)
孤高成長。
あのスキルなら、この伸び方にも納得がいく。
レナはわずかに視線を逸らし、少しだけ間を置いて口を開く。
「……ごめん」
「何がだ?」
「私だけ、上がった」
短い言葉だったが、気にしているのは分かる。
グリスが肩をすくめる。
「気にすんなよ。前に出てたのはお前だろ」
マリーも苦笑する。
「むしろそれで普通よ。あの動きならね」
ダンは何も言わずに頷くだけだ。
レナは小さく息を吐き、少しだけ表情を緩める。
「……そう、ありがとう」
そのやり取りを遮るように、森の奥からかすかな音が届く。枝が折れる音と、地面を蹴る足音がいくつも重なっている。
散ったグラッジボアが、そのまま流れている。
(……まずいな)
このままなら、村に出る。
「村に向かうぞ!」
グリスが声を張る。
「急ぐ」レナが即座に動く。
ダンが続き、マリーも駆け出す。
俺も走り出す。
終わっていない。
森を抜ける間も、背中に残る感覚は消えなかった。さっき見た“何か”は消えたわけじゃない。ただ視界から外れただけで、あの場から離れたのかどうかも分からない。
それでも、ひとつだけは確かだ。
あれは――まだどこかにいる。
そして今も、こちらを見ている。
そんな気がしてならなかった。
第29話まで読んでいただきありがとうございます。
今回は戦闘の連携と、シンの再現の使い方、
そしてレナの孤高成長を改めて描写しました。ちなみに忘れてました笑
グラッジボアの異常は一応解決していますが、
原因そのものはまだ触りだけです。
次は村に戻ってからの動きになります。
ここから少しずつ“正体”に寄せていく予定です。
引き続きよろしくお願いします。




