第25話 軽いはずの依頼
第25話です。
今回は軽い依頼のはずが、少しずつ違和感が積み重なっていく回になっています。
最初はいつも通り。でも、どこか噛み合わない。
そんな“ズレ”を感じてもらえたら嬉しいです。
掲示板から剥がした依頼票を、歩きながらもう一度確認する。
町の外れにある村の畑を荒らす“グラッジボア”の討伐。群れで行動するが、一体一体はそれほど強くない。突進は単調で、慣れていれば短時間で終わる相手だ。報酬も軽い。
「……いつもなら、すぐ終わるやつだな」
「長くても一時間」
レナが短く言う。
村に入ると、年配の男がこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「依頼を受けてくれたのか」
「はい、グラッジボアの件で来ました」
男は何度も頷く。
「助かる……このままじゃ畑も何も育てられやしない」
荒らされた土と、踏み潰された作物が目に入る。
「いつも、どのくらいの時間に出ますか?」
「だいたい決まってる。昼前後だな……今日はまだ来てない」
「分かりました。それまでここで待ちます」
畑の端で様子を見る。風が土を撫でる音だけが静かに流れる。
(……平和だな)
その静けさの奥で、頭の奥にかすかな引っかかりが走る。
『観測状態:低強度』
(……またか)
振り返る。何もいない。だが、わずかに“視線のようなもの”だけが残る。
「……どうかした?」
「いや、なんでもない」
やがて、茂みが揺れる。
グラッジボアが二体、畑へと出てくる。
「いけるか?」
「問題ない」
踏み込む。
『最適行動:算出』
一拍遅れる。
(……遅い。どうした、チャッピー。今日はいつもと違う)
それでも動きは読める。単調な突進をいなし、斬る。
二体はすぐに倒れる。
「……終わりか」
「まあ、こんなもん」
戻ると、男が深く頭を下げた。
「ありがとう……本当に助かった」
「いえ――」
言いかけたところで、意識の奥に引っかかる。
『反応:複数/範囲外』
(……奥か)
一瞬、言葉が止まる。
見えているわけじゃない。だが、まだ“いる”。
「……いえ、まだ終わっていません」
男が顔を上げる。
「奥にも反応があります。少し確認してきます」
「奥も……? ああ、頼む。最近はどうも様子がおかしくてな……今日は妙に静かなんだ」
「分かりました」
林へ向かう。
足を踏み入れた瞬間、空気がわずかに変わる。
(……静かだな)
その静けさの中で、頭の奥の引っかかりがはっきりとした違和感に変わる。
『警告:規定外観測を検知』
(……またか)
振り返る。何もいない。だが、“何かが向けられている感覚”だけが残る。
「……さっきからどうしたの?」
「いや……ちょっと気になるだけだ」
進む。
やがて気配を捉える。
グラッジボアが二体。
「……またか」
「さっきと同じ」
踏み込む。
『推奨:右回避』
一拍遅れる。
(……やっぱり遅い。反応、鈍くないか)
突進がわずかに近い。それでも問題なく斬る。
二体、終了。
そのまま奥へ視線を向ける。
(……多い)
気配が、続いている。しかも一方向に偏っている。
(群れすぎだろ)
そのとき。
『観測状態:継続』
“位置”が分かる。
見えない。音もない。だが、“そこ”にある。
意識を向けると、確かに“何かがある”。
その瞬間。
視界の端で、何かが揺れた。
ノイズのように。
一瞬だけ。
見えた、はずだった。
だが――何を見たのかが、思い出せない。
『記録:断片化』
(……断片?)
ほんのわずかに、何かが動いた気がする。
視線が、なぞるように移った――そんな錯覚。
息が止まる。
『解析:不可能』
(……またか)
理解できない。だが、無視できない。
奥を見る。
気配はまだ続いている。明らかに、多い。
「……多いな」
「こんなにまとまる種類じゃない」
それだけで十分だった。
「……戻るか」
「そうだな、これは違う」
林を抜ける。足音だけがやけに響く。
しばらく無言で歩く。
「……今日は何か変だわ」
レナがぽつりと呟く。
足は止めない。
「……そうだな」
短く返す。
横目でこちらを見ているのは分かる。
踏み込まない。だが、目は逸らさない。
(……気づいてるか)
完全に無関心ではない。
その距離が、ほんの少しだけ変わった気がした。
歩き出す。
背中の感覚は、もうない。
それでも。
(……今のは、なんだった)
言葉にできないまま、違和感だけが残る。
依頼は終わっていない。
だが、それ以上に。
確かめるべきものが、増えていた。
第25話を読んでいただきありがとうございます。
違和感だけが残る形になりましたが、ここから少しずつはっきりしてきます。
軽い依頼のはずが、そうも言っていられなくなりそうです。
次回もぜひお付き合いください
追記 完結済み作品もございますのでそちらもどうぞよろしくお願いいたします。




