第23話 埋め合わせ
第23話です。
今回は少し息抜きの回。
約束を破ったあとの埋め合わせと、二人の距離が少しだけ動きます。
そして主人公、初めて“ちゃんとした食事”をします。
その違いも含めて、楽しんでいただけたら嬉しいです
扉を押して中に入ると、レナはすでに掲示板の前に立っていた。こちらに向いた視線が一瞬だけ触れて、すぐに外れる。それだけで十分だった。
「……悪い」
先に言う。言い訳はしない。
「遅い」
短い一言。それで終わり。怒っているのは分かるが、引きずるつもりもないらしい。その距離が、逆に重い。
横に並ぶ。言葉を探す。思考がわずかに遅れる。
『発話遅延:検出』
(……分かってる)
内心で切り捨てる。
「……今日はどうする」
「普通にやる」
「昨日の分も?」
「関係ない」
淡々としている。切り替えている。それが分かるからこそ刺さる。
息を整える。
「終わったら、飯でも行くか」
言ってから、自分の言葉が一拍遅れているのを自覚する。レナがこちらを見る。
「……は?」
「詫びだ」
短く言い切る。
レナはしばらく黙り、やがて視線を外す。
「いらない」
「……だよな」
一度引く。それでも終わらせない。
「俺が行きたいだけだ」
ほんのわずかに、レナの動きが止まる。
「……勝手にすれば」
拒絶ではない。
「じゃあ、終わったらな」
返事はない。それでいい。
依頼を受け、森へ向かう。昨日と同じ道を歩きながら、足取りのズレを自覚する。半歩遅れるたびに違和感が残る。
『行動遅延:継続』
(……しつこいな)
魔物が現れる。反応が遅れる。選ぶ。動く。倒せるが、流れがない。一つひとつ拾っていく感覚が重い。
横でレナが動く。無駄がない。最短で終わらせる動きに、自然と差を感じる。
戦闘が終わり、素材を回収して街へ戻る頃には日が傾いていた。
「……で」
レナが言う。
「行くの?」
「ああ」
「……はあ」
ため息をつきながらも歩き出す。
店に入る。席に着く。漂ってくる匂いに、意識が引かれる。
今までは、宿で出てくる味の薄いスープと、少し硬いパンだけだった。それでも腹は満たせていたし、それでいいと思っていた。
――思っていたはずだ。
メニューを開く。料理名と金額が並び、視線が止まる。
『所持金:13,240G』
(……あるな)
払えないわけじゃない。
レナを見る。迷いなく選んでいる。
「好きなの頼め」
「いいの?」
「詫びだからな」
レナは一瞬だけこちらを見て、何も言わずに注文を決める。その動きが、ほんの少しだけ柔らかい。
やがて料理が運ばれてくる。
焼かれた肉の表面には薄く焦げ目がつき、脂がじわりと浮かんでいる。皿の上で熱を帯びたまま、細く湯気が立ち上る。添えられた野菜は鮮やかで、軽く火が通っているのが見て分かる。香草の匂いが、鼻を抜けた。
(……違うな)
見ただけで分かる。
ナイフを入れる。抵抗が少ない。すっと刃が通る。
一口。
噛んだ瞬間、思考が止まる。
(……うまい)
肉の旨味が広がる。噛むほどに、熱と一緒に味が滲み出る。脂は重くない。香りと一緒に抜けていく。
パンをちぎる。表面は軽く焼かれ、内側は柔らかい。今までのものとは別物だった。
スープを口に運ぶ。温かい。塩気だけじゃない、奥に広がる味がある。
(こういうのか)
気づけば、もう一口運んでいる。
手が止まらない。
ふと顔を上げる。
レナは無言で食べているが、動きが途切れない。
(……分かりやすいな)
わずかに口元が緩む。
会話は少ない。それでも、沈黙は重くない。
「……今日、動き鈍い」
不意に言われる。
「……分かるか」
「分かる」
即答だった。
「昨日の方がよかった」
(……やっぱりな)
苦笑する。
「まあな」
それ以上は聞かれない。ただ一瞬だけ、観察するような視線が向けられる。
食べ終える。
『支払い推定:5,040G』
『所持金:13,240G』
(……三分の一か)
高い。だが迷いはない。
(必要経費だな)
会計を済ませる。財布の重みが軽くなる。それでも、悪くないと思えた。
店を出ると、外はすっかり暗い。
「……じゃあ、また明日」
レナが言う。
「朝の二度目」
「ああ、間に合う」
「当たり前」
それだけ言って背を向ける。
人の流れに消えていく背中を見送り、小さく息を吐く。
(……切れてはない、か)
完全ではない。それでも、繋がっている。
歩き出す。
一歩、わずかに遅れる。
『行動遅延:継続』
(……まだか)
頭の奥のざらつきは、消えていなかった。
第23話を読んでいただきありがとうございます。
少し関係は戻りましたが、完全ではありません。
それでも“切れていない”というのが、今回のポイントです。
そしてサブスクリクションの影響も、まだ続いています。
便利なものほど、手放したときに違和感が残るものです。
次回は少し空気を変えていきます。




