第21話 観測者
第21話です。
今回は20話の続きで、夜の森での出来事になります。
戦闘というよりは、その後の違和感や空気感を意識して書いています。
『最適解を提示します』
その表示が消えたあとも、しばらく体は動こうとしていた。だが一歩踏み出しかけたところで、意識的に止める。
(……やりすぎか)
呼吸は乱れていない。足取りも軽いままだ。それでも、これ以上踏み込む理由が見つからない。
『推奨:帰還』
視界の端に浮かぶ文字に、わずかに目を細める。
(珍しいな)
いつもなら押し進めるはずなのに、今回は引く判断を出している。
(まあいいか)
小さく息を吐き、体の向きを変える。来た道を戻り始めると、張りついていた緊張が少しだけほどけた。
夜の森は静かだった。葉の擦れる音が、やけに遠く感じる。
(……さっきまでと、同じはずなのに)
ふと、違和感が浮かぶ。
足を止める。
何かが違う。
音でもない。気配でもない。それでも、確かに“何か”が引っかかる。
(……見られてる?)
その考えが浮かんだ瞬間、背筋に冷たいものが走る。
振り返る。
暗闇と木々の影が広がるだけで、動くものはない。
(気のせいか)
そう思おうとする。
だが、一歩踏み出した瞬間。
ぞくり、とした感覚が背中をなぞった。
(……なんだ今の)
敵意ではない。殺気でもない。もっと曖昧で、輪郭のない何か。
視線を感じる。
上から。
無意識に顔を上げる。
枝の隙間から夜空がのぞく。星は見える。だが、それだけだ。
(……いる気がする)
確証はない。だが、確かに“見られている”感覚だけが残る。
『異常は検出されません』
表示が浮かぶ。
(……そうかよ)
短く息を吐く。
納得はできない。
むしろ、その一言だけなのが妙に引っかかる。
(見えてないのか)
それとも――
(見えてて、言ってないだけか)
思考がそこに向かいかけて、止める。
考えても答えは出ない。
それでも、足は自然と早くなる。
森の出口が見え始める。街の灯りが滲むように広がっていた。
(……まだ、いるな)
背中に貼りつく感覚は消えない。
振り返らない。
ただ、そのまま歩く。
森を抜ける直前、ふと風が揺れた。
葉の音に紛れて、わずかな気配が動く。
――気のせいかもしれない。
だが、その瞬間だけ、確かに何かがそこに“いた”。
視線だけを残して。
街の光に踏み出す。
それと同時に、その感覚はふっと消えた。
(……なんだったんだ)
答えはない。
だが――
さっきまでとは違う種類の違和感が、胸の奥に残っていた。
第21話を読んでいただきありがとうございます。
今回は戦いの続きではなく、“見えない何か”に焦点を当てた回でした。
はっきりとは描いていませんが、今後に繋がる要素になっています。
引き続き更新していきますので、よければブックマークや感想などいただけると嬉しいです。




