三大天
渓谷で採れた鉱物資源を利用して装備の充実を図った。
専門家の導入により鉄器の強度も大幅に向上した。
報告書を受け取ったイギギは喜んだ。
所長イギギ「おぉ、これで世界樹に挑める!」
キーリス「お前が息巻いてどうするんだ?」
言葉に窮する奴隷を見てキーリスは肩をすくめた。
やれやれ。
魔女「お父様。ラセツ、ヤシャ、カルラ、ロールアウトしました。」
キーリス「うん、そうか。次の作戦に投入しろ。オークも交えて比較検証したい。」
魔女「わかりました。」
キーリスは魔女を使ってそれまでイギギが独占していた頭脳職を少しづつ置き換えていった。表向きは人員の補充と表して。
所長イギギ『お前の考えはわかってるぞ?キーリス。今に見てろ。神造外骨格。あれさえできれば。』
ピクっ
魔女の一人が反応する。が、何事もなかったように魔法の研究を他の個体と続ける。
キーリスは、魔女の人の思考を傍受、介入するという特性をイギギ達に伏せていた。
キーリス『表向き俺が魔女たちを愛してる風に見えるだろうし、ま、実際、愛してるしなぁ。』
溺愛と言ったほうがいいかもしれない。常に近くにはべらせている。遺伝子工学研究所内は半分以上、魔法の研究室みたいになっていた。
マオ「コイツラを?連れてけって?」
ターマ「はい。」
ターマは普通のオークの他に多腕の大男、屈強な細身の鬼、鳥型亜人を引き連れてきた。
ターマ「多腕の方はラセツ、その隣はヤシャ、鳥型亜人さんはカルラと言う種族名だそうです。」
屋敷の外、敵対原生生物討伐にこれから行こうとマオが出た時にまくし立てるように言われてしまったから、マオの頭はついていけなかった。
ラセツ「よろしく頼みます。」
あ、話せる。オークはたどたどしい、つたない会話だったのに、その点だけでもだいぶ改善されてると思えた。
マオ「キーリスもよくやるよな。」
ターマ「遺伝子工学研究も目標があると捗るんですかね?」
世界樹伐採かな?目標ってのは?
今回、討伐するのは湖に出るという、大蛇だった。
亜人人口の増加、農地の拡張に伴って、水源の確保が急務となっているのに、
給水の度に、ゴブリンや人がソイツに襲われるのだから、やるしか無かった。マオの屋敷のポストは嘆願書でいっぱいだった。
ヤシャ「食べる目的ではない?」
カルラ「この前は、人がすり潰されて放置されてたそうだ。」
ヤシャ「貴重なマンパワーだってのに。」
ラセツ「……。」
目的地までの道中、ヤシャとカルラは互いにおしゃべりをしていた。
マオ『ラセツってやつは寡黙なのかな?』
ラセツは時折、それぞれの手に持っている武器を確認していた。腕が多い分、それだけ、思考が複雑で話に入る余裕がないのかもしれない。
湖についたと同時に赤っぽい大蛇が顔を出す。
近づいてくるマオたちをじっと見ていた。
『立ち去れ。外来種。』
頭に大蛇(?)の声がする。マオはまず、オーク達を大蛇にけしかけた。
カルラ「支援は?」
マオ「要らなくね?比較検証だし。」
マオはキーリスと思考が似ている。戦闘でオークやゴブリンは死傷者が出てなんぼの消耗品くらいに思ってるのかもしれない。
ヤシャ「非効率だなぁ。」ヤシャは腕を組んでオークと大蛇の戦いを見ていた。数分、交戦していたかと思っていたら。大蛇のしなる体でオークは薙ぎ払われた。
カルラ「軽く、全滅しちまったぞ……」
ヤシャ「オークは何十人集まっても。統率が取れないからな。」
ラセツ「……今度は俺たちの番だ。」
ラセツは咆哮すると大蛇に走っていった。ヤシャとカルラもそれに続いた。
ラセツの左右から絶え間なく斬撃を繰り出し、避けられない大蛇は体を切り刻まれて、たまらず水の中に退散した。顔だけ湖面上に出した大蛇は口から高圧の水を出した。
ラセツ「っ!」
ヤシャ「あぶねぇ!」
高圧水流で大地に深々と穴が開く。危険回避能力は3人共に高い。カルラに至っては空中に退避している。羽で飛行しているのではない。その場に浮遊している。
マオ『魔法だ。』
オークでは回避が間に合わず、その体に大穴を開けられてたことだろう。
マオ『頭が良いってこういうとこに出るんだなぁ。』
マオは自分もオーク達と変わらないのでは?と思えた。
カルラ「今度は俺だ!」
ゴァァ!
カルラは口から火を吐いた。魔法?
しかし、大蛇は水に隠れてやり過ごした。
カルラ「あ!ひきょーだぞ!」
ヤシャ「俺に任せろ!」
ヤシャが湖に触れると湖の水がみるみる凍っていった。
大蛇『うわ!なんだ!』
大蛇も急激な温度変化にたまらず湖から顔を出し、声を上げた。
カルラ「もらった!」
ゴァァ!
大蛇は回避ができずに今度は直撃。首から上をカルラの業火に焼かれて絶命した。
その後、後続のイギギ率いるゴブリンの調査隊が、
大蛇の死体を回収に来た。それらと入れ替わる形でマオ達は帰路についた。
魔女達は研究肌で前線に立つような者達ではない、ソレに、女子供が傷つくのはいい気分ではない。マオはそういった思考が前提にあった。戦うのは男の仕事だ。
マオ『コイツラなら。』
物理のラセツ、氷魔法が使えるヤシャ、飛行、炎魔法が使えるカルラ。
コイツラがいれば世界樹をいよいよ攻略できるかもしれない。
飛竜にも苦戦するゴブリンやオークだけしかいなかったし、リュウオウみたいなのがいる世界樹に向かうのは戦力不足が否めなかったが……
マオは確かな実力を彼らに感じていた。
ターマ「で、レポートですか。」
オークと彼らの戦闘比較レポートを書かないといけない。マオには絶対できないという自信があった。
マオ「ターマ。今回も頼むよ、お願いします。」
マオはターマに頭を下げた。端末に向かうターマもまんざら、嫌そうでもない。
ターマ「んふ、いいですよ!マオ様!」
マオ「様付けは辞めてくれよ。君のほうが頭がいいんだから。」
ターマ「あ。」
ターマは恥ずかしそうにモジモジしだした。
ターマ『マオ。』
マオの脳内に直接、ターマの声が響いた。二人は赤面した。
ターマ「あー、今度、何か美味しいものでも、取ってきてくださいよ!原生林で!」
ターマは照れ隠しのつもりでマオにお願いした。
マオ「お、おう!任せとけ!」