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融氷 ~氷結魔術師転生物語~  作者: 月見黒猫
1章:幼少期エルフェデット編
20/22

19:興味のある話

遅くなりました。一週間ぶりなんですね……

 深く腰おろす国王陛下のグラスへとアリアは赤黒い葡萄酒を注ごうとする。

 その様子はいつも見慣れた堂々とした様子ではなく、どこか緊張気味で体の動きが硬い。

 アリアにしてはとても珍しい。でも国王陛下が相手だと緊張もするんだろう。



「アリア、まずは護衛である私が毒見をする。一口分だけついでくれ」


 と、その様子を見ていたウルさんは一言、葡萄酒を注ごうとしていた妹へと声をかけた。動きの硬かったアリアの体がビクッと飛び上がったように見える。

 たとえ注いでいる人間が自分の妹でも毒見と言う警戒を怠らない。

 これが国王の護衛という立場の人間なのか、と感心した。

 

 ウルさんはアリアから受け取ったグラスを目線まであげて凝視した後、一息であおった。

 目を瞑って味や香りを確かめているんだろうか。その様子は普通の葡萄酒を味わっているようにも見えて、なんとなく面白い。

 アリアだけでなく、お父様やお母様も身を硬くして様子を見守ることおよそ五秒。

 ウルさんはゆっくりと目を開いた。



「問題はないようです。どうやら毒と思わしきものは入っていないようです」


 その報告を聞くとアリアはほっと肩の力を抜き、お父様とお母様も乗り出していた身を引いた。

 


「エドワードが私を狙う理由がないからな。当然であろう。私は一切疑っていなかったと言うのに」


「陛下、こういった信頼した人物の仕業に見せかけて陛下の命を狙う、と言うのは良くある話でございます。護衛が念を入れて問題が起こることはないでしょうし」


 ウルさんの発言にもう一人の護衛も小さくうなずく。

 護衛たちの様子を見た陛下は納得のいったようにウルさんからグラスを受け取った。

 毒見、というのは分かったけれどその様子を見ていて、ひとつ私には疑問が残っていた。



「あの、お聞きしたいことがあるのですが、良いですか?」


「ん? なんだね、ラビーナ嬢。答えられる範囲の質問なら答えてあげよう」


「どうしてウルさんはあの少しの間で毒がないと判断できたのですか?」


 毒は即効性のものだけではない。

 当然遅効性のものもたくさん存在しているし、飲んだものに呪いをかけるという呪詛を含んだ液体だって存在している。

 それらをあの一瞬で見分けるのは困難だし、もしも口にしたときに判別できなかったらどうするのだろうか。

 


「なんだ、アリア。お前は自分の主に話していなかったのか?」


 そんな細かい事情を含めた言葉を全て察してくれたのか、ウルさんはそんな反応を示した。



「そういえば……エドワード様には話していましたので問題はないと思っていましたが、魔術を教えた身としても問題がありましたね。まさか自分の魔力性質の特化すら告げていないなんて……」


「ああ、そういえば僕もラビに教えていなかったね。すまない」


 アリアの言葉、そしてお父様の言葉を聞いて私の頭の中にさらに疑問が浮かびあがる。

 魔力性質、それが一体何に影響しているんだろう。



「ラビーナ様、我がヴェイン家は代々“浄化”の魔力性質に特化している家系なのです。ヴェイン家が代々王宮付きのような大きな仕事に付かせていただけているのはこの特化した性質によるものが大きいのです」


「私を含めてですが、解毒、解呪などを含めた魔術が私たちヴェイン家の得意魔術です。それと同時に体内に入り込んだ異物を感知し、浄化する魔術を持っていますので毒見を買って出るのです」


「当然家で教えられることも優秀なんだろうけど、持った素質も名門たる所以なんだよ」


 言われて、驚いた。

 そういえばアリアは今までに自分の魔力性質について話すことはしていなかったし、私も聞こうと思っていなかった。

 普段から具現化の魔術をよく使うし、きっとそういう類の性質が大きいと思っていたのだけど、違うようだ。

 


「毒見をする機会なんていうのもなかったから仕方ないと言えば仕方ないわね。ラビにとってはそう大きな問題ではないし」


「確かにそうだけど……あまり聞かない性質だから驚いたの」


「浄化の性質に特化している人間はそう多くはないですね。だからこそ重宝されているのですが」


 私がいくら前世からの記憶があると言っても自由に活動したのは幽閉されていた五年を除いて十五年。

 決して長くない時間だったから知らないことも多くあると思っていたけどまさか魔術に関して知らないことがそんなにあるとは思っていなかった。

 実際、浄化の魔力性質に特化している魔術師なんて知らなかった。

 驚いた、と言うよりは少しショックを受けたと言うほうが近いのかも。



「王族ともなればぜひとも欲しい家臣の一種ではあるな。実際にウルのおかげで我の命が助かったことは何度もある。あまり快く思っていない勢力が多いのもあるが」


 そんな話を、陛下はどこか愉快そうに笑いながらし始めた。

 その様子をみてお父様は苦笑し、ウルさんはため息をついている。もう一人の護衛の人は相変わらず無表情のままだ。



「陛下、快く思われていない自覚があるのでしたらこうして不用意に出かけて危険を増やすような真似はおやめください。最近は反対勢力の勢いも増していますし」

 

「ふむ……それは正論かもしれんがさっきも言ったように信頼する家臣のところへ来ることに問題はないだろう?」


 国王陛下にここまで信頼されるお父様。

 実のところお父様の役職を詳しく聞いたことはないけれどそれ以上に反対勢力の勢いと言うものが気になって仕方なかった。


 アース国王。

 他国を見ても珍しい魔導兵器の使用に対して懐疑的な国王であり、即位してから二年目で魔導兵器の稼動を停止させたと言う話が有名だ。

 そのおかげで魔術師は過酷な魔力提供と言う仕事から解放され、魔術師の家系からは絶大的な支持を誇り、また一般市民にも目を向けた政治が高い評価を得ている。


 ただ、それから数年してから西と東大陸は互いに戦争をはじめたため、いつその火の粉が飛び掛るか分からない状況の中絶大な力を誇っている魔導兵器を止めてしまっていることへの不安なんだろうか。



「陛下、ブリュンヒルデ家はあくまでも陛下の味方でございます。常に国民のことを考えた政治に強く賛成しております」


「我も信頼しているさ。先代が亡くなってから若くで家を継いだというのに、本当にしっかりしているものだと感心すらしているほどだ」


 徐々に政治の話へと移行するにしたがって私やアリアは蚊帳の外になってしまっている。

 ただ、陛下に聞いてみたいことはたくさんある。

 魔導兵器による戦争の現状。西大陸や東大陸がどういうふうな体勢を取っているのか、二大陸にはさまれている中央大陸の国はどういう動きをとろうとしているのか……。

 けれどそんな話は少なくとも九歳の子どもが気にするような話じゃない。

 だからこの場で聞くというのは少しおかしいような気がする。客観的に見てだけども。



「ちょっと堅い話になってしまってごめんよ、ラビ。今日は単純に陛下と飲もうか、なんて珍しい話になっただけなんだ。だからそう身を硬くしなくてもいいよ。……とはいっても陛下の前じゃ無理があるか」


「気にしないでください。私も大きくなったら陛下とお会いすることはまだまだあるのでしょう? そうなら今のうちでも陛下の面前にいるということに慣れないと……」


 本当は話を聞いていたい、というのが本心だけど建前でそう言っておく。

 手元の氷のグラスに注がれているオレンジジュースを一口飲む。 



「親がしっかりしていると子もしっかりするものだな。今後に期待しているよ」


 そういって陛下は私の頭を撫でた。

 伸ばされた手にまた身を硬くしてしまいそうになったけど、今度は大丈夫。陛下がどんな人か、分かっていたから。



 

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