<二十三>
「エイブ」の住処は砂漠だった。
扉を潜った途端砂漠に出たのだ。振り返ってみるとそこには扉が一つ。
前を見れば岩を組み上げて造られた小屋があった。その小屋に「エイブ」は三人を招き入れた。外観に反して、内部は落ち着いた感じの応接間になっていた。
ソファーを三人に勧めた後、「エイブ」は徐に語り始めた。
「まずは改めて名乗っておこう。儂はエイブラハム=ソーン。通称『エイブ』じゃ。」
これにディーがピクリ、と反応する。相手が名乗った名前に二重の意味で驚いたからだ。
(…確か…ザナスの先々代の宮廷魔導師…。でも、それより…)
仮にも錬金術師の端くれとして、アザトー通りに居を構えるような一流の魔導師が名前を名乗る、ということに驚愕していてた。
魔導師が他の魔導師に名前を知られるということは時に致命的な結果をもたらすことがあるからだ。相手の力量が一定以上の場合、それは自分の命を握られるのに等しい。
故に名前を名乗る、という行為は魔導師の場合、「相手を信頼している」というメッセージになる。
それに対してフィリアは特に何も感じていない。名前に聞き覚えはなかったし、魔導師が名前を名乗る、という意味を知らないからだ。
シィンは驚いているのかどうかは知らず、無表情のまま。あるいはどうでもいいのかもしれない。
相手の名乗りに対し、こちらもそれぞれ名を名乗る。一段落したところで、改めてシィンが「エイブ」に尋ねた。
「で、シェルズの伝言というのは?」
「星辰の位置と儀式の場所、そして日時じゃな。」
シェルズはどうやら次の儀式が行われる日時と場所を突き止めてくれたようだ。
「助かった。」
「儂は伝言をお主らに伝えただけ。礼ならシェルズに言うが良い。」
そのまま暫しの沈黙が生まれた。それを破ったのは「エイブ」だった。
「ところで『テゴス』がアザトー通りから追放されたのは知っておるか?」
「いいや。何故だ?」
「あ奴は遣り過ぎた…。アザトー通りの不利益になる、そう判断されたのじゃよ。」
「ならば、奴の居場所を教えてもらえるか?」
「残念ながら現在は判らん…。何処ぞに結界でも張っておるのじゃろうて。」
「…ならば、先程の儀式までに判れば知らせてもらえるか?」
「あ奴も手練れじゃからな。あまり期待はするでないぞ?」
「判った。」
それだけの会話をすませるとシィンは立ち上がった。つられてフィリアとディーも立ち上がる。
「世話になった。」
それだけ告げて「エイブ」の住居をシィン達は去っていった。
それを戸口まで出て黙って見送った「エイブ」の背後に、何時の間にか「影」が存在していた。
「あれでよろしかったかな?」
-あれで良い。-
「一つだけお聞きしたいが、あ奴で邪神に対抗できるのかな?」
-奴は…-
その応えは砂漠を渡る風にかき消されていた。
何とか投稿。
ところで、あと少しで百話目になります。
思えば良く書いたものです。
ここまで読んでくださった皆さんには感謝しています。
ありがとうございます。




