<八>
なかなか筆が進みませんでした。
情景は頭の中にあるのに文章にならない…。
アルガの15日。
あれからシィンは貧民街を中心に「廃教会」について情報を集めていた。
しかし、調査には殆ど進展が見られなかった。
噂はある。それはもう多種多様にある。
しかし真実はおろか、事実すらその中に殆ど混じっていない。
(意外に尻尾が掴めん…、意図的に噂をばら撒いているのか?)
そう考えねば不自然なほど、情報が集まらない。
通常なら此処で追求の糸は断ち切られてしまう筈だった。
そんな中、シィンは「廃教会」ではない「或る」場所の噂も集めていた。
(こちらもやはり、か。決まりだな。)
シィンが集めた「或る」場所の噂。其処には異常なものは何も含まれていなかった。
そして、それこそが異常だった。
ゴミ溜めに一つもゴミが落ちていない、或いは飢えたオーガが人間を黙って見過ごす、といったレベルの異常だ。
常に異常と異能と常識外に満ち溢れている場所。そんな場所に異常な噂が一つもない筈はないのである。
(ならば、次は直接行ってみるか…。)
シィンが次に向かおうとしているのはアザトー通りである。
転生前に何度かこの国を訪れたことのあるシィンは、その場所が危険な場所であることを知っていた。にも関わらず、その場所についての「異常な」噂が無い、ということは誰かが意図的に押さえている、ということになる。
そして、その異常性を気づかせないために貧民街の「廃教会」の噂は流されているのだろう、と推測したのだ。
しかし、シィンはその前に「廃教会」に行くことにした。
待っているのは十中八九、罠である。
罠と分かっていていくのは愚か者かも知れない。
しかし、相手の情報が殆ど無い現状で闇雲にアザトー通りに向かうのは無謀である。
シィンは罠から「情報を読み取る」ことにした。罠のある場所には罠師もいるだろう。ならば聞きたいことを罠師に喋ってもらえばよい、と考えたのである。
(まず下見をしておくか。)
そう考えたシィンは宿から出て貧民街の方に向かう。
「よぅ、兄貴。」
宿を出てから程なくして声を掛けてきたのは、2日程前に知り合ったチコという少年である。
「今日は噂はいいのかい?」
シィンはチコに噂集めをしてもらっていた。貧民街の住人同士のネットワークはかなりのものである。日々の生活に生き残れるかどうかが掛かっているからだ。特に子供というのは目端が利かなくては生き残れない。だからシィンはわざわざ子供に噂集めを依頼したのだ。銅貨1枚程の報酬だが、チコ達貧民街の子供達にとってはかなりのものである。チコは張り切って噂集めをしてシィンに報告していた。
「何かあったか?」
「リラの奴が死んじまう前に仕事を頼まれたらしいよ。」
「ほう?詳しく聞かせてくれるか?」
そう言うとシィンがチコに銅貨を3枚渡す。リラというのは生け贄にされていた少女の名前である。シィンは彼女の足取りについても探るように依頼していた。
「毎度ありぃ。」
「それで?」
「何でも届け物を頼まれたらしいよ。」
「何処へだ?」
「銅貨2枚。」
「1枚だ。」
「ちぇっ、ケチだね。」
口を尖らせるチコに銅貨を1枚放る。
「アザトー通り。」
「誰の所か分かるか?」
「其処まではちょっと…。」
「分かれば銅貨5枚だ。」
「分かったよ、また聞き込みしてくるよ。」
そう言うとさっさと走り去ってしまうチコ。
分かれば良し、分からなくても「廃教会」で情報は手に入るだろう。そう考えて、シィンも自分の目的地へと向かった。
次回は早くしたいです。
早くしたいんですが…。




