<七>
やっと次の日。
最初にお断りします。
今回はスプラッタ系です。苦手な方は避けた方が良いかも。
アルガの12日、早朝。
「…ん。」
ディーはいつもより早い目覚めを迎えていた。
自然な目覚めではない。
宿の外から伝わる物音によって目覚めさせられたのだ。
隣を見ると、フィリアも丁度起き出した所だった。
「…外が騒がしい。」
「何かあったのかしら。」
何とも言えぬ予感めいたものに囚われて慌てて身支度を調える2人。
宿の外へ出てみると、人の流れが2種類あった。
その内の片方が異様だった。皆、一様に顔を青くして駆け戻ってくるのだ。
中には道ばたにうずくまり、胃液を吐いている者さえ在った。
2人は異常があったと思われる方向へと走った。
それが眼に飛び込んできた時、頭が理解するのを拒否した。
(アレハナニ?アレハ…シラナイ、ソンナハズハナイ…。)
地面に散らばっている物は「人体」の一部分であった。
フィリアは口元を押さえた。
ディーも顔面が蒼白になっていた。
2人とも冒険者だ。「死」は日常的に側にある。
しかし目の前の情景のようなものに慣れる機会はなかった。
中央には胴体。内臓は抉り取られたように無くなっている。歯形が残っている所を見ればおそらくは喰われたのだろう。
胴体の周りにはちぎり取られた手足が奇妙なオブジェのように突き立てられている。
胴体を囲む五芒星の頂点に、それぞれ両手両足がちぎり取られた傷跡以外は綺麗なまま直立していた。胴体の惨状から見れば傷が無いことがむしろ異常な程だ。
そして五芒星の頂点には人の頭部があった。そこに最大の異常があった。
その顔は涙を流していた。
その顔は苦痛に歪んでいた。
その顔は絶望に彩られていた。
そして、その顔は唇を動かしていた。
声にならない「声」を発し続けている。
『コ・ロ・シ・テ。』
その言葉だけを繰り返し、唇の動きだけで発し続ける。
手足をちぎられた時も。
腸を喰われた時も。
ずっと意識を保ったまま蹂躙されたのであろう。
死んでいなければならない状況で、(おそらくは魔術の類によって)それでも無理矢理生かされている。
それは地獄の苦痛が、今もなお続いていることを意味していた。
なお恐ろしいのは、その顔に2人が見覚えがあったことである。
それは昨日の少女だった。
自分たちが関わった少女が、次の日にこのような姿にされている。そのことに言いようのない恐怖を覚えた。
それは2人の周囲にいた者達も同様だった。
誰も何もできないまま、ただその様子を見続けている。
その情景に変化が生まれた。
トスッ。
軽い物音がその情景を変転させた。
いつの間にか、少女の額にはナイフが生えていた。
何者かが魔力を纏わせて投じたのだ。
それが少女の呪わしい生を断ち切った。
次の瞬間、少女は安心したように目を閉じて、そして逝った。
(奴等じゃない。)
その情景をシィンが見た時、即座に考えたのはそのことだった。
(これは奴等のやり口じゃない。)
奴等は冷徹であり冷酷だが、死を楽しまない。
自分に対して非道を仕掛けるが、同時にそれを楽しんでいる様子はない。
奴等にとってそれは「実験」であり。
そして「観察」であり「義務」である。
必要のない事は徹底してしない。
しかし、目の前の情景は。
其処にあるのは生への冒涜であり、死への冒涜である。
その情景に明白に込められた「悪意」にシィンは怒りを覚えた。
-魔力-殲滅-敵-宿-光-『魔光付与』
自分のナイフに光の魔力を付与する。
そして救われて欲しい、その想いを込めて投じた。
トスッ。
軽い音を立ててナイフが突き立つと、少女は安らかな顔になって逝った。
それを確かめてシィンは踵を返す。
(これが奴等の思惑か?『邪神崇拝』に関わらせることが?)
シィンの胸中には疑念が渦巻く。だとしたら関わらない方が賢いのかも知れない。
しかし。
(それでも…この情景を生んだ者は赦せん。)
それはシィンの中に生まれた決意だった。
邪神が絡むとこんな感じの話になってしまいます。
2/16誤字訂正 心→神




