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Watch ~監視者~  作者:
「風鳴りの魔都」
79/98

<四>

 アルガの11日。

 ディーとフィリアはニュールカイムの街に着いた。

 早速、依頼書に指定された宿に向かう。

 「アズルの街と違うね。」

 「うん…。」

 2人ともニュールカイムに来るのは初めてである。異国の王都、しかも「魔導都市」と異名を取る程、魔法が溢れた街。

 通りの両側には普通の店に混じって数多くの魔導具屋が並び、行き交う人々にもローブを纏った魔導師とおぼしき人物が目立つ。

 ディーのように武具店が多いレンナルトの町並みに馴染みがあったり、フィリアのようにアズルの街しか知らない者にとっては非常に刺激的な光景だった。

 周囲の光景に魅了され、キョロキョロと辺りを眺める2人は、ある種の人間達の興味を引いていた。

「ごめんなさいっ!」

 突然の衝撃の後、その声が響いたのは、ディーが魔道具店の品揃えに気を引かれて余所見をした時だった。

 思いがけない衝撃に体勢を崩しかけたが、相手の体重がかなり軽かったこともあり、ディーはよろめいただけですんだが、相手は尻餅をついてしまっていた。

 見るとみすぼらしい身なりをした12,3歳の少女だった。

 立ち上がろうとした少女に手を貸そうとして、ディーは右手を差し出しかけた。

 「待って。」

 そこに声をかけたのはフィリア。

 「立つ前に懐に仕舞った物を返してくれるとありがたいんだけど?」

 その声に急に顔をゆがめ、憎々しげな眼でにらみつける少女。

 「ちっ!バレてたのか。」

 そう言うとゆっくり懐から袋を出してくる少女。

 「…私の?」

 その袋を見て呟くディー。それは彼女の持ち物だった。

 と、突然それをフィリアの顔に向かって投げつけると、少女はその場から逃げ出した。

 「どうする?」

 「…フィリアはどうしたらいいと思う?」

 「被害がなかったから無理に捕まえる必要はないと思うけど?」

 「なら…それでいい。」

 そう言うとまた歩き出すディー。

 フィリアは、その隣を歩きながら袋をディーに手渡す。

 「ちょっと浮かれすぎたわね。」

 「…顔は覚えた。次はない。」

 そう言いながらも内心では少し落ち込むディー。あんな小さな子に出し抜かれようとしていたのだ。

 「私も精霊が警告しなければ気づかなかったわ。結構良い腕してたわね、あの子。」

 「冒険者になれば腕の良い探査者スカウトになるかも。」

 そのような会話を続けながら、改めて目的の宿へと向かう。

 その2人の様子を見て、周囲にいた少女の同業者達は、彼女たちを狙うのを諦めた。

 手練れの冒険者は狙うにはリスクは高すぎる。むしろ少女の運の良さをほめるべきだろう。気性の荒い冒険者なら、その場で重傷を負わされたかも知れないから。(この場合、盗みを働いたという事実があると殆ど問題にされない。)



 少女はしばらく裏路地を走っていた。

 路地の角を曲がったり、あるいは進んだりして追跡してくるかも知れない相手を撒こうとしたのだ。

 4、5ピン程走り続けて、ようやく足を止める。

 「ちぇっ、しくじったなぁ」

 そう小さく吐き捨てる。カモだと思ったらかなり手練れの冒険者だった。

 (まあ、とっつかまらなかっただけマシか…。)

 そう考えていた少女がビクッとする。

 自分の方に近づいてくる足音が聞こえてきたのだ。

 いつでも逃げられるように身構えながら足音のする方を見る。

 足音の主は男だった。

 髪の色は黒髪だが、一房だけ銀色が混じっている。瞳は鳶色。

 (エルフ?どっか違う気もするけど…。)

 先程エルフの冒険者に捕まりかかったばかりである。幾分警戒心を高めて相手を見る。

しかし、その男はあっさり少女の横を通り過ぎていった。

 男の姿が見えなくなってからほっと息を吐く少女。

 (…さて別の場所で稼ぐとするか。)

 あの通りはなかなか稼ぎやすい場所だったが、先程騒ぎを起こしたばかりでは不味い。

 頭の中で、どこで稼ごうか考えていると、後ろから声を掛けられた。

 「お前、金を稼ぎたくはないか?」

 ハッとして後ろを振り返ると、そこにローブ姿の男が居た。

 顔はローブのフードに隠れていてよく見えない。

 「どんな話だい?」

 用心しながら問い返す。

 「何、ちょっと手紙を届けてもらいたいだけだ。」

 「へえ、自分で届けたら?」

 「それが出来んから、出来る奴を探しておる。」

 (案外ヤバい話か?)

 少女の住む貧民街では「ウマい話にはウラがある」のは常識だ。

 「そう構えずとも良い。相手方に私が出向いたと知られると困るだけだ。お前が行くのなら問題はない。」

 少女の微かな緊張を見て取ったのか、そのように言葉を重ねる。

 「やってもいいけど、いくらで?」

 「そうだな、10リンでどうだ。」

 「場所にもよるね。」

 「アザトー通りの『テゴス』のところまでだ。」

 「…がま婆のとこか。15リンだな。」

 「良かろう、前金で5リン。『テゴス』のところで残りをもらうがいい。」

 そういうと、金と一緒に手紙を渡す。

 「あいよ。」

 手紙を受け取りながら少女が問う。

 「…あたいが仕事をしなかったら?」

 「『テゴス』に恨まれるだけだな。」

 「…確実に届けるよ。」

 アザトー通りの魔導師を敵に回す訳にはいかない。

 (何とか稼ぎのめども立ったし、今日はまあ運が良かった一日だろう。)

 そう思い、少女はアザトー通りに向かう。

 少女の一日はまだ終わらない。

 

※ニュールカイムのアザトー通りは腕は良いが、一癖も二癖もある魔導師が集まっていることで知られている。そのため、裏の世界ではアザトー通りの魔導師を敵にまわすことは禁忌とされている。噂では不死者が変身魔法で人族になっているとか、妖魔に繋がりのある魔導師がいる等と囁かれている。

※「テゴス」はアザトー通りで名を知られた魔導師である。その容姿から通称は「がま婆」と呼ばれる。表向き「解呪」が専門だが、裏では「呪い」専門だと言われている。その他黒い噂が絶えない人物である。

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