<十六>
ちょっと短め。
試練の間には罠がないため、取りあえずここで休憩することとなった。
休憩の合間に、シィンが大量に持ち込んできた薬品類で体調を整えていく一行。
「何でこんなにいるんだ、と思ったが…。」
「必需品でしたね。」
「ケイトはシィンに謝った方が良いんじゃないか?」
「何でよ!」
「『重い』とか、『こんなに要らない』とか、さんざん文句言ってたろ?」
「…忘れたわ。」
「風追い人」の一行は軽口を叩きながら回復を終えると休憩に入った。
通常なら不寝番を立てるところだが、水精王が、
『ここは安全です。』
と保証をしてくれたので、全員で休むことになったのだ。
役目を終えた水精王は現在、姿を見せていない。
シィンはその軽口に付き合うでもなく、淡々と回復をすると休息に入る準備をしていた。そのシィンにディーが話しかけた。
「シィンさんは…、『風追い人』ではないの?」
「そうだ。今回は俺が依頼主という立場だな。」
「依頼?…何が目的なの?」
「ここにある『剣』を取りに来た。」
素っ気ない会話でなかなか話がつながらない。
そのことにもどかしさを覚えたディーは、更に言葉を重ねようとする。
「あの…、」
「次の間も此処と同じくらいきつい。もう休め。」
そう言うとシィンは会話を打ち切ってしまい、横になってしまった。
その姿に、自分が拒絶されたような寂しさを覚えた。
(…やっぱり、足手まといだと思ってるんだろう、な)
「ディー。」
軽く落ち込みそうになったディーを、後ろから呼ぶ声がした。
振り向くと、ケイトが手招きしていた。
近寄っていくと自分の隣に簡易毛布をずらして隙間を作った。
誘われるまま、そこに座ると、ケイトが話し始めた。
「ディーは足手まといじゃないから。」
「…でも。」
「あなたが生きていて、一番喜んでいるのはきっとシィンよ。」
「そんなはずない…。」
(そんなはずはない。あの人はこの迷宮に目的を持って来ている。私は邪魔者…)
自分の内部に潜りかけたディーの意識をケイトの言葉が引き戻す。
「私達がレンナルトを出たのはディー達より1日遅れ。」
「ですが、着いたのはあなた達が迷宮に潜った1ジアン後です。」
いつの間にか傍に来ていたシャリーが言葉を継ぎ足す。
「急がせたのはシィンよ。」
(嘘、そんな理由はない…。)
「『1ピンでも詰めないとそれだけ間に合わない可能性がある。』あいつが言ったの。」
「彼は…とある『理由』で人が死ぬのを極端に嫌います。」
「同じ『理由』でずっとソロだったのよ、彼は。」
「あの態度は、まあ、その弊害ですね。」
次々とかけられる言葉に戸惑うディー。
「私達が1ジアン遅れた時に彼は覚悟していたわ、『新しき星』の全滅を。」
「でも、貴方は生きていました。」
「だから、ディーが足手まといなんてことは絶対無いの。」
その言葉が、言葉に込められた優しさが沈み込んでいたディーの感情を呼び起こす。
ディーはケイトにしがみつくと、小さな声を上げながら泣き始めた。
その声は静かに、長い間、試練の間に響いていた。




