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Watch ~監視者~  作者:
「精霊の迷宮」
38/98

<一>

なんだか主人公が変わってしまったような…


 アズルの街、「風の宿り木亭」の朝は、結構早い。

 朝一番から少しでも割の良い依頼を見つけようと、冒険者達が集まるからである。

 集まれば、当然、飲み食いする連中もいる。

 だから、ギドの朝はもっと早くなる。

 今朝も仕込みを始めようとしたところで、宿の戸を叩く音が聞こえた。

 「まだ、やってねえぞ。」

 と声を掛けると、仕込みに戻ろうとした。すると、

 「依頼があるんだが。」

 と若い男の声がした。

 「ふーん、なら入りな。」

 ギドはそう言って戸を開ける。

 そこに立っていたのは17,8歳くらいの若い男だった。

 男、というよりは幾分少年に近いかもしれない。

 が、その男が身にまとう雰囲気や、ちょっとした動作はむしろ壮年のような、そんな不思議なものが混ざり込んでいた。

 顔立ちは整っている、といってもよいだろう。もし街を歩けば、すれ違う女性の幾人かは振り返るかもしれないほどではあった。

 髪の色は黒髪だが、一房だけ銀色が混じっている。瞳は鳶色。

 (冒険者のように見えるが、何が得意かは一寸わからねえな。)

 そう思ったが、とりあえず依頼の話が先だ、と思い男を招き入れた。


「ようやく戻ってきたか、このドンガル野郎。」

 依頼を終え、一週間ぶりに帰ってきた「風の宿り木亭」。

 そこでカイト達を出迎えたのは、ギドのそんな声だった。

 「一仕事終えて帰ってきた身内に、ドンガルはないだろう。」

 言い返すカイト。

 仲間達は(またか。)とでも言いたげな顔で苦笑している。

 「うるせえ、ドンガルはドンガルだ。」

 「何だと、俺たちがドンガルなら親父はガメスだろう。」

 「何だと。カイト、言いやがったな。」

 「言ったがどうした、このガメス野郎。」

 「口のへらねえドンガルだな、てめえは。」

 周りからは「いいぞもっとやれー。」「カイト、もっと言ってやれ。」「親父、負けるなよー。」と野次馬達が次々と煽る。中には隅の方で、「親父の勝ちに1000リン。」「カイトの勝ちに500リン。」「チャレンジャーだな。」等と賭が始まる始末だ。 

 ほっておくと、延々と続きそうだったので、仕方なしにケイトが割って入る。

 「二人ともいい加減にしてよ。帰ってくる早々、何で喧嘩を始めるのよ。」

 そして「…ここからが面白いのに。」「賭が…」といった声を一睨みで黙らせると、

 「とにかく疲れてるんだし、お腹もペコペコなの。これ以上、手間掛けさせると…。」

 そこで、にっこり微笑むケイト。

 とたんに、がっちりと握手し強張った笑顔を浮かべる二人。

 「も、もちろん仲直りだぜ、なあ、お、親父。」

 「あ、ああ。もちろんだとも。」

 「そう、良かったわね。じゃあ、ご飯よろしく。」

 そう言ってテーブルに向かうケイト。仲間達も肩を竦めて後ろに続く。

 カウンターでは、ギドとカイトが声を潜めていた。

 (よっぽど腹減ってやがったな。)

 (それもあるけど、依頼でね…。)

 (失敗じったのか?)

 (依頼主のボンボンに絡まれたんだよ。)

 (そりゃあ、また…。)

 (前回みたいにぶっ飛ばしそうになった所を危うく止めてさ…)

 (つまり欲求不満…。)

 「そこ、何ゴチャゴチャ言ってるの!」

 慌てて、ケイトの所に向かうカイト。

 目の隅に、不機嫌そうなケイトに、頭を上げて謝っているカイトの様子を見て、溜息をつきながら、ギドは欠食児達のための料理を準備し始めた。


※ドンガルはサザエのような固い殻をもった夜行性で肉食の陸貝系魔獣。そのスピードは人が歩くよりも遅いため、よく、仕事が遅い者に対する悪口として使われる。ただし、音もなく近寄ってきて強酸性の消化液で攻撃してくるので、実際の危険度は高い。なお、肉は生では臭いが強く食べられないが、干した物は味も良く、保存食として用いられる。

※ガメスは大型の亀系魔獣。水中では機敏で危険度は高い。しかし、産卵のため陸に上がってきたときには行動が緩慢で、ひっくり返してしまえば簡単にしとめることができる。肉、卵とも美味なので、狩猟依頼が出ることもある。 


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