<二十六>
戦闘がひとまず決着。
転機はそれぞれの闘争で、ほぼ同時に起きた。
アルの目配せを受けて、2人から距離をとるビロウズ。
一瞬後にその意図を覚り、ビロウズに向かおうとするシィン。
それを食い止めるアルフォード。
ビロウズは、アルフォードを巻き込んで大呪文を使うつもりなのだ。
シィンには出し惜しみをしていては勝てない。自分たちがシィンより弱いことを自覚したからこその、捨て身の戦法だった。
そうはさせじと何とかしてビロウズの元にたどり着こうとするシィン。
防御に徹してシィンを遮るアルフォード。
ビロウズの一撃で勝負を決める。例え、自分が犠牲となってもシィンを斃す。
その決意で立ち塞がるアルフォードを一瞬で突破することは、さすがにシィンでも無理だった。
そして完成するビロウズの呪文。
-我は願う-大地に眠る土の精霊-敵-貫く-『土霊槍陣』
-我は願う-空に漂いし風の精霊-敵-切り裂く-『風刃斬』
-我は願う-全てを燃やす炎の精霊-敵-焼き尽くす-『炎嵐』
これがビロウズの秘術。通常、精霊魔法は精霊がいない限り行使することができない。しかし、ビロウズは複数の精霊を支配していたのだ。そのため、どのような場所であろうと支配している精霊に関わる精霊魔法を使うことができるのだ。
それだけではない。ビロウズは同時に三種類の精霊魔法を発動させた。普通、一流と呼ばれる精霊術師でも、2種類の魔法でさえ発動させることは難しい。それを考えると、どれだけビロウズが卓越した精霊術師かがわかる。
シィンはビロウズの術の発動に自分が間に合わないことを理解した。
(それでも、行くしかない!)
決意すると、シィンは疾風と化した。
カイト達は限界の一歩手前にいた。
ゴーレムももちろん無傷ではない。攻撃を集中することで右足を半ば潰すことに成功していた。
しかし、それ以上にカイト達の損耗が激しすぎた。攻撃をかわし損ねたケイトを庇ってカイトが盾を失った。怪我した仲間の治療でグレンの心力も尽きている。牽制役のケイトとファーサイトもすでにスタミナ切れで動きが鈍くなってきていた。シャリーにしても魔法は後、大技一つ放てるかどうか、というところだ。
(何か、手は無いの!?)
シャリーは必死になって挽回の手段を探していた。仲間の技能、習得魔法、状況…。だが、どれも挽回の手段には結びつかなかった。
(このままではみんなが、カイトが死んでしまう…。)
ゴーレムと戦いながら、何とかしようと模索するシャリーの目に、それは映った。
シィンが疾り出したとき、アルフォードも即座に後を追った。
(ここで逃がすわけにはいかん!)
シィンはおそらくビロウズの一撃を、できるだけ威力を削ぐために距離を取ろうとしている。ビロウズの放とうとしている呪文から考えれば、それはほとんど無駄な行為である。
しかし、ビロウズにはもう余力はない。万が一にでもシィンに戦う力が残ってしまえば、結果は明らかである。
(俺がすべきなのはシィンの足止め!)
自分の命を度外視した捨て身。それがアルフォードの選択だった。
そして、ビロウズの呪文が放たれる。
呪文が放たれた後に立っていたのはビロウズと、呪文の圏外であったカイト達のみであった。
「…これで、決着ですか。」
そう呼びかけたのはビロウズ。しかし、呼びかけたのはカイト達にではない。
床に倒れた者達の中から、立ち上がってきた者に声をかけたのだ。
「ああ、決着だ…。」
そう呟くとビロウズに向かって歩み出したのはシィン。
ゆっくりと近づくと、その胸に小剣を突き出す。
トスッ
それは今までの戦いからみれば、あっけなくビロウズの胸に突き刺さった。
「…強…くなり…ました…ね。」
その言葉を最後にビロウズは静かに崩れ落ちた。
あの瞬間、シィンは距離を取るために疾ったのではない。「盾」にするものをめざして疾ったのだ。そう、ゴーレムという名前の「盾」を。
賭けだった。ゴーレムの殺傷圏内に入れば攻撃をされるかもしれない。しかしゴーレムの役割-シィン達の戦いの邪魔をさせない-から考えて、されないかもしれない。
その一点に賭けて、あえてゴーレムの懐に飛び込んだ。
そして賭けに勝った。ゴーレムはその一瞬確かに動きを止めたのだ。
結果、ビロウズの呪文のダメージは、ほぼ全てゴーレムと、後から追いすがったアルフォードのみが受けることとなったのだ。
余波で床にこそ叩きつけられたが、シィンには余力があった。
こうして同時に始まった2つの戦いは、同時に終了した。
ビロウズの傍らにしゃがみ込み、そっと目を閉じさせるシィン。そしてビロウズの髪を一房切り取ると懐にしまった。
立ち上がると踵を返し、アルフォードに近づく。
アルフォードは微かに息をしていたが、その命の炎はまもなく尽きようとしていた。
その場にしゃがみ込むシィン。
「シィ…ン、頼…みがあ…る。」
微かな息の下でそう呟くアルフォード。
「何だ。」
「懐…のクリ…スタルを…里に届…けて欲…しい。フィ…リアも…な。」
最後の命を振り絞ってそれだけ言い残すと、アルフォードも逝った。
アルフォードの髪を一房、そして託されたクリスタルを懐に入れると立ち上がった。
カイト達の方を見て一言声をかけるシィン。
「行くか?」
「行こう。」
満身創痍ながら、生き残った6人は歩き始める。
いつの間にか行く手には新たな通路が生まれていた。
次回ラスボスと遭遇。




