第三十一話 羽毛
音楽のリズムに合わせ、エイノも皆と一緒に踊っていた。
彼が腕を振った、その瞬間――
目の前を、雪のように白い影が一瞬で駆け抜けた。
エイノの笑顔が、瞬間に凍りついた。
エイノはすぐさま視線をその影へと向けた。
しかし、その白い影はあまりにも速く、あっという間に脇道へと駆け込んでいった。
エイノは一切迷うことなく、その後を追った。
「エイノ! どこへ行くの!」
エイラが真っ先に反応し、すぐに後を追った。
カイロスとコウシンも顔を見合わせると、その後に続いた。
四人は狭い路地を抜け、周囲から聞こえていた笑い声が次第に遠ざかっていく。
路地を抜けた先に広がっていたのは、一面の空き地だった。
そこには飾り一つなく、外の賑やかで楽しげな雰囲気とはまるで異なっていた。
空き地の中央には、小さな草地だけがあった。
そこには一人の少女が座っており、その腕の中には、全身真っ白な魔獣が横たわっている。
エイノはその小さな姿を見つめ、無意識に歩みを緩めた。
一歩、また一歩と、少女のもとへ近づいていく。
エイラが後を追おうとした、その時――
鼻先を、ふわりと焼き肉の香りがくすぐった。
彼女は怪訝そうに振り返った。
見ると、カイロスはいつの間にか片手に焼き肉の串を持ち、もう片方の手にはジュースを二杯持っていた。
一方、コウシンは顔よりも大きな棒付きキャンディを片手に持ち、もう片方の手には蒸しエビの皿を抱えていた。
「はい、これ。」
カイロスは焼き肉を一口頬張ると、手にしていたジュースをエイラへ差し出した。
「一口飲んでみろよ。すげぇ美味いぞ!」
コウシンもまた、手にしていた蒸しエビをエイラへ差し出した。
エイラはそれを受け取ると、エビを一匹手に取った。
「そういえば、こいつらも海の中で暮らしてるんだよな。これって海鮮ってことになるのか?」
エイラの動きが止まる。
「俺たち、こいつらの親戚を食べてるってことにならないか?」
その言葉を聞いた瞬間、エイラが口に運ぼうとしていたエビが、ゆっくりと遠ざかっていった。
コウシンは先ほどまで俯いて棒付きキャンディを舐めていたが、ぴたりと動きを止める。
そして、ゆっくりと顔を上げ、カイロスを見る。
カイロスは二人の視線に気づくと、無言のままそっと顔を別の方向へ向け、何事もなかったかのように振る舞った。
一方その頃、エイノはすでに少女の傍まで歩み寄っていた。
彼は無闇に声をかけることなく、ただ少女の隣へ静かに腰を下ろした。
近くまで来て初めて気づいたのだ。
少女の瞳には光がなく、まるで何も見えていないようだった。
それでも、見知らぬ誰かが近づいてきたことは察したのか、彼女の耳がかすかに動いた。
「こんにちは!」
少女は少しも怯える様子を見せず、ただ好奇心を滲ませながら、エイノのいる方へ顔を向けた。
「こんにちは。」
エイノも穏やかな笑みを浮かべた。
「見て! この子、雪玉っていうの。可愛いでしょ!」
少女は腕の中にいた魔獣を抱き上げ、そのまま雪玉で自分の顔を隠してしまう。
「きゅい!」
小さな魔獣も息ぴったりに鳴き声を上げ、得意げに胸を張った。
エイノは思わず笑みをこぼした。
少女は、ようやく話し相手を見つけたのが嬉しいのか、雪玉の柔らかな毛並みを優しく撫で続けている。
「この子、ここで日向ぼっこするのが好きなの。お魚を食べるのも好きだし、あちこち走り回るのも好き。でもね、いつも自分で私のところに帰ってきてくれるんだよ!」
少女の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
「もし誰かが私をいじめたら、この子が守ってくれるの。雪玉は世界一の友達なんだよ!」
エイノは静かに耳を傾け、口元に次第に笑みを浮かべていく。
彼は昔から、子供が好きだった。
少女の顔に浮かぶ純粋で優しい笑顔が、転生してからずっと張り詰めていた彼の心を、いつの間にか少しずつ解きほぐしていた。
エイノは手を伸ばし、雪玉の頭をそっと撫でた。
小さな魔獣は気持ちよさそうに目を細め、耳も嬉しそうに揺れた。
その瞬間、エイノの笑みがわずかに強張り、撫でていた手もぴたりと止まった。
彼はわずかに口を開き、何かを言いかけた。
しかし、それより先に少女が口を開いた。
「お兄ちゃん、外は楽しい?」
「え? 楽しいよ。外はすごく綺麗だし、君も見に行ってみる?」
「ううん。みんな、私とは遊んでくれないから。」
少女は首を横に振った。
「どうして?」
「私、純粋な星海族じゃないの。お父さんは土岩族の人で、それに私の魔力も弱いから、誰も私と遊んでくれないの。でも、雪玉は私のたった一人の友達なの!」
少女は俯き、雪玉の柔らかな毛並みをそっと撫でた。
その顔には、悲しみも寂しさも浮かんでいない。
ただ、純粋な笑顔だけがそこにあった。
エイノは少女の顔に浮かぶ笑顔を見つめ、黙り込んだ。
それは無理に作った笑顔ではない。
――ただ、すべてを受け入れることに、もう慣れてしまっただけなのだ。
星海族の伝統について、彼はかつて本で読んだことがあった。
三百年前の星海族は、完全に開かれた海底世界だった。
他族の者と結婚する者も、決して少なくなかったという。
では――なぜ今のような閉ざされた星海族へと変わってしまったのだろうか?
「でも、大丈夫。私には雪玉がいるから!」
雪玉は自分の名前が聞こえたことが分かったのか、すぐに顔を上げた。
「きゅい!」
「そうだよね!」
少女は、さらに嬉しそうに笑った。
エイノは少女を見つめ、つられるように微笑んだ。
「うん、本当に素敵な友達だね。」
エイノは静かに立ち上がり、エイラの隣まで下がった。
すると突然、蒸しエビの皿を手に押しつけられた。
「ん? これ、どこから来たの?」
エイノは手にしたエビを見下ろし、それから隣にいる三人へ視線を向ける。
三人は同時に視線を逸らし、誰一人として答えなかった。
その時、カイロスがふと口を開いた。
「じゃあ、あれが依頼の羽毛だろ?」
エイノは彼の視線を追って、そちらを見る。
「うん。」
カイロスは依頼書を取り出し、そこに描かれた絵と少女の腕の中にいる羽毛を見比べた。
「ってことは、こいつを連れて帰ればいいんだよな?」
「待って!」
エイノは慌てて声を上げた。
「ん?」
カイロスは不思議そうにエイノを見る。
「その……本当に、こいつを連れて帰らなきゃダメなの?」
カイロスは一瞬きょとんとした。
「それ以外に何があるんだ?」
「でも……」
「じゃあ、この子はどうするの?」
エイラがふと口を開いた。
「この子にとっても、羽毛は唯一の友達なんだよ。」
カイロスは黙り込んだ。
その顔に浮かんでいた気楽そうな表情も、次第に真剣なものへと変わっていく。
「でも……こいつは元々ワーグの魔獣なんだろ?」
「分かってる。でも……」
「この子がどれだけ可哀想だろうと、俺たちの仕事はこの子を助けることじゃない。あの魔獣を連れて帰ることだ。」
コウシンも話に加わる。
「じゃあ、私たちはそのまま近づいて、羽毛を無理やり連れていくの?」
エイラは一歩前へ出て、カイロスを真っ直ぐ見つめた。
「あなたは、この子を押しのけてまで、魔獣を連れていける?」
カイロスは眉を寄せ、答えなかった。
――彼には、できなかった。
エイノは傍らに立ち、話には加わらず、ただ少女を見つめていた。
少女の手が、羽毛の頭を優しく何度も撫でている。
エイノはしばらく黙り込んだ後、ふと何かを思いついた。
「ねえ……羽毛自身に決めてもらうのはどうかな?」




