12 IN YOUR FACE誕生
「この間のおめらのガキの頃の写真紹介動画、いい反響だったっぺ?」
ある日、海里から大河に電話が入る。
「うん。イダさんもいがった(注:良かった)つってたど。特に朱里は恥つかしがってたけんど、あの写真はかなりインパクトあったみてえだべ」大河はくつくつと笑いを堪えながら答える。
「そんでな、実はまたいいモン発掘されたがら、おめらのチャンネルで紹介してえんだ!」
「なんでえ? 次は動画?」
「ほだ。埋もれさせておぐにはちっともったいねえ動画なんだ。ぜひ使ってくろよ!」
「いいど」大河は前回同様快諾する。元よりこれで有名になりたいだとか、注目を集めたいとかの思い入れは絶無のチャンネルである。イダから言われるままに運営しているだけである。
「ほっだら今からデータ送っから観てくれ」
「わがっだ。楽しみにしてるべ」
そうして送られてきた動画は、海里率いるNeedled24/7のいつだかのライブ動画であった。楽しみだと(そして朱里は先だってのことがあるので心配で)メンバー全員頭首揃えてパソコンでデータを開いたのに、自分たちとは無関係の映像が始まりひどく呆れた。
「何でえ、あんちゃん自分の動画でねえか。送るデータ間違えたなあ?」大地は眉根を寄せて言った。
「ほだよ大河、あんちゃんに送る動画間違えてっからって電話しろ」ルアンも落胆しつつ言った。
その時画面を凝視していた朱里が、両隣にいた大地とルアンの腕を握りしめて揺さぶった。
「何だあ?」ルアンが不審げに朱里を見つめる。「あんちゃんカッコいいっつうのが?」
朱里が画面を指さす。その指先を見て、三人は息を呑んだ。
「こらあ、……俺らでねえが!」すぐさまルアンは頓狂な声を上げた。
ステージの真ん前、そこにはまだ子供じみた顔つきの四人が、拳を上げて歓喜の眼差しでステージ中央に立ち叫ぶ海里を見上げていた。
「こらあ、……俺らが初めてあんちゃんさ観に行ったライブだべ! ほれ、水戸の!」大地も興奮して叫ぶ。
「ほっだよ! 俺らど真ん前行きすぎてこっだにはっきり映ってんべ! よぐこんなの残ってたべ……」大河も感嘆する。
朱里も信じられないとばかりに画面を食い入るように凝視した。
そこには中学に上がったばかりの大地たちと、まだ小学生だった大河の姿。拳を突き上げ、興奮しきりという顔つきで海里を見上げている。
そして海里がルアンをステージに上引きずり上げる。そしてそのまま蹴飛ばされてダイブ。
「おめ! 初めてのライブでこっだらごとやってたんかあ?」大地が腹を抱えて笑い出す。
「ほだよ! あんちゃんかっこよすぎて、じっとしてらんねがったかんなあ!」ルアンは誇らしげな笑顔で食い入るように画面を見つめた。
「朱里もあんちゃんにずっと手伸ばしてっぺな。あんちゃんもほれ! おめのごど見てっど」
朱里は潤んだ眼差しで頷く。
「……これがあったから、おれらバンド始めたんだどなあ」大河がため息交じりに呟く。
「ほだよ。この帰りの電車でよお、バンドやっぺやっぺって盛り上がったどな! おれはもうこの時、ほれ、このヘドバンしてっ時にはもうあんちゃんとおんなし、ギターと歌とやるって決めてだがんな!」
「おれもステージからダイブした時にはドラム引っ叩くと思ってたど!」
画面の中ではまだ何者でもなかった四人の子どもたちが、砂沼から世界へと飛び出すきっかけを与えられたまさにその瞬間が刻まれていた。
【コメント欄】
ニュージーランド
WAIT. THIS IS THE SHOW THAT MADE THEM START A BAND?!
「待って。これが彼らがバンドを始めるきっかけになったライブなの!?」
ドイツ
We are literally watching the birth of IN YOUR FACE.
「今、まさにIN YOUR FACE誕生の瞬間を見ているんだ。」
スペイン
This isn’t just an old concert video. This is history.
「これは単なる昔のライブ映像じゃない。歴史そのものだ。」
台湾
Four kids from Sanuma watching their future unfold without even knowing it.
「砂沼の4人の子供たちが、自分たちの未来が始まる瞬間を、何も知らずに見ている。」
アメリカ
They had no idea where that night would take them.
「この夜が自分たちをどこへ連れていくのか、本人たちはまだ何も知らなかったんだね」
ニュージーランド
Knowing where they are now makes this almost unbearably emotional.
「今の彼らを知っているから、これはほとんど耐えられないくらい感動的だ。」
イギリス
From this crowd to Wacken.
「この観客席からWackenへ。」
南アフリカ
From watching Kai on stage to standing on the same kind of stage themselves.
「海里をステージの下から見ていた子供たちが、今度は自分たち自身が同じようなステージに立っている。」
イタリア
I wasn’t ready for this.
「こんなの心の準備ができてなかった。」
スイス
KAIRI WAS THEIR HERO.
「海里は彼らのヒーローだったんだ。」
ポルトガル
Now I understand why they respect him so much.
「彼らが海里をあれほど尊敬している理由が、今なら分かる。」
ブラジル
LUANN?! YOU DID WHAT?!
「ルアン!? お前何やってんの!?」
スウェーデン
HE STAGE-DIVED AT HIS FIRST EVER CONCERT?!
「初めて行ったライブでステージダイブしたの!?」
フランス
Kairi literally kicked him into the crowd.
「海里、マジでルアンを客席に蹴り飛ばしてるじゃん。」
カナダ
Look at Shuri reaching for Kairi.
「朱里が海里に手を伸ばしてるのを見て」
マレーシア
She knew exactly who her hero was.
「彼女にとって誰がヒーローなのか、この頃から決まってたんだね。」
韓国
And now Shuri writes the music. This is beautiful.
「そして今では朱里が曲を書いている。美しいな。」
チリ
Look at their faces. They aren’t pretending. They’re completely mesmerized.
「あの子たちの顔を見て。演技じゃない。本当に完全に夢中になってる。」
メキシコ
That look in their eyes is the exact reason people start playing music.
「あの目こそ、人が音楽を始める理由そのものだ。」
オーストリア
They weren’t trying to become famous. They just wanted to make music like Kairi.
「有名になりたかったわけじゃない。ただ海里みたいに音楽をやりたかったんだ。」
ポルトガル
The craziest part is that WE know what happens next. They don’t.
「一番すごいのは、次に何が起こるかを“私たちは知っている”のに、あの子たちは知らないこと。」
エジプト
Someone tell those kids they’re going to Wacken someday.
「誰かあの子たちに、いつかWackenに出るんだぞって教えてあげて。」
ノルウェー
They would never believe you.
「そんなこと言っても、絶対信じないだろうね。」
日本
「これが伝説の水戸ライブか」
「帰りの電車でバンド結成決めたって話、ここだったのか」
「うわ、海里兄ちゃん若っ!」
「ルアン初ライブからダイブしてんのかよwww」
「蹴り飛ばされてるの笑う」
「朱里ずっと手伸ばしてるの可愛い」
「この子たちがマジでヴァッケンに行っちゃうんだよな……」
「この映像の数年後に世界のステージに立つと思うと鳥肌」
「砂沼の子供が世界まで行ったんだな」
ドイツ
I saw them at Wacken. Now I’m watching the kids who started this whole thing.
「Wackenで彼らを見た。今、そのすべての始まりになった子供たちを見ている。」
アイルランド
We watched them at Wacken. Now we’re watching the moment they decided to become a band. They were just kids in the crowd, looking at their hero. They had no idea that one day they would become the band on that stage. This is one of the most beautiful things I’ve ever seen.
「私たちはWackenで彼らを見た。そして今、彼らがバンドになると決めた瞬間を見ている。彼らはただ客席にいる子供で、憧れの人を見つめていた。いつか自分たちがそのステージに立つことになるなんて、あの子たちは知る由もなかった。今まで見た中でもっとも美しい映像の一つだ。」
フィリピン
“From Sanuma to Wacken.”
「砂沼からWackenへ。」
そして、この動画の最後には今の四人の短い映像が付けられた。
朱里が微苦笑漏らしながらサラサラと書いたメモが、画面に映し出される。
ーーこのライブ観に行ってなかったらIN YOUR FACE結成してない わたし音楽やってない
大地も笑顔で頷いた。「ほだよ。おれもバリバリ専業農家でやってたべ。副業でカブトムシ育成はしてたかもしんねけどな」
ルアンも思わず噴き出した。「これマジだかんな! マジでこのあんちゃん観てながったら俺ら全員ただの下妻の悪タレだかんな」
大河が苦笑を漏らす。「悪タレかどうかは置いといて、……音楽はやってねえです。それは間違いねえ」
海外ファンによるコメントは続いた。
オーストラリア
“Without this concert, IN YOUR FACE would not exist. I wouldn’t be making music.” — Shuri
THIS IS INSANE.
(「このライブがなければIN YOUR FACEは存在しなかった。私は音楽をやっていなかった」——朱里。
これはヤバすぎる。)
マレーシア
We are literally watching the origin story of the band.
(文字通り、このバンドの誕生秘話を目撃してる。)
スイス
Shuri saying “I wouldn’t be making music” hit me HARD.
(朱里の「私は音楽をやってなかった」という言葉、めちゃくちゃ刺さった。)
モンゴル
And Daichi would have been a full-time farmer?!
(そして大地は専業農家になってたの!?)
韓国
“I would’ve been a full-time farmer.”“Maybe I would’ve raised beetles as a side business.”
I’M CRYING
(「俺は専業農家だったべ」「副業でカブトムシ育ててたかもしんねえ」泣くほど笑う)
カナダ
THE BEETLE FARMING CAREER THAT WE ALMOST GOT.
(幻に終わった「カブトムシ農家」という人生。)
イタリア
“Shimotsuma delinquents” is my new favorite phrase.
(「下妻の悪タレ」、俺の新しいお気に入りの言葉になった。)
イギリス
Four children from a small town watched one concert and decided to become a metal band. This sounds like a movie.
(小さな町の4人の子供が、あるライブを観てメタルバンドを始める。映画みたいな話だ。)
アメリカ
Imagine the alternate universe where they never went to that show.
(もしあのライブに行かなかった世界線を想像してみて。)
フランス
Daichi: farmer
Shuri: ???
Luann: ???
Taiga: studying something and being responsible
Needled24/7 accidentally created a monster.
(大地:農家
朱里:???
ルアン:???
大河:勉強して真面目に生きている
Needled24/7は偶然モンスターを生み出してしまった。)
ブラジル
This makes their Wacken performance even more emotional.
(これを知った上で彼らのヴァッケン出演を見ると、さらに感動する。)
フランス
We need the full video of that concert. PLEASE.
(そのライブ映像をフルで見せてくれ。お願いだから。)
日本
「朱里の『音楽やってない』が一番重い」
「これ聞いた後に今のIN YOUR FACE見ると泣ける」
「副業カブトムシ育成www」
「大河だけ最後まで冷静なのほんと大河」
「大河『悪タレかどうかは置いといて』そこじゃねえwww」
「この4人、結局ずっと砂沼の子供なんだよな」
「一番真面目な奴が淡々と『音楽はやってねえです』って言うの好き」
One concert. Four kids. One decision.
And somehow, years later, they ended up playing Wacken.
Sometimes your whole life really can change in one night.
(一つのライブ。一組の子供たち。そして一つの決断。
それから何年も経って、彼らはヴァッケンのステージに立った。
人生って、本当に一晩で変わることがあるんだな。)




