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⑩インタビュー回

 見慣れた砂沼。見慣れた筑波山。ーー大河はそれらをカメラに収めながら語る。

 「ありがてえごどに、俺らに興味を持ってくれる人もだいぶん増えて来ました。こごのチャンネルの登録? っていうんですか、そいうのもやっでぐれる人が着々と増えてきでいて、ありがてえ限りです」

 ホーホー、ホホッホー。ホーホー、ホホッホー。土鳩の鳴き声が入る。

 「こっだのが当たり前に聞こえるぐれえ茨城の田舎のバンドなのに、東京のライブハウスさもずいぶん出してもらえるようになって、本当にありがてえごどです。今日はメンバーにいくづか質問ももらってますので、それに答えていく形で進めていきたいと思います」

 映像は変わって薄暗い蔵の中。

 暗がりの中で俯きながら、ギターのチューニングをしている朱里に近寄っていく。

 「朱里、質問が来てっから答えてくろ」

 うん、と頷く。

 「普段はインタビューの依頼全部断ってでごめんなさい。朱里はそういうの苦手なんで。なので今日は特別です。……んじゃ質問その1。曲はどんな風に作ってんですか?」

 朱里はポケットからメモ帳を出し、さらさらと何やら書いていく。

 ーーよし作ろうって

 「『よし作ろう』って思って作ってるそうです。気合ですね」

 朱里は頷く。

 「メロディーが突然ふっと下りて来るとかはありませんか?」

 朱里は首を横に振る。

 「大変だべ!」

 ーーやりがいある

 「そらあ、いがった」大河は微笑む。「でも、徹夜したり無理はしねでほしいです。じゃ、次。好きなバンドは何ですか?」

 ーーIN FLAMES、HALO EFECT、Dark Tranqulity

 「北欧のメロデスが好きなようです」

 朱里はにこり、と微笑む。

 ーーChristopher Amottが好き

 「そうです。朱里はクリスを尊敬してます。兄弟でギターやってっとごも朱里と似てますね。しかもクリスも弟だし。こないだあんちゃんとHALO EFECTの来日も行っでましだね」

 ーーかっこよかった!

 「ライブの後朱里しばらくウキウキでした。……曲作りのこだわりはありますか?」

 朱里は少し考えて、

 ーーキレイなメロディ 強いリフ・リズム

 「キレイと強いの両方を意識しているそうです。たしかにそうです。なので、強い担当のルアンはいづも死にかけでます」

 ーーしょうがない メタルだもん

 大河はあはは、と声を立てて笑う。

 「あど、メンバーについての質問も来てます。……えっと、メンバーの第一印象について。覚えてっか? 大地と会ったの、幼稚園だっぺ」

 朱里は頷く。

 ーーだいち元気

 「あはは、そら、今もだっぺ」

 ーーはしる 虫とる 木のぼる

 「その体力が今ライブに生かされてっぺ」

 朱里はくすりと微笑んだ。

 ーーあの頃から童謡大きい声で歌ってた 大きい声出せていいなあって思ってた

 「家でもよぐ歌ってたな。あの時から歌が好きだったのかもしんね。……じゃあ、次ルアン。ルアンは小学一年の時に転校してきましたね」

 ーーきれいなあおいめ きれいなきんぱつ

 「そうですね。俺もルアンはあんまりきれいな顔立ちさしてるもんで、絵本から出てきたんでねえのがって思ったべ」

 ーー日本語しゃべれなくて私といっしょだと思った それですぐ仲良くなった

 「そう、ルアンは初め全然日本語喋れなかったんです。今は立派な茨城弁喋ってますけど。あらあ、全部俺らのせいです。ルアンが喋り出すと笑われることあっけど、茨城弁吹き込んだのは紛れもねぐ俺たちなんで、ちっと罪悪感あります。笑わねでやってください」

 ーー今は外国人だと思えない 納豆好きだし

 大河は笑い出す。

 「ほだよ。あいづ、毎朝納豆食って、好物は赤飯とおはぎだし、あんな外国人面してんのに、全然外国人って感じがしねえんだよな」

 朱里はうんうんと頷く。

 「じゃあ、……なんだか直接聞くのは恥ずかしいけど、俺の第一印象は覚えてますか?」

 ーーかわいかった だいちがじまんしてた

 ぷっと噴き出す。「なんだべ、そら」

 ーーようちえんで おれのおとうとだってじまん

 「ほっだらごと言ってたんか?」

 ーー大河の入園式の日私の前に連れてきた

 「ああ、そらあ何となぐ覚えてる。初めて幼稚園さ行った時、朱里が俺の手さ引いてあちこち案内してくれた。ここがシーソー、ここが滑り台、ここが砂場だよってな。朱里はそういうちゃんとしたところに連れてってくれんのに、大地は『ここの水たまりですっ転んだ』『ここの木から落ちた』『ここの花壇みみずいる』ってな、ほっだらろぐでもねえどこばっか案内して朱里呆れてたべ」

 朱里は口元を抑え、くすくすと笑った。

 「なんか、あの時から朱里はお姉ちゃんって感じだったな」

 ーー大地がひどすぎるから

 「そうです。大地がぶっ飛んでっから、朱里も俺も、それを見てしっかりしねえどだいだなって思うようになったわけです」

 ーー大河は優しくていい子。まわりをちゃんと見て、みんながここちよくできるようにいつもがんばってる。バンドの屋台骨。大河がいなかったら崩壊してる。

 大河は苦笑を浮かべる。

 「そらあ褒めすぎだべ。……でも、うぢのバンドは一人でも欠けたらだいになります。ま、他のバンドもそうかもしんねけんど、代わりが入っても多分だいになります」


 そこにガラガラ、と音を立てて蔵に入ってきたのはルアンであった。

 「ルアンが来ました」

 「おお、いだいだ。何でえ? 撮影しでんのが」バッグを床に放り出し、早速スティックを握る。

 「ほだよ。今日はインタビュー回だべ。……じゃあ、早速ルアンに質問していぎます」

 そう言ってドラムスローンに腰掛けたルアンに近寄る。

 「ドラムやる上で大切にしていることは何ですか?」

 「ほら、体力だべ。一にも二にも三にも体力。メタルは体力」

 「ほんで砂沼マラソンでも三位だったんですね」

 「ほだ、まいんち全力で2バス踏んでっからな。全力疾走してんのと変わんめ。来年は優勝目指すど」

 「来年もやんのかよ」

 「ほだ。俺は負けず嫌いだかんな。優勝するまでやる」

 と言って気合十分にダガダン! とバスドラムを踏む。

 「じゃあ、次の質問。好きなドラマーは誰ですか?」

 ルアンは口の端を上げて、「そらNILEのジョージ・コリアスだべ。あの2バスは神だべ!」

 「だそうです。ルアンはデスメタルが好きです。メンバーの中では一番ヘヴィなのが好きだと思います。ちなみに、好きなバンドは?」

 「もちろんNILEは最強だし、あどはDEATHも好きだべ。DEATHは一番よぐ聴ぐ」

 「相変わらずルアンは激しい音楽が好きですね」

 「ほだ。やっぱドラムが最強に目立って強ぇぐて速ぇのが聴いてて気持ちいいべ!」

 「ブラストビートに定評のあるルアンらしい趣味です。……じゃあ、さっき朱里にも聞いたっけが、メンバーの第一印象は覚えてますか?」

 「そらな、小学校一年の夏に日本に来て、真っ先に声かけてくれたのが大地だった。まあ、何言ってっかはわがんなかっがけどな」

 朱里がメモを書いて見せる。

 ーーどこから来た? とか聞いてたよ

 「そんな感じだったっぺ。俺がちんぷんかんぷんって顔してたら、手引いて、あらあ、図書室かな? 校舎案内してくれんのかなって思ったら世界地図の前に連れてかれてな、どこから来た? みてえな感じだったから、ベトナム指したんだ。したっけ、大地がニコニコしてな。こいづは、ずいぶん懐っこいやつだなって思ったべ」

 ーーその日のうちにいっしょに釣りに行ったよね?

 「そうそう。学校終えたら大地と一緒に朱里んち行ってな、昼飯に豪勢なちらし寿司さご馳走なんて、こっだにうめえのが日本にはあんだってどえれえたまげたべ。それからあんちゃんと大河も来て砂沼で釣りして。あんちゃんに釣りのやり方教わって、すーぐでっけえブラックバスさ釣れてな、みんなで大喜びして楽しかったっけなあ」

 「初日から仲良しでしたね」

 「ほだ、日本に来る時はどうしたもんだっぺってちっといじやけでだけど、おめらに会ってすぐほっだら不安はなくなった。すぐ夏休みさ入ってまいんち遊んで、楽しかったべー。大地にセミ採り、カブト採りってまいんち連れ回されてな。梨捥ぎる手伝いもさしてもらってな。大地の父ちゃん、母ちゃん、じいちゃん、ばあちゃんにもだいぶん世話んなって。夏休み終える頃には茨城弁マスターしたべ」

 「たしかにおめの日本語習得、早かった気がすべ。あんまルアンが日本語喋れなかった期間はねがったような気がする」

 「こう見えても結構ものおぼえは早い方だべ」ルアンがそう言って胸を張る。

 ーールアンはなんでも修得早い ドラムもすぐ上手くなる

 「そら、おめが文句言い過ぎだからだべよ!」

 ルアンの嘆きに朱里は苦笑を漏らした。


 その時、ガラガラと大音立てて扉を開けたのは、大地である。三人の姿を見るなり、

 「さあ、練習やっぺやっぺ!」と手ぬぐいで首元を拭きながら入って来た。

 「大地来たべ。……あのな、今、インタビュー撮ってんだ」

 「ほが!」笑顔でギターを手にする。

 「大地さん。お疲れ様です。今日は何してたんですか?」

 「今日は朝から梨畑に消毒さ蒔いて、木も悪ぃぐなってんのあったから、切って、ほんで来た」

 「日中は農家をやっでます。……音楽との両立はどうしてますか?」

 「そらあ、農業やりながらやんだよ。朱里から新曲もらった時は畑でそれ聴きながら歌の練習しでるし、そうでねえ時も色々聴いてるな」

 「たとえば?」

 「ほっだいなー。Avenged Sevenfoldが一番好きだべ! Incubusも好きだし、あどは、KORNもLIMPもSLIPKNOTも、とにがぐアメリカのラウドが好きだな! 爽やかでかっけーべ! 農業にもぴったりだ」

 「結構うぢのバンドは趣味がバラバラなんです」

 「大河が好きなのはSUM41だっぺ?」大地に問われ、大河は笑みを浮かべる。

 「あと、SEVENDUSTとが、System of a Downもよぐ聴いてっぺな」

 「大地にはバレてます。そうです。みんな結構バラバラなんですが、だからこそお互いのいいなって感じるものを持ち寄って、俺ららしい音楽が出来てるんでねえでしょうか」

 「まあ、朱里の作る曲があってこそだべな」大地はそう言って朱里に微笑む。

 朱里も照れたように微笑んだ。

 その後大河はカメラを切り、練習に入る。

 数時間かけて新曲を詰め、仕上がりが近づきそろそろ練習も終わろうかという時に大河が再びカメラを回した。

 「今日の練習はそろそろ終わりです。お疲れ様でした」


 その時、朱里の母親が何やら大皿を抱えて入って来た。

 「ああ、いだいだ。ほれ、いいメロンさ貰ったで、呼ばれてげ(注・食べていけ)」

 「おお! すげー! 朱里の母ちゃん、ありがとう!」大地が讃嘆の声を上げる。

 「うんまそうでねえの! こら大したもんだべ!」ルアンも手をこすりこすり、大皿を受け取る。

 「朱里のおっかさんは、練習してっど、よぐこうして食い物飲み物持ってきてくれます。お蔭で俺らみんなこっだに大きくなりました」大河が解説を加える。

 「ほだいな。ルアンが一番でかぐて180cmぐれえが?」朱里の母親は微笑みを浮かべつつルアンの頭を撫でる。

 「いまちっと伸びて今は184cmだべ」

 「あんら、ずいぶんえがくなったこど」

 「そん次が俺で、180cmちょいぐれえだな」と、大地。

 「そん次が俺で176cm。朱里は170cmだっけ?」

 朱里は頷く。

 「中学生の頃、練習始めたばっかの頃は朱里のおっかさんが練習のたんびにおにぎり持ってきてくれで、まいんち米食って、ほんでこっだに大きくなりました。ありがてえごどです」大河が説明する。

 「米はおめらんちから貰ってんかんな」

 「そうでした。米はうぢの米でした」大河が笑う。

 「父ちゃん自慢の米です。道の駅で売ってますので、じゃんじゃん買ってください」と大地。

 四人は早速メロンの大皿に、爪楊枝を伸ばして口に放り入れていく。

 「いや、どうも!(注・基本的に万能の言葉だがここれは驚きを表す)」ルアンが思わず口元を抑えながら感嘆の声を上げる。

 「うめえなこら」と大河。

 朱里も笑顔で頷く。

 「まあ、うぢの梨も絶品だけど、こいづもなかなか負けてねえな」と大地。

 「おめはすぐ果物食うとライバル視すんな」

 ルアンにわき腹を小突かれる。

 「しゃあんめ。農家の倅だもん」

 「大地は農家としてのプライドが高いです」

 「下手すっと歌よりもプライド高ぇべ」

 大地は曖昧に頷く。

 「今日はちょっとバンドらしい、インタビュー回でした。また、次回」そう言って大河は次のメロンに手を伸ばした。

 「あ、おれも」ルアンも爪楊枝を舐めて次のメロンに突き刺した。


コメント欄

日本

朱里ちゃん、メモ帳で答えてるだけなのに存在感すごい。笑顔がかわいすぎる。


スウェーデン

朱里がIN FLAMES、Dark Tranquillity、THE HALO EFFECT好きなのめちゃくちゃ納得。


アメリカ

「よし作ろうって思って作る」

天才ってもっと降ってくるとか言うのかと思ったら努力型だった。


韓国

大地が畑で新曲聴きながら歌練習してるの好き。


ブラジル

ルアンの「メタルは体力」で全部持っていった(笑)


オーストラリア

ジョージ・コリアス好きなの最高。

そりゃブラスト速いわ。


日本

ルアンが茨城弁ネイティブになった経緯が面白すぎる。


ノルウェー

「かわいかった。大地が自慢してた」

ここ笑った(笑)


イギリス

最後のメロン食べるだけの時間が好きすぎる。


日本

「米はうぢの米でした」

地元感すごい(笑)


台湾

朱里のお母さん優しすぎる。

こんなお母さん欲しい。


カナダ

この蔵、本当に秘密基地みたいでいい。


フランス

大地が農業を誇りに思ってるの伝わる。


イタリア

「一人でも欠けたらだめ」

この一言にこのバンド全部詰まってる。


チリ

演奏シーンより普段の姿が好きかもしれない。


ポルトガル

最後メロン食べて終わるメタルバンド初めて見た(笑)


日本

このチャンネル、実家に帰った気分になる。


スイス

有名になってもこの雰囲気だけは変わらないでいてほしい。

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