三人
優月が生まれてから数日後。
僕たちは、三人で家へ帰った。
玄関の扉を開けた瞬間。
唯ちゃんが、小さな声で言う。
「……ただいま」
その腕の中には、優月。
小さな、小さな家族。
僕は荷物を置きながら笑う。
「なんか不思議だね」
「うん」
唯ちゃんは部屋を見回しながら、少し泣きそうに笑った。
「ここに優月がいるんだね」
リビングには、前に準備していたベビーベッド。
うさぎのぬいぐるみ。
小さな服。
全部、“この日”を待っていたみたいだった。
優月をそっとベッドへ寝かせる。
すると――
ふにゃっ。
すぐ泣く。
僕と唯ちゃん、同時に慌てる。
「えっ、どうした!?」
「お腹空いた!?」
「暑い!?」
「寒い!?」
二人とも大混乱。
その様子が面白かったのか、看護師さんが教えてくれた言葉を思い出して、唯ちゃんが笑い出す。
「落ち着いてって言われたじゃん」
「無理!」
優月は小さいのに、もう家の中心だった。
夜。
初めての“家族三人の夜”。
でも――
全然眠れない。
優月が泣く。
ミルク。
おむつ。
抱っこ。
やっと寝たと思ったら、また泣く。
深夜三時。
僕は髪ぼさぼさのまま、優月を抱っこして部屋をうろうろしていた。
「優月さーん……寝ませんかー……」
完全に魂が抜けた声。
ソファでは、唯ちゃんも眠そうに笑っている。
「先生、ゾンビみたい」
「今なら算数の代わりに睡眠の大切さ教えられる」
唯ちゃんが吹き出す。
その瞬間。
優月も、ふにゃっと笑った気がした。
僕たちは顔を見合わせる。
「今、笑った!?」
「笑ったよね!?」
二人で大騒ぎ。
親バカ全開だった。
朝方。
やっと優月が眠ってくれた。
僕と唯ちゃんは、ソファにもたれながらぐったりしている。
でも、不思議だった。
眠い。
大変。
体もヘトヘト。
なのに。
心だけは、温かかった。
唯ちゃんは、小さな声で言う。
「幸せって、もっとキラキラしたものだと思ってた」
僕は隣で頷く。
「うん」
「でも今って、寝不足でボロボロなのに、幸せ」
僕は笑ってしまう。
「たしかに」
窓の外では、朝日が少しずつ昇っていた。
その光が、優月の寝顔を優しく照らしている。
唯ちゃんは、その小さな顔を見つめながら微笑む。
「優月」
その呼び方には、もう“母親の愛”が溢れていた。
僕は静かに思う。
あの日。
ネオン街で聞いた、“いってらっしゃい”。
その一言から始まった人生は――
今、こんなにも温かい場所へ辿り着いていた。




