雨
雨は少しずつ弱くなっていた。
川沿いのベンチで、僕たちはしばらく黙って座っていた。
でも不思議だった。
さっきまであった苦しさが、少しだけ軽くなっている。
唯ちゃんが小さく笑う。
「なんかさ」
「ん?」
「ケンカしたあとって、変に素直になるね」
「わかる」
僕がそう返すと、唯ちゃんは少しだけ笑った。
雨上がりの風が、静かに髪を揺らしていく。
唯ちゃんは膝を抱えたまま、ぽつりと言う。
「私ね」
「うん」
「昔だったら、ケンカした時点で逃げてたと思う」
僕は黙って聞いていた。
「“嫌われた”って決めつけて、そのまま終わらせてた」
唯ちゃんは川の流れを見つめる。
「でも今は、“ちゃんと話したい”って思えた」
その言葉が、胸に深く残る。
僕も静かに言う。
「俺も、前なら黙ってたと思う」
「うん」
「怖かったから」
「何が?」
僕は少し考えてから笑う。
「本音見せて、嫌われるのが」
唯ちゃんは、その言葉を聞いて小さく目を伏せた。
「……似てるね、私たち」
「かもね」
少し沈黙。
それから唯ちゃんは、鞄からスケッチブックを取り出した。
雨に濡れないよう、大事そうに抱えていたらしい。
「見せたいのある」
ページを開く。
そこには、新しい絵本のラフが描かれていた。
二匹のうさぎが、背中を向けて座っている絵。
でも次のページでは、少しずつ距離が近づいている。
そして最後のページ。
二匹は並んで、同じ月を見上げていた。
その下に書かれていた言葉。
“けんかしたひも
だいすきは なくならなかった”
僕はその文章を見た瞬間、胸が熱くなった。
唯ちゃんは照れながら笑う。
「まだ途中だけど」
「……すごくいい」
「ほんと?」
「うん」
唯ちゃんは安心したみたいに息を吐いた。
「よかった」
しばらくして、唯ちゃんが小さな声で言う。
「ねえ」
「ん?」
「私たち、完璧じゃないね」
僕は思わず笑う。
「全然」
「でもさ」
唯ちゃんは僕の肩にもたれながら続ける。
「ちゃんと向き合えるなら、それでいい気がする」
その温もりが、静かに胸へ広がっていく。
遠くで、雲の隙間から月が見え始めていた。
僕はその光を見上げながら思う。
恋愛って、きっと綺麗なことばかりじゃない。
すれ違う日もある。
傷つけてしまう夜もある。
それでも。
“もう一度、隣に座りたい”って思えるなら。
きっと、その気持ちは本物なんだ。




