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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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83/83

083・神樹の少年シーナ

 先導していた枢機卿が亡くなり、僕らを襲おうとしていた人々は全員、降伏した。


 派閥のナンバー2の大司教はまだ抵抗を続けたかったみたいだけど、枢機卿ほどのカリスマはないのか、人々は従わず、結果、彼も捕縛されることになった。


 これで、古き神殿前の闘争も終わり。


 教会の派閥争いも終結し、今後、フィーンレイド国内の『奉樹の神聖教会』は意思統一もし易くなるだろう。


 一方で、


(人を……殺しちゃったね)


 僕は、自分の手を見つめる。


 やむにやまれぬ状況、そう頭でわかっていても、『魔物』ではなく『人間』を自分の手で殺害したのだという感覚は消えなかった。


 そんな僕を、


 ギュッ


 年上の恋人であるクレティーナさんが背後から抱き締めてくれる。


「シーナは正しい行いをしましたよ」


「……うん」


「これ以上、枢機卿に騙され、命を散らしていく人々が出ないように、シーナは多くの命を救ったのです。だから、そんなに自分を責めてはいけません」


「…………」


「それでも、もしその行いが罪と思うのなら、私が許します」


「え?」


「例え神々が許さなくとも、このクレティーナ・レヴィンが許します。私はずぅっとシーナの味方ですよ」


 彼女は優しく微笑む。


(クレティーナさん……)


 僕は少しだけ泣いた。


 見ていたレオナックさんは温かい表情で、パルシュナは「けっ、心の軟弱な奴ね」と舌打ちする。


 教皇様は微笑み、そして、聖句を唱え、死者の冥福を祈る。


 聖女のシャルさんは「きっと神様も許してくれると思うで~」と明るく言って笑っていた。


 やがて、ダレイオス将軍と騎士団の手により、今回の騒動に参加した人々は捕まり、一時、古き神殿で拘留され、後日、王都に移送されることが決まった。


 どんな刑罰となるのか、わからない。


 でも、中には騙されただけの敬虔な信者もいたはずだろう。


 せめて、そういう人たちには、相応の恩赦があって欲しいな、と僕は願ってしまうのだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 やがて、忙しい1日が終わり、新しい朝が来る。


 争いの翌日だ。


「また、王都でお会いしましょう」


「ほなな~、若木様!」


 教皇のマレナさん、聖女のシャルさん始め、神殿の人たちに見送られながら、僕らは王都への帰路に着くことになった。


 僕は窓から手を振り返し、そして、馬車は進む。


 標高の高い山々を下り、途中、崩れた山道を迂回しながら、約2日間の旅である。


 道中、魔物の襲撃は2度あり、けれど、護衛の王国騎士隊の活躍で、僕ら4人は出番もないままに安全な道行きとなった。


「楽でいいわ~」


 と、笑う少女。


(確かにね)


 正直者の彼女に、僕と年上の美女たちも顔を見合わせ、笑ってしまう。


 やがて、日付が変わる。


 街道は平坦に、また広くなる。


 2日目の午後、周囲の景色は草原が続き、そして、その遥か遠方に白い城壁がかすかに見えてきた。


(――フィーンドリアだ)


 賑やかで美しい王都。


 ほんの数日離れていただけなのに、妙に懐かしく感じるよ。


 僕は息を吐く。


 隣のクレティーナさんが肩を寄せ、体重を預けてくる。


 彼女を見る。


 年上の恋人さんは、


「帰ってきましたね」


 と、優しく笑う。


 僕も笑い、「うん」と返した。


 お互い寄り添い合いながら、馬車に揺られ、そして3時間後、僕らは城壁の大門に到着し、王都フィーンドリアへの帰還を果たしたのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(……平和だなぁ)


 オーガストの丘の古き神殿から帰り、半月が過ぎた。


 僕らは、フィーンレイド王国と冒険者ギルドの指示で『クエスト受注の禁止』を言い渡され、僕自身は姉妹の家での平穏な日々を過ごしている。


 今の僕は縁側で、


 パアアッ


 と、光合成中だ。


 隣では、パルシュナがアイスを食べながら、


「退屈ね~」


 と、呟いた。


 最初の数日は「のんびりできるわねっ」と喜んでいた彼女も、今では刺激のない日々に飽き飽きしているようだ。


 ま、気持ちはわかるよ。


(知らない景色を見たり、魔物と戦ったり、そういうの、意外と楽しいんだもんね)


 だから、今はつまらない。


 もちろん、贅沢な悩みとは思うんだけどさ。


 と、少女の姉が、お盆に果実水のコップを載せ、縁側にやって来る。


 苦笑しながら、


「仕方ありませんよ。聖教国ムーランにシーナが行くのは、王国と教会の至上の命題です。つまらぬクエストで万が一があれば、目も当てられません」


「でもさ~」


「まぁ、今はシーナの安全が第一という事で……はい、甘いコルアの実のジュースですよ、パル」


「わ、ありがと、姉上」


 現金な妹は受け取り、


 チュ~ッ


 と、ストローを吸う。


 そんな妹に笑い、姉は、僕にもコップを渡してくれる。


「はい、シーナもどうぞ」


「ありがと、クレティーナさん」


「いいえ」


 微笑み、彼女も隣に座る。


 僕ら2人も、果実のジュースを吸った。


(ん、甘くて美味しい)


 しっかり冷やされているのも、今日みたいな暑い日には最高だった。


 少女も気持ち良さそうな笑顔で、


「ぷはっ。――でもさ~、あのレオナック・オルンもいるのに、万が一なんて起きないと思わない?」


 ストローを離し、言う。


 姉はまた苦笑し、


「思わなくもないですが、まぁ、レオも人の子ですからね」


「む~」


「それにあれ以来、『青き魔人』の行方も知れません。王都を離れれば、もしかしたらその襲来もあるかもしれません」


「…………」


「何にしても、聖教国への出発の日までは我慢しましょう」


「へ~い」


 と、妹は諦めたように息を吐く。


 僕を見て、


「アンタって、本当、手間のかかる奴よね」


「…………」


 僕のせい?


 不満そうな顔がおかしかったのか、少女は笑う。


「ま、仕方ないか。一応、アンタ、『神樹の若木』様らしいし、駄目な後輩の面倒見るのも先輩の役目ってね~」


「はいはい、ありがと、パルシュナ先輩」


「ふふ~ん♪」


 おざなりなお礼に、彼女は楽しげに鼻を鳴らす。


 僕らの様子に、ここで1番年長のお姉さんも微笑ましそうに肩を揺らして笑っていた。


 と、その時、


 カランカラン


 玄関の鐘が鳴る。


(おや?)


 家主のお姉さんが対応に出ると、やがて、あの赤毛の美女を伴い戻ってくる。


 わっ?


「レオナックさん!」


「やだ、レオじゃないの」


「おお、元気にしておるか、2人とも。今日も差し入れと共に、稽古をつけに来てやったぞ」


 と、荷物片手に彼女は笑う。


 待機中はほぼ毎日、レオナックさんは姉妹の家に顔を出してくれる。


 そして、僕らに稽古をつけてくれるんだ。


 そう、僕ら(・)。


 僕だけでなく、姉妹にもね。


 特にクレティーナさんとレオナックさんの実戦稽古は毎回見もので、『銀印』『金印』の実力者同士、凄まじい技術と迫力があり、色々勉強になるし、人に見せたらお金も取れるんじゃないかというレベルのものだった。


 その『銀印』『金印』のお姉さんは、


「まぁ、いつもすみません」


「構わぬ」


 と、差し入れの受け渡しをし、朗らかな笑顔を浮かべている。


 そして、早速、稽古に入る。


 レオナックさんは右腕を伸ばし、左手で固定して、腰を回すストレッチをしながら、


「よし、今日もシーナから行くか?」


「うん!」


 僕は元気に縁側から立ち上がった。


 少女は、


「次、私ね!」


 と、予約する。


 レオナックさんは「わかった」と頷き、僕に木剣を渡し、自分も同じく手に取った。


 お互い、しっかり柔軟体操。


 それが終わると、


(――ん、よし)


「お願いします、師匠!」


「うむ」


 僕ら師弟は向き合い、お互いに木剣を構える。


 見守る姉妹。


「がんばって、シーナ」


「早く負けなさいよ~?」


 そんな声援が飛ぶ。


 内心、小さく笑い、すぐに心を引き締める。


 そして、


「やぁっ!」


 青空の下、緑の芝生の庭で、僕は前に踏み込み、美しい赤毛の師匠に木剣を振り下ろした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 数日後、フィーンレイド王国が公式の発表を行った。



 ――『護国の神樹』の枯死。



 その発表だ。


 天空城が降下し、城門堂内の解放された大広間で、国王のナイゼル様が自ら国民の前でその事実を語ったのである。


 多くの国民が驚き、嘆き、悲しんだという。


 その反応の大きさは、僕の予想以上で、


(ああ、そうか)


 レオナックさんやクレティーナさん、他、戦える人々よりも、魔物に対して無力な人の方が国民には圧倒的に多い訳で、その人たちに対し『自分たちの身を守る心の拠り所』が消えるのは、より大事(おおごと)だったのだ。


 自分や大切な家族が死ぬ――その可能性が高まる未来の現実を突き付けられたのだから。

 

 だから、



「――だが、『神樹』は我らを見捨てぬ。その慈悲は種子となり、新たな『神樹の若木』が生まれたことも皆に伝えよう」



 と、国王ナイゼル様が言った瞬間、人々は驚き、歓喜に王都中がどよめいた。


 新たな心の拠り所が生まれた瞬間だ。


 その発表には、フィーンレイド王国教会の教皇マレナ・クインタールも同席していて、『奉樹の神聖教会』もその事実を認定したことを伝える。


 それにより、人々も信じた。


 現実逃避の虚言ではなく、その『希望』が確かな真実なのだと。


 人々の目に、光が戻るのを感じた。


 やがて、その公式発表は新聞などや各地の領主らからの公式な発表などにより、ほんの数日でフィーンレイド全土に伝わり、その騒動はしばらく続いたという。


「ま、無理もないわよ」


 とは、パルシュナの言。


 レオナックさんも頷き、


「この混乱も想定の範囲内じゃろう。一部の人々は嘆き騒ぎ暴走するかもしれぬが、将軍を始めとした騎士隊の取り締まりも強化されとるからの。被害は最小限で済もう」


「…………」


「む? どうした、シーナ?」


 僕の様子に、彼女は気づく。


 少女も、不思議そうに僕を覗き込む。


 と、その姉で、僕の恋人であるお姉さんが、優しく頭を撫でてくれた。


「無視なさい」


「え?」


「こうした人々の期待が、祈りが、自分へと向けられていると感じ、その責任の重さに怖くなったのでしょう?」


「う、うん」


「そんなもの、無視していいのです」


「で、でも……」


「シーナはシーナ。『神樹の若木』への人々の思いは、貴方個人には関係ありません」


「…………」


 断言する彼女は、とても優しい表情だ。


 だけど、僕は割り切れない。


 でも、


「アンタ、本当、馬鹿ね」


「え?」


「アンタは、アンタにできることだけやってりゃいいのよ。だって、それ以上はできないんだからさ。周りの人が期待したって、それは変わらないわ。なら、深く考えずにやれることだけやりゃいいのよ」


「…………」


「ちゃんと、私らも手伝うんだからさ」


「パルシュナ……」


「はん、本当、面倒くさい奴よね、アンタって~」


 と、頭の後ろで手を組み、わざとらしいため息と共にそっぽを向く。


(……うん)


 その不器用な気遣いが嬉しい。


 レオナックさんも頷く。


「多くの国民は、若木の正体を知らぬ。発表もせぬ」


「……うん」


「案ずるな。多くの者が、そなた自身を守ろうと動いておる。王国も教会もギルドも、そして、ティナもパルも、無論、我もの。決して1人ではない。じゃから、シーナは『神樹の若木』ではなく、シーナらしくあれ」


「僕らしく……」


「そうじゃ。それが1番、世界とそなたのためになろう」


 と、笑う。


 王国最強の『金印』の1人として、多くの重い責任を負ってきた彼女の言葉だ。


 僕は目を閉じ、深呼吸する。


 まぶたを開ける。


 目の前には、笑う3人の姿がある。


(……うん。僕に何ができるかわからないけど、この3人のためになれるようがんばってみよう)


 結果、それが世界平和に繋がれば、それでいい。


 僕も、


「うん、わかった。僕らしくがんばるよ」


 と、ようやく笑った。


 …………。


 そうして公式発表から10日後、まだ国中が落ち着かない空気の中、冒険者ギルドからの連絡が姉妹の家に届き、僕の聖教国ムーラン行きの日時が決定したと伝えられた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 窓の外は、快晴の空だ。


(う~ん、『光合成』したいな~)


 馬車の座席で揺られながら、僕はそんなことを思っちゃう。


 隣には、美しき年上の恋人クレティーナさんがいる。奥の座席には、レオナックさん、パルシュナの2人も座っている。


 馬車の周囲には、将軍さんの率いる王国騎士隊20名。


 そして、後続のもう1台の馬車には、聖女のシャルさんと太った神殿騎士さん、2名の神官さんが同乗している。


 これが『聖教国ムーラン』へ向かうメンバーだ。


 ふと視線を遠くに向ければ、緑の草原の絨毯の遥か彼方に、美しい王都フィーンドリアの遠ざかっていく景色が見えた。更には、遠い森や山脈の景色、青い空の広がる世界がある。


(……うん、綺麗だ)


 僕は、青い瞳を細める。


 この美しい世界を守るため、僕は旅立つのだ。


 事前の説明によれば、王都から離れた王家直轄領にある『転移の門』を利用し、秘密裏に聖教国ムーランと隣接した同盟国に行き、そこから馬車で地続きの街道を進み、国境を越えて『聖教国ムーラン』入りするのだとか。


 到着まで、約1ヶ月の旅。


 出発前には、国王のナイゼル様、教皇のマレナさん、冒険者ギルド第3支部長――実質、王国のギルドの実権を握ってる――のケーシャンさんも見送りに来てくれた。


 王国の重鎮ばかり。


(……僕も偉くなったものだよ)


 なんて思ったりね。


 彼や彼女たちには、出発前の挨拶と共に激励や謝罪、感謝などを伝えられた。


 人類のため、王国のため、重い責任を背負わせてしまったこと、また『青き魔人』という存在と戦う決断をしてくれたことへのものらしい。


 僕は旅に出る。


 でも、彼や彼女たちも王国からできる限りのサポートをしてくれると約束してくれた。


(うん!)


 僕は1人じゃない。


 前に言われた言葉の意味を実感する。


 何より、王国最強のダレイオス将軍と教会の最高戦力である聖女シャルさんが道中の護衛、そして、対『青き魔人』用の戦力として同行してくれているのだ。


 20名の王国騎士さんたちや太った神殿騎士さん、2人の神官さんたちもいる。


 途中に通る他国の人も、色々協力してくれるらしい。


 もちろん、聖教国の人たちも……。


 それに、ね?


「聖教国かぁ。どんな場所かしらね?」


「ふむ、我も行ったことはなくての。しかし、教会の総本山じゃ。神々や神樹への不敬な言動は罰せられると聞く。その辺は慎むべきじゃろうの」


「……神樹って、まさかシーナへのも……?」


「まぁ、軽口ぐらいなら良いのではないか? わからぬが……」


「ぐぬぬ」


 と、紫髪の少女と赤毛の美女が会話をする。


 少女は嫌そうに、僕を睨む。


(……ぷっ)


 僕は噴き出し、


「パルシュナは、パルシュナのままでいいよ。若木様が許すし、そんなパルシュナが僕は好きだから」


「は……好き?」


 彼女は呆け、そして、プシュウ……と赤くなる。


(あら、純情?)


 レオナックさんも驚き、固まる少女に苦笑する。


 僕も目を丸くし、


「シーナ」


(わっ?)


 ムニュッ


 横から豊満なお胸様を押し付けるように、クレティーナさんに抱き締められた。


 ほわぁ、柔らか……っ。


 赤くなる僕に、彼女は拗ねたように言う。


「妹を好いてくれるのは姉として嬉しいですが、その……私の方が好きだと言ってくれないと、心配になってしまいます」


「え、あ」


「…………」


「う、うん。好きだよ」


 僕は答え、1度、深呼吸する。


 大好きなその人を正面から、青い瞳で見つめ直し、



「――僕は……シーナは、クレティーナさんのことが世界で1番大好きだよ」



 と、伝えた。


 果たして、彼女は感極まったように目を潤ませる。


 そして、


「シーナっ」


 と、僕の頭を抱き締める。


 そして、僕へと熱い口付けをしてくれたんだ。


 視界の端の方では、レオナックさん、パルシュナの2人が目を見開いているのが見えている。



 ――そうして、馬車は進んでいく。



 この先、大変なことがたくさん待ち受けているだろう。


 でも、3人と一緒なら、クレティーナさんと一緒なら、きっと何とかできてしまうと思うのだ。


 ピョコン


 甘いキスに驚き、僕の金髪の中から『葉っぱ』が生える。


 その瑞々しい2枚の葉っぱは、窓からの太陽の光を浴びて美しい虹色に輝き、その煌めくような光を周囲いっぱいに広げていったんだ――。

ご覧頂き、ありがとうございました。


今話にて『神樹の少年シーナ』は完結となります。

頭の中にはまだ色々なシーナ達の今後の物語があるのですが、キリの良い地点でもあり、今作は一旦、ここで筆を置かせて頂こうと思います。


……小説を書くのは難しいですね。

でも、できれば、まだまだ続けたいと思っております。


今日までシーナ達の物語を読んで下さった皆さん、本当に、本当にありがとうございました!


また次回作などでもお会いできましたら、幸いです♪



月ノ宮マクラ

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます。まだまだ続きそうな雰囲気の中、完結となってしまったのが残念ですが・・・今作も楽しめました。
完結、お疲れ様でした!
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