20話 九条家の叔母
アリステラとの模擬戦後、高校2年生の一般授業を鈴芽の魂で受けることになったが、とてもじゃないけどついて行けなかった。
それもそうよ。つい朝まで中学2年生だったのよ? いきなり「はい。高校2年生レベルの問題を解いてみて?」と言われて解けるもんですか!
『てかあんたのせいで飛び級したんだから少しは手伝いなさいよね!』
『鈴芽ちゃんも同意したじゃん。それに勉強は自分でやった方がいいぞ〜。怠けてると大人になった時に後悔するからな〜』
『あんたみたいに?』
『ぐっ。やめてくれ。その言葉は俺に効く……』
私だってあんたと魂を共有してるのよ。だんだんあんたの記憶を読むコツも掴めてきたわ。
ダラダラ生きてきた影響で勉強してこなかったことを後悔してるのもお見通しよ。
逆を言えばこいつも私の記憶を読めるようになるってことよね。プライバシーはどこよ。
魂には適応されないってこと? 年頃の娘の秘め事が筒抜けって最悪……。
『だいじょうぶだぜ!鈴芽ちゃん!俺は理解ある大人だから必要な時は意識を閉じるからさ!』
『黙れ!そして死ね!変態愚息虫!』
魂体で姿こそ見えないが、サムズアップしながら、はにかむような笑顔を浮かべている姿を容易に想像できた。
そんなおっさんの姿を想像すると余計に腹が立った。そういう気遣いが余計に恥ずかしく感じさせるって気付きなさいよ馬鹿!
こんな様子で大樹と魂内で雑談しながら授業を受け続け、最後の授業とHRも終えた。
この先勉学面で不安はあるけど、高校に入れたのは大樹の言う通りかなり成果としては大きい。
勉強は必死に頑張るとして、お兄ちゃんの学校での様子もよくわかって良かったわ。
1日を通してお兄ちゃんを観察した結果、クラスの女子、いや学校中の女子からの人気は絶大なようだ。
顔は良いのよ。中性的な顔で、親しみやすい性格。誰に対しても優しくて、いざという時は頼り甲斐がある。
かく言う私自身、そんなお兄ちゃんが大好きなんだもん。
休み時間になればお兄ちゃんの周りに女子の大群が集まる程だった。
女子達から黄色い声を浴びたり、手作りお菓子やお弁当を手渡されそうになっていたが、全て笑顔で断っていた。
これが意外だった。お兄ちゃんの性格上、受け取って頑張って食べそうなイメージだったけど、ちゃんと断るんだ。しかも「妹の弁当があるから」って言って。
あの言葉が聞こえた時は思わず気持ち悪い笑みが出ちゃったわ。こいつにはバレたけど、周りのみんなには気付かれてないことを祈るばかりね。
鞄に今日受け取った教科書を詰め込み、帰宅しようとするとお兄ちゃんが私のそばにやってきた。
「鈴。一緒に帰るか?」
「うん。帰ろお兄ちゃん。あっ帰りにスーパー寄っていい? 野菜と卵切らしてて補充しなきゃなんだけど」
「おっけ! ついでに買っておいた方がいいやつも買ったらどうだ? 荷物持ちなら俺がするからさ」
ん〜♩これよ! こういうところよ。自然に自分が手伝おうかって言ってくれるところが好感高いのよね! もう!好き!大好きなんだから!
『そのまま声に出せばいいのに……』
『無理! そんなことしたら死ぬわ! あんたは乙女心わかってない! 好きな人に好きって伝える時の勇気は決死の覚悟で臨まなきゃいけないんだから!』
『いや……それは男も同じなんだが……』
『黙って!』
大樹の言葉を強制的にシャットアウトし、笑顔でお兄ちゃんの横につく。
学校帰りのデートみたいで幸せね〜。勉強は辛いけど、毎日こんなご褒美があるなら全然耐えられるわ〜。
そう思っているとアリステラが私の背後から抱きついてきた。
「すーずめ! 一緒に帰りましょ! そして愛を深めましょ! 帰りにいい場所見つけたのよ! ラブホ――」
「あー! あー! 聞こえなーい!」
アリスの馬鹿! 今ラブホテルって言おうとしたでしょ? 信じらんない! 14歳の私をホテルに誘うとか痴女よ! 犯罪よ!
『ふむ。メインヒロインとの絡みか……アリ寄りのアリだな』
『ここに肉体があったらあんたの脳天をかち割ってやるのに』
大樹に文句を言いつつ意識を現実に戻す。
「てか抱き付かないでよね! 暑苦しいのよ! 大体あんたの家は私達の家と逆方向でしょうが!」
アリステラを振り払いながらそう言うと、指を咥えて寂しそうな顔を浮かべた。
「好きな人と一緒に帰りたいのは当たり前でしょ……。私と一緒に帰るのは嫌?」
アリステラは指を咥えたまま顔を傾け、上目遣いで言った。
見た目はいいだけに、同性であっても可愛らしく見えてしまう。それにここまで言われて突き返すのも悪い気がする。
大樹は『断れ! お兄ちゃんとのデートだぞ! 断れ!』と呟いてるけど……。
きゅ〜ん、と犬のようにまっすぐ見つめるアリステラを前に心が揺れる。
「ぐっ……。そんな顔しても無駄なんだから。私にはお兄ちゃんと一緒に帰るって決まってるんだから」
「俺はアリステラさんと一緒で構わないぞ」
「なっ!」「いいの! やったあ!」
お兄ちゃんの一言に天国と地獄で別れた。せっかくの放課後デートが……。
でも良いか。これから毎日デートするチャンスあるんだしね。
「お兄ちゃんが良いって言うから特別に一緒に帰ったげる! でもいい? 私たちと一緒に帰るってことはアリスにも買い物の手伝いもしてもらうんだからね!」
「構わないわ! なんだったら晩御飯も一緒に……」
「厚かましすぎるわよ!」
話がつき、私たちは教室を出て、最寄りのスーパースズキを目指すことにした。
今の時間なら着く頃にはタイムセールもやってるはず。学生でお兄ちゃんに仕送られるお金で生活する以上、切り詰めるところは切り詰めておきたい。
買い溜めしておかなきゃね。
そんなことを考え、2人と談笑しながら校庭を歩いていると、門の向こうの車道に黒い車が1台止まっているのが見えた。
その車を見てお兄ちゃんは顔を顰める。私もあの車に誰が乗っているのかすぐに理解できた。
あの車は九条家の車だからだ。なぜ分かったかっていうと、車の側面に九条家の家紋がプリントされているから。
白い刀の家紋がプリントされた車を素通りしたが、車から誰かが出て「無視なんていい度胸じゃない」と声を掛けられた。
お兄ちゃんが眉を顰め黙り込むのに対して、私は笑顔で振り返る。
27歳のセミロングの黒髪。仕事の途中なのだろうか、スーツ姿の叔母。九条茜が見下すように私を見ていた。
「こんにちは叔母さま。ご機嫌よう」
「ふんっ。雪也♩今日も元気そうでなによりだわ」
あからさまに無視されてしまった。
いつものことだ。忌み子の私に嫌悪感を抱いているのは伯母に限った話ではない。
叔父にお祖父様、お祖母様、果てはお父様も。
だから今更心は痛まない。慣れたというより諦めた。この人達は家族じゃない。ただの他人って思うことにしてる。
そんな私を無視して叔母はお兄ちゃんに話し続ける。お兄ちゃんは叔母の話に心ここに在らずと言った様子で適当に答えている。
話の内容は「調子はどう?」「たまには家に帰ってきて欲しい」と言った内容だ。
そんな叔母が一切私に話しかけないのを見たアリステラは伯母の前に立った。
「なに? 誰よ貴方」
叔母がアリステラを睨む。
お兄ちゃん以外に全く興味がない、そんな伯母にアリステラは怒りをぶつけた。
「今鈴芽が挨拶してたでしょ! 無視ってなによ! 叔母って言うからあんたも家族なんでしょ! さすがにあんまりなんじゃない!」
「ちょっと! アリス。やめてよ!」
アリステラをやめさせようと手を引くが、彼女はたまらず伯母に文句を言い続ける。
「鈴芽は特別強化実習生に選ばれたのよ? 少しは褒めてあげたらどうなの?」
その言葉を聞いて叔母の眉がピクッと動いた。
「特別強化実習? この出涸らしが?」
「本当よ! 今日私と模擬戦して、鈴芽の信じられない力で私負けたんだから」
「貴方のことはどうでもいいけど、今の話気になるわね。出涸らし。説明なさい。特別強化実習生に選ばれたって話は本当なの?」
叔母の圧に吐きそうになる。今すぐ逃げ出したかったが、必死に堪え答える。
「はい。事実です」
「ぷっ。あははは。出涸らしが強化実習生ですって? あははは! この学校のレベルもそこまで落ちたってこと?」
「なに言ってんの!?」
アリステラが伯母にそう言った。
アリスには分からないだろうけど、伯母から見ればそう思っても当然よね。
落ちこぼれで、ただ早く走ることしかできない私が評価されたってことは、アリが1匹で像を倒すのと同じ感覚で見てるはず。
「でも今の話面白いわ。お父様とお母様に久しぶりに楽しい話ができる。あははは。いい話も聞けたことだし今日は帰るわね。雪也? またね」
そう言い残して叔母は車に乗り込み、その場を走り去った。お兄ちゃんは叔母の車が見えなくなると私の頭に手を置いて「ごめんな」と小さく謝った。
「いいよ。いつもの事だから」
そう言ったがアリステラは怒りが収まらない様子だった。
「なんなのよー! あのおばさんは!」
魂の内側から一部始終を見ていた俺も、今回はアリステラと同じ思いだ。
あのクソババアは絶対分からせてやる。今に見とけ!
そう思いながら俺は鈴芽の能力について思考を重ねることにした。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




