10話 ミーティング
「ちょうどみんなが揃ったから結由織さんと話し合った現時点でのファンタジアの情報を説明するわね」
来栖さんが並べた椅子の前に立ちスクリーンを天井から引き下ろして八重さんが部屋を暗くした。椅子に座る私たちの後ろで柳先生がプロジェクターを操作して、沙織さんもしくは茜さんが隣に座ってスクリーンを腕を組みながら眺めていた。
態度的に考えれば今の人格は茜さんよね。
「その分厚い資料から必要なことを抜粋するのは難しいと思ったから〜。大事な部分だけ切り抜いてまとめた資料をここに作っちゃいました〜」
「「「おお」」」
パチパチパチ。さすが来栖さん! 優しくて強いだけじゃなくて気配りもできるなんて完璧美人! そういえばこの人彼氏か旦那さんいるのかしら。あんまりそう浮いた話聞かないような……。
『指輪もついてないあたり結婚してないでしょうな』
『あんたそんなとこまでまじまじ見てるなんてキモすぎるわよ。大体今のご時世指輪は外してる人もいるぐらいなんだし、それは決めつけじゃない?』
『えー!? そうなの? 指輪って……そう簡単に外しちゃうものなんだ……』
夢をぶち壊しちゃったみたいだけど。それが現実よ。あんたからしたらここは本の中でもね。
そう考えると、本の中っていうより数ある世界の中の一つが偶然にも本になったっていうのも正しいのかも?
そんな哲学的なことを考えるのは今はやめやめ。集中しなきゃ。
「まず初めに。雪也さんが身を持って体験してくれたんだけど、全国でファンタジアによる演説の影響を受けて市民が性格が変わったかのようになったって報告を受けたわ」
「はい。これは全国自衛官、警察からの共有情報ですので間違いないかと」
後ろから柳先生が補足説明する形なのね。
茜さんと反対側、隣に座るお兄ちゃんもうんうんと頷いていた。
どうやら一人の時に演説を聞いたからお兄ちゃんも混乱したのね。まぁ、付け入れられるほど心が弱っていたってのもあるだろうけど。
「でも洗脳って確か女性にしか効果がないんじゃなかったですか?」
手を上げてアリスが聞いた。それもそうだ。確かケリーの洗脳は学校の女生徒にしか効果がなく、私の中にいる大樹、それにお兄ちゃんには効果がなかったはず。
にも関わらず、今回はお兄ちゃんだけじゃなく、スクリーンに映されている円グラフには男性もかなりの数が効果を受けているようだった。
「それについてはウチから説明させてもらうな」
「先生?」
「アリスちゃんの疑問も最もや。ウチらもさっきまでそう思っとったからな。でもそこの雪也くんが洗脳を受けた話を聞いてすぐに知り合いに確認を取ったらこれが男も女も関係なく暴れ散らかしとるって言うやないか。つまりあの時よりも洗脳の効果が強くなっとる。イヴリース実験が進んでそれが下っ端にまで行き渡っとるっちゅうことが分かったんや」
「それって不味いんじゃないんですか?」
「ええ。なので私たちは早急に事の事態に当たらないといけません」
来栖さんがビシッと伸ばし棒をスクリーンに叩きつけて次の資料を写した。
そこには【オペレーション・インターン】と書かれた文字が――
オペレーション・インターンって……内容見なくても大体分かっちゃうんだけど。普通作戦名ってさ。伏せない?堂々と書いていいもんじゃなくない?
だけど来栖さんはフフンとその作戦名を誇らしく見せびらかしている。どうやらこの人のセンス的には完璧らしいけど。それでいいの? いいのか? いやダメでしょ! 絶対ダメだと思うんだけど!?
「来栖隊長のセンスはさておき」
「あ〜ん! 柳さんったらひどい〜!」
「ひどいのは隊長のセンスです。こういうのはもっと隠した作戦名にするものです。例えば【オペレーション・トロイ】など」
確かにそっちの方が良いわね。なんか来栖さん……一気に残念美人に見えてきちゃったんだけど……。
強いから口に出しては言えない。それに上官でもあるしね。ここは我慢我慢。
「まあまあ。要はウチら学生がインターンを称して親愛製薬に潜り込んで死塚の身柄を探るっちゅう事ですか?」
「そう! そうなの〜。ほら柳さん! この作戦名の方がみんなに伝わりやすくって良いじゃない! 絶対ウチのセンス悪くないも〜ん」
「分かりやすくするのが間違っているんですよ。はぁ……全く……」
柳先生がこの部隊にいる理由が分かった気がする。これぐらいはっきり言える人が居ないときっとこの部隊はふわふわしたことがいくつも出てくる可能性があるもの。
「でも、この作戦にはあなた達全員を向かわせるわけにはいきません」
「なんでです? ここに居るウチら全員で行ったほうが効率良くないですか?」
「確かにその通りなんだけど〜。雪也さんと鈴芽さんは良くも悪くも有名だから潜り込んだ途端に正体にすぐ気付かれると思うわ〜」
「あ。来栖隊長! それは鈴芽ちゃんが史上二人目の特別強化実習生で雪也君が初の男性ウィザードだからですね?」
「その通りよ〜。さすが八重さん!」
よし!と小さくガッツポーズを決める八重さんも見た目のクールビューティーからかけ離れて妙に子供っぽい。まあそれがギャップで可愛くて良いんだけど。
『だね〜』
『あんたが乗ると途端変態っぽいから黙ってて』
『ひどい!?』
「なので今回の潜入には正体が割れていないアリスさんとアカリさんの二人に向かってもらいます。九条兄妹には別の任務。親愛製薬から数キロの地点で監視兼待機を命じます。詳しい内容は資料37ページを開いて?」
そこからの話はアリス、アカリの潜入作戦内容、監視兼待機の私たちへの作戦内容の話が続いた。
果たしてこれが上手くいくのか……。得体の知れない奴らだからこそ不安はあるけど、ここで足を踏み込まないと手遅れになる所まで来てるし頑張らなくっちゃね。
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