↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第3話 マースと旅の中で 後編

「まずい事になった」


 そう何度も呟きながらハーメラは宿へと急いだ。

 先程起こしたギルドの騒ぎ。

 思わず暴れてしまったハーメラだが、そこに後悔は無い。

 愛するマースに対してギルド職員が行った侮辱はハーメラに対してと同じ事。


 しかし、今は騒ぎを起こしたのはまずかった。

 大魔道士がギルド職員に対して暴行は噂になるだろう。

 ターニャの知るところとなる可能性が高い。


 今回ターニャはハーメラの家を燃やした。

 家の場所は一部のギルド職員しか知らせて無いのにも関わらず。


「ギルドの中に情報を売ってる奴が居るって事ね」


 おそらくアレクも気づいてるだろう。

 内通者は近い内に見つかるかもしれないが、今日の騒ぎは隠せまい。


「何をくよくよ考えてるの、私らしくもないわ」


 纏まらない思考にハーメラは自嘲気味に笑う。

 最早ターニャに見つかるのは時間の問題。

 ラクストンの街からアラントまで馬で15日位。


「ターニャの体力なら休まずに次々馬を乗り潰したら...3日程ね」


 今から急いでアラントを出ても僅かしか時間は稼げない。

 小柄なマースを連れての旅、強行な移動は出来ない。


「ギルドに護衛の応援を頼む位しか出来ないわね」


 私情の依頼だが、本部に顔が利くハーメラなら大丈夫だろう。

 しかし気掛かりなのは、


「何人死ぬかしら?」


 ターニャを前にしてマースを守りながら戦う。

 それは多大な犠牲を払う事になるだろう。

 下手をすれば自分の身すら危ない。

 それは最近のターニャがこなした依頼でも分かっていた。


「ゴブリンキングを単独で討伐か...しかも無傷、とんだバケモノね」


 ハーメラの背中に冷たい物が走る。


「...1人で殺るしかないか」


 覚悟を決めたハーメラ。


 マースを守る。

 それこそが愛するマースに自分が出来る事。

 ターニャとて、無益な殺しはやりたくない筈だ。

 それにマースを害する事はしないだろう。


「早く帰ろ」


 ハーメラは足取り軽く宿に戻った。


 「ただいま!」


「お帰りなさいハー...姉さん!」


 扉を開けるとマースが笑顔でハーメラを迎えた。

 その笑顔にいつもなら蕩けてしまう所だが、グッと堪えた。


「ハーメラで良いわよ」


「え?」


「ハーメラって呼んで...マース」


「分かった、おかえりハーメラ」


 ゆっくりと近づく二人。

 やがて長い夜は更けた...。


「行ってくるわね」


 3日後の朝、マースに口づけるハーメラ。

 部屋のベッドで残されたマースは幸せそうに眠っていた。

 睡眠の魔法を身体に影響が出ないギリギリまで重ね掛けされたマース、2日は目覚めないだろう。

 宿を出たハーメラは馬に跨がり1人草原に駆ける。


 先程から索敵のスキルは発動している。

 草原の向こうからやってくる1人の姿を捉えていた。


「...来たわね」


 ようやく見えて来た1人の女。

 目が据わり、身体は薄汚れていたが、その美貌は全く失われていなかった。


「わざわざ使い魔で私を呼び出して...言っておくけど命乞いは無駄よ」


 無表情の女、しかし凄まじい殺気を発していた。


「落ち着きなさいターニャ。

 そんなに殺気立ってたらマースが怖がるわよ」


「ふざけるな!

 私のマースを(さら)っておいて!!」


「ふざけてるのはどっち?

 男に抱かれ過ぎて頭が変になったのかしら?」


「...殺す!!」


 ハーメラの挑発に激昂したターニャ。

 一気に馬を走らせハーメラに迫った。


灼熱(スコーチ)


「糞が!」


 ハーメラの最大魔法を弾き跳ばすターニャは一気に間合いへ飛び込んだ、


「死ね!!」


煙幕(スモーク)


「何?」


光の矢(ライティングアロー)


 ターニャの剣を紙一重で避け目眩ましをする。

 視界を奪われたターニャの脇に渾身の魔法を叩き込んだ。


「...やっぱりダメか」


 馬から吹き飛ばされたターニャは静かに立ち上がる。

 ハーメラの魔法はターニャの身体に僅かな傷を着けただけだった。


「...もう終わり?」


「さあどうかしら?」


 両手を上げるハーメラの目はまだ諦めて無かった。


「なら地獄で後悔なさい!

 私からマースを奪った事を!!」


「奪ったんじゃない!」


 ハーメラは叫んだ。

 血の出る様な叫び声だった。


「ぐあ!!」


 ターニャの蹴りがハーメラの脇腹を捕らえる。

 身体強化を掛けてなければハーメラのあばら骨は全て砕かれていただろう。


「簡単には殺さない」


 倒れたハーメラに馬乗りのターニャが獰猛な笑みを浮かべた。

 後は一方的な暴力。

 ターニャから次々と振り下ろされる拳にハーメラの顔が変形していく。


 しかしその目は殆ど塞がれながらもターニャを睨んで離さなかった。


「その目を止めろ!!」


 耐えきれずターニャが叫んだ。


「...衝撃波(ソニック)


「グア!!」


 ターニャの僅かな隙にハーメラは魔法を放った。

 しかしターニャは倒れない。


「...お前は」


 静かに口を開くハーメラ。

 血を滴らせながら言葉を紡いだ。


「自分から手離したんだ...マースと...未来をな」


「や...止めろ...私は...ヘカンに騙されたんだ」


「...騙された?

 違うだろ...お前は調子に乗って...マースが邪魔になったんだ」


「違う!」

「違わない!!」


 二人の叫びが草原に響いた次の瞬間、ターニャが大量の血を吐いた。


「グェェ...」


「...薬の乱用ね」


 うずくまるターニャにハーメラが呟いた。


「マース...マース」


 血を吐きながら泣きじゃくるターニャ。

 ハーメラがターニャの首筋に手を当てた。


「...もう少しだったのに」


 そう言ってハーメラは崩れ落ちた。

 彼女の魔力体力、全て限界だった。

 そのまま気を失ってしまうハーメラだった。




「...しっかりしろハーメラ」


「ここは...?」


 名を呼ばれたハーメラはゆっくり目を開けた。

 視界は殆ど無い、全身が痛む。

 自分がベッドに寝かされている事にしばらく気づかないハーメラ。


 「ギルド本部の救護所だ、大変だったぜ此処まで運ぶ(転移)のは」


「ア...レク?」


 ハーメラの目に写ったアレクは心配そうにしていた。


「...どうして?」


 「あれだけ派手にやれば誰だって気づくさ、よくターニャ相手に死ななかったな」


「...マースは?」


 やはり聞くのは愛するマースの事だった。


「ターニャが拐って行ったよ、お前は2ヶ月間意識が無かったんだ」


「なんですって!!」


 身体を起こそうとするハーメラだが、全身の力は全く入らなかった。


「悪いが全身麻痺の魔法をさせて貰ってるぜ、暴れられちゃ治る物も治らねえ」


「マースが居なければ意味が無いのよ!

 意味が...」


 涙が止まらないハーメラ。

 視界が滲むが、指1本動かせ無かった。


「意味は有るぜ」


 立ち上がったアレクはハーメラの涙を拭いた。


「...どこに意味が有るのよ」


「ここにさ」


 アレクはハーメラのお腹を擦った。


「...まさか」


「妊娠してるそうだ、よく流れなかったな」


「...本当?」


「間違いない、ギルドで最高の医者が診断したんだ。

 安心しな、子供は順調だとよ」


「....マースの子供...」


 ハーメラの涙は止まらない。


「ターニャは今ギルドが総力を挙げて捜してる。

 もちろんマースもな」


「...うん」


 「どの街にも近づけない、薬も買う事も出来ない、出てくるのは時間の問題だ」


「...ありがとう」


「それじゃな、立派な赤ちゃん産めよ」


 アレクは笑顔で部屋を出ていった。


 しかしマースとターニャは見つからないまま半年の時間が過ぎて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっと読みました。 壮絶なバトル。 でもターニャーが本来のターニャーならある意味瞬殺だったのかも。
[一言] 色魔となっている大魔女ハーメラと、嫉妬マスクとなっている勇者ターニャが容赦なくお互いを抹殺しようとした結果・・・ まあ痴情のもつれそのものだが、巻き込まれたマースの損得はどうなるであろうか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。