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第2話 恋人を捜して 後編

 

 姦淫の紋が外れ、我に返ったターニャ。

 その時、彼女は地獄に居た。

 ベッドで自分に腰を振るヘカン。

 その脇で笑う仲間だった裸の男達。


『なんなのこれは!!』


 ターニャは絶叫した。

 全てを思い出したのだ。

 ヘカン達に抱かれ、絶望した目をしたマース。

 その目に例えようも無い、快感に喘いだ自分の痴態を。

 ターニャの異変に気付いた男達は彼女を取り押さえようとした。


 ターニャが長く淫蕩に耽っていたとはいえ、腐っても勇者、男達がいくら実力者であったとしても敵では無かった。

 たちまち男達を叩きのめし、縛り上げた。


 口を閉ざす男達に容赦は無かった。

 激しい拷問が始まった。

 1人、また1人と男達は命を失う。

 最後に残ったヘカンは全てを吐いた。

 そして自分が男達にされた事を知ったのだ。

 鬼畜の所業を...


 ターニャは裸のヘカンを縛り上げたままギルドに連れて行き、全てを話した。

 自分に起きた悪夢、そしてヘカン達の罪を。

 仲間を殺したターニャが裁かれる事は無かった。


 証言が終わったヘカンはターニャによって再び痛めつけられた。

 狂った様にヘカンを殴り付けるターニャを誰も止められなかった。

 もしギルドの職員が言った一言が無かったら間違いなくヘカンは死んでいただろう。


『ターニャ、今さらそんな事をしてマースが喜ぶのか!』


 苦し紛れの一言だった。

 しかしターニャは崩れ落ち、ヘカンの命は助かった。

 その後、ヘカン達の余罪が次々と明らかになり、仲間の医師も捕まった。

 生き残ったヘカンと医師は奴隷商人に売られた。

 その金は被害者達に分配されたのだった。


『マースに謝らなきゃ...』


 発狂が収まったターニャが呟いた。

 彼女にはマースが死んだという事実を受け入れられなかったのだ。


『...マース、私だけのマース』

 もう彼女は正気を失っていた。


『マース、また私と一緒に暮らしましょ。

 いつか言ったよね、呪いを受けた俺は役に立たないから田舎に帰って食堂をしたいって...』


 ターニャが無茶な依頼を受け始めたのはそれからだ。

 世界中を周りながら高報酬の依頼をこなす。

 金は全てマースが見つかった時、店を出す為に。


『まだよ、まだ足りない....』

 無茶な討伐にターニャの身体はボロボロになった。

 しかしターニャは止めなかった。

 薬を乱用し、旅を続けた。

 マースの捜索依頼を出しながら...


「...マース、どこに居るの?」


 意識を取り戻したターニャが呟いた。


「気がついたか?」


 いつの間にか個室に居た1人の男が呟いた。


「今日はなんなの、急に私を呼び出して。

 進展でもあったの?」


 据わった目をしたターニャ。

 男はターニャがマース捜索を頼んだ男だった。


『ギルドなんか当てにならないぜ』

 一年前、ギルドで男が言った胡散臭い男の言葉。

 しかしターニャはすがった。

 いや、すがるしか無かった。


 ターニャの噂を聞き、元ギルド職員だった男はマースの死亡届けを調べた。

 そして不審を感じ、ターニャに近づいたのだ。


「やっと掴んだぜ」


「本当?」


 男の言葉にターニャの目が輝いた。


「間違いない、マースの情報だ」


「ど、どこに居るの?」


「まずは金だ」


 男はターニャに手を出した。


「ほら」


 ターニャは金貨が詰まった鞄を男に差し出した。


「毎度」


 男が金貨を確認する。

 ターニャは苛立ちながら男の言葉を待った。


「マースはラクストンの街に居るぜ」


「ラクストン?」


 聞きなれない地名にターニャは首を捻った。


「ラクストンはここから馬で1ヶ月程の距離にある街だ」


 男は地図をターニャに差し出した。


「ここにマースは居るのね...」


 地図を見るターニャの瞳から涙が溢れる。

 その美しさに男は息を飲んだ。


「間違いない、伝手を使って確認したんだ。

 奴は今、ハーメラと暮らしているぜ」


「ハーメラ?」


「知らねえのか?

 大魔道士ハーメラ、良い女だぜアイツ」


 イヤらしい笑みを浮かべる男。

 ターニャはハーメラを知っていた。

 当然だ、マースが命を落としたのはハーメラ率いる調査が原因なのを知っていたのだから。


「何でもハーメラはマースを弟子にして毎晩ヨロシクやってるそうだ。

 あの女も良い趣味してるぜ」


 男はテーブルに残されていた飲みかけの酒を呷った。


「...ハーメラか...」


 ターニャは記憶を探る。


 大魔道士ハーメラ。


 冒険者でその美しさと魔法の腕を知らぬ者は居ない。

 ターニャより2歳年上の25歳だ。


「糞...よくも騙して、私のマースを...」


 ターニャの目が再び闇に染まり、抑え込んだ殺気が部屋に充満した。


「許さない...殺す、殺してやる」


「止めときな、相手は世界で指折の魔法使いだ。

 アンタがいくら勇者でも...」


 男の言葉が止まる。

 ターニャが放つ濃密な殺気に気付いたのだ。


「なら止めねえ、早く行きな、俺はまだここに居るからよ」


 余裕を崩さない男だが、テーブルの下にある足は震え、失禁寸前だった。


「...マース」


 ふらつきながら店を出るターニャ、1頭の馬に近づいた。


「良い馬ね」


 「分かるかい?

 これは貴族様に献上するんだ」


 馬の手入れをしていた男が誇らしげに言った。


「頂くわ」


「お、おい!?」


 馬にまたがるターニャに慌てて男が怒鳴った。


「...離しなさい」


「ヒッ!!」


 ターニャの殺気に男は手綱を離した。


「...ありがとう」


 金貨数枚を男の足元に投げ、馬はターニャを乗せて走り出した。


「...マース、私が助けてあげる。

 ハーメラを殺して貴方を自由に...」


 夜の闇を馬に乗った勇者が駆けて行く。

 マースとハーメラが住むラクストンの街へ...


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― 新着の感想 ―
[気になる点] まあ勇者の自業自得とはいえ(一番の信頼できる人物の忠言聞かず、怪しい人間近付けて大失敗ですし)、魅了・洗脳系の被害者が不幸なまま終わるのもなんだかなあなんですよね、流石に再構築は無理に…
[一言] マースの視点だけで見ればあの男ども怪しいぞと再三警告を発して止めようとしたのに聞き入れられなかったばかりかターニャ自身が男どもの言うことの方を信じて自分を実質除け者状態にしてきて雑用に転落 …
[気になる点] 勇者の自業自得ではあるが不憫でならない。 勇者の結末が気になる。 更新楽しみにしております。 [一言] 個人的な意見ですが女性側が被害者なのに逃げだした男だけが幸せになる展開が好きでは…
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