9:匠と手芸部 後編
あの3人をどうやって説得したのか3人がすごい動揺と怯えみたいな感情を感じた。強引にでもついて着そうな3人を簡単にあしらう白鷺さんがすごい興味を引かれた。初めて女性に対して、人として興味を引かれた気分になった。
それから僕は、千秋先輩と白鷺さんの後につきながら、手芸部の部室に向かっていると思っていたのだが、ついた場所は”理科室”だった。
「あ、あの?”手芸部”の部室に向かうのでは?」
「先に顧問の先生を紹介しようかと・・。」
「た、たすけて~~~~。」
千秋先輩が説明してくれている途中に、理科室の扉が勢いよく開き、上半身とベルトのずれた下半身むき出しの男子生徒が泣きながら走って駆け抜けていく。
僕は状況がわからず目をぱちぱちしていると、千秋先輩からまたか~的な雰囲気が出て、僕の警戒心が高まる。
男子生徒が走って逃げて?いくとその後を追うように勢いよく飛び出してくる女の子?が千秋先輩の右手に捕まり首を服の襟につっかえていた。
「なにするんだ~?!千秋てめ~うちの獲物を逃がすとはいい度胸だな。」
「先生お客さんの前ではしたないまねはやめてくれませんか?品性が問われますので・・。」
「品性なんかはな10代に捨ててきたわ!ん?」
先生と思われる女の子は身長が140CMほどで最初は子供かなと一瞬思ってしまう容姿をしており、僕とそんなに身長が変わらないので、目線の位置がほぼ同じであり、見つめてくる瞳がダイレクトに僕を覗き込んでくるのがわかる。
「お前ちびだな。」
「初対面で失礼しますが、あなたに言われたくないです。」
「ふふふ、こう見えて先生はな、ぼいんぼいんのばいんばいんだーーーーがは。」
ばいんばいんだーのだーのあたりで白鷺さんのハリセン突込みが入り、だーがおっさん声みたくしゃがれた声色になったのはご愛嬌か。
先生は幼児体型でばいんばいんとかはありえなかった。
しかし白鷺さんがどこからハリセンを持ってきたのかなぞではある。
「先生入りますよ。」
「いつつ、ちょっと取り込みがあって散らかっているが気にするな。」
千秋先輩の主導の下、先生は頭を抑えつつ、理科室に案内してくれる。
「ま、適当にかけろ。」
先生としては威厳を保ちたいのか、強面の声をわざわざ作り、着席を促すが容姿のせいで威厳をまったく感じない。
理科室を見回すと、お菓子(パッキー、チョコ類)の残骸と、きれいに隣り合わせに並べられた机があって、その上にシーツが置かれていた。
この教育者は何を考えているんだ?
「魔術の勉強をだな。若い肉体で試してやろうかと。」
「どんな魔術を行使するつもりだったんですか?」
「性欲ぞうきょーぶ。」
またしても白鷺さんに突っ込みを入れられ、首が前にカクンと折れ曲がるぐらいの衝撃を受けて、先生が手を前に出しながら倒れる。
「さっきから人の頭をぽんぽん叩くんじゃない!馬鹿になったらどうするんだ?お嫁さんにもらってくれなくなるんだぞ!」
「先生、その話でいくとすでに手遅れかと?」
「話とはどのあたりだ!?」
「馬鹿になったらという部分からすべてです。」
「うっきー。」
先生と、白鷺さんのやり取りにびっくりしている僕の様子を見て、千秋先輩が二人を止める。
「二人ともその辺にしておけ。お客さんの前なんだぞ。」
「千秋、そんなかっこうですごまれてもまったく意味がないぞ。」
確かにこの場にいるメンバーで学生服を着ているのは僕だけで、先生は私服だし、千秋先輩はドレス、白鷺さんはナース服。
どう考えても、これから学芸会にいこうかという格好になっていた。
「神野君、ちなみにこの格好は趣味ではない。れっきとした”表”の仕事だ。」
「表?」
「手芸部のことです。この秋にある学芸会で演劇部が美女と野獣を演じるらしいのですが、衣装を私達が担当することになりまして。」
「へ~そうなんですか?けど大丈夫なんですか?千秋先輩の身長にドレスを合わせていて?」
「ベル役が男性だから問題はない。しかも筋肉ムキムキの2年3組佐藤君が着る予定になっている。」
「佐藤さんがだれかわかりませんが、すごい佐藤さんが見たくなるじゃないですか?」
「なにムキムキが好きなのか?」
「誰がそこに反応しますか!!」
「隠さなくていい。何を隠そう私も少し興味が・・・。」
「そろそろ、本題に入れや。」
先生が椅子に腰をかけ、パッキーを咥えてドスの聞いた声を出すが、逆に変にかわいく聞こえ、笑ってしまった。
「うっきー、先生、せんせいなんだぞ!えらいはずなんだぞ。」
「行動で示してください。」
「いつも行動しているだろうが。」
「生徒相手に事実既成婚(未遂)しているのがですか?」
「うっきー。先生はな若い男性がスキなんだよ。」
「また、話が脱線してます。そろそろまじめに。」
「もうパターン化してますね。」
とりあえず自己紹介からはじめることになった。
「1年、神野 匠です。」
「2年、黒戸 千秋だ。」
「2年 白鷺です。」
「先生の智熊 富美だ。」
普通、顧問のとかいいようがありそうだが、言葉のチョイスに誰もつっこみを入れなかったのでそのまま話を進める。
「で、手芸部の先輩方がどうして僕を?」
いままで、浮ついた空気だったが、僕の質問に対して雰囲気が少し重くなった。
「さきほども少し話しをしましたが、あなたから”魔力”を検出いたしました。」
「どうやって検出したんですか?魔力が今もれているなら、僕は今頃、姉さん達に殺されている可能性がありますが?」
妖魔と悪魔が持つ力”妖力”と”魔力”には非常に近い波動があり、区別するのが姉さん達でも非常に難しいと思われる。
なので、”魔力”を持つ僕を妖魔と勘違いして、襲ってくる可能性もあるわけで。
常に”魔力”がもれているとすれば、今頃ここに僕はいなかったかもしれない。
それに今、千秋先輩と、白鷺さんからも魔力の波動を感じないし。
「正直に話しをすると以前から、君をマークしていた。」
「え?」
千秋先輩が、少しため息をつきながら、びっくりする真実を話し始める。
「君のような小さい子がタイプなのだよ。」
「最悪です。ストーカーじゃないですか!」
「ストーカーではない。保護をしたかったのだよ。精神的な保護を。君はいつも、美人なお姉さんと、幼馴染と変態な友達に囲まれている。」
変態はあんたも同じだ。と思ったがあえて言わなかった。
「あそこまで美人達に囲まれ、周りの男子からは目の敵にされている君の心を、救いたかったのだよ。そこで私は私のような常識ある人間が君を導かねばと思い、君をマークしていたのだよ。」
「この変態はいつ声をかけようかと常にタイミングをはかっていたのですが、なかなか、声をかけるタイミングがなく、そのままづるづると今に至るわけですが、先日、あなたが、”魔力”を開放してしまった時に”たまたま”見てしまったのです。なので検出したといいましたが、調べてわかったのではなく”見てしまった”が正しいのです。」
「事情はわかりました。後で通報しておくとして、”手芸部”と”魔力”にどんな関係が?」
「それは先生から話しよう。先生は通報しないでくれ。また婚期が遠のいてしまう。」
智熊先生が語ってくれた内容は、”手芸部”は隠れ蓑で、”裏”の部活動”魔法研究部”の存在。
国を挙げた悪魔に対するプロジェクトなどの話があり、最後に僕の魔力が超微力ながら漏れていることを話してくれた。
「と言うことで、今日から1年間、魔力の修行をみっちり行うから。」
「1年?!学業の合間を見てですか?」
「いや、今からだ。」
「今からって、昼休みの終わりまで後10分ですよ。」
「じゃあ、まずは体験学習10日間コースはできるな。白鷺用意しろ。」
「了解いたしました。」
それからよくわからない、状況で白鷺さんの結界を体験し、体験学習10日間の修行を終えたときにはヘロヘロになっていた。
「たくみ~。先生、もっとたくみ~と遊びたい。」
「何を言っているんです。神野君は私と一緒にこれから、バラの世界へ。」
僕の変身した姿を見て、甘えた声で絡んでくる智熊先生と、千秋先輩。
「けどこんな銀ダンのエアーガンでは、修行に耐えれませんよ。今回の修行で壊れてしまったし。」
このとき僕が手にしていたエアーガンは出店でよく見かける当て物の、プラスティック製のエアーガンだった。
しかも修行のせいで、ぼろぼろになっており、現状では使うことができない。
「そうか、ツテがあるから聞いてみる。今日中には新しい君の触媒を渡すことができるだろう。」
千秋先輩はスマホを取り出しどこかに電話する。
その間、智熊先生は、”先生子供は3人ぐらいはほしい”だのずっと妄想の中におりぶつぶつと言っている。
そして、その日の放課後、僕は再度理科室に行き、白鷺さんの結界1年コースを受けるはめになり、自分の魔力の操作方法を徹底的に叩き込まれた。
1年コースの結界修行は体の負担がハンパなく、3日間学校を休み、寝込む事になった。
それから銀ダンの代えとなったエアーガンがガスブローバックのグロック17でしばらく使用することになるのだが、先日の戦闘でお亡くなりになり、現在はM1911A1ガバメントを使用しているのが経緯というわけです。
グロック17が活躍した日々はまたの機会として、気がつけば僕も手芸部に入部させられていました。
いつ入部届けを提出していたのかわかりませんが、きれいに僕の字で”ちゃんと”書かれており、後で聞いた話白鷺さんが代筆したとか。
何このクラブ怖い。