8:匠と手芸部 前編
”俺”は超スピードと電撃対処のため”3日間”、白鷺さんの結界の中で修行していた。冒頭で”今日の朝”のことを思い出していたといっていたが間違いではない。
今日ではあるのだが、”3日間”の修行も確かにしていた。
白鷺さんが作る結界は、”時間”と”空間”を操ることができるらしい。
”3日間”ではあるが今日時間に換算するとたったの3分である。
こんなことを言ってしまうと失礼だと思うが、彼女はあくまで”自動人形”だ。
こんな結界を作れる力を持ち、もちろん戦闘でも抜群の能力を持っている。
そんな彼女を作り出した千秋先輩はすごい人だと思う。
”俺”は自分のこの能力に気がついた時、”力”の使い方もわからず、暴走する恐れがあった。
千秋先輩はそんな”俺”に声をかけてくれて、白鷺さんの結界で”1年間”訓練を徹底的に受け、ようやく何とか操れるようになったが、まだまだ魔力の30%も引き出せていない。
触媒を使用してその状況で、今まで悪魔関連の仕事をしてきた。
今回は情報提供があり、対策のため3日間結界内で修行を行い、新しく手にしたM1911A1 ガバメントの感触にもなれてきた。
「まあまあ、形にはなってきましたね。」
「それでも魔力のくみ上げ速度が遅いよ。精進だよ。匠君」
白鷺さんと千秋先輩の会話で、3日間寝てない”俺”は限界を迎えていた。
「”俺”は3日間貫徹したんですよ?」
「若いのに何をいっているんだい君は。」
「千秋先輩は食っちゃ寝してるだけじゃないですか!はぁ~。」
ため息とついでに眠気が限界に来てしまい、そのまま目を閉じる。
あ~もういい。寝れる。今なら3秒で寝れる。
「ぎゃーーーー。」
電撃が全身を襲い、いやでも目を覚ます。
「大丈夫です。電気風呂並のびりびり感にしておきましたから。」
「いやいや。そんなびりびり感ではなかったですよ。」
白鷺さんに毎回訓練の相手をしてもらっているがスパルタで、容赦がない。
しかも彼女は多種多様の魔法、格闘技、武器を使用できる。
ただし、中級程度の魔法で上級レベルの魔法は使えないらしい。
それでもすごいと思う。
戦いの幅が広く、今回の”食べ残し”を想定して、ランスを持ってどっから持ってきたのかわからないが大きい馬のぬいぐるみにまたがり、風の魔法と併用したスピード系の攻撃を繰り出し、さらに気を抜くと電撃を見舞ってくる。
バリエーションも豊富で、パターン1、2、3といった戦闘方法から応用編まで訓練が続き、今回よく俺の体がもったなと思う。
この訓練が毎回俺の命を救ってくれている。
ほぼ、敵の攻撃パターンが白鷺さんが出した攻撃パターンと違ったことがないからだ。
確かに癖のようなものでタイミングがずれたりはあるときはあるが、それでも訓練で体が覚えており、攻撃をかわすことができる。
彼女は俺にとって実技の師匠である。
しかし今回の件については、かなり神経質に綿密にミーティングと訓練を行った。
花見月学園の”まけん”が負けたことが大きい。
彼らが今回”想定されていない”状況の戦いを行ったとしても、そうそう負けるはずがないからだ。
”俺”達が知らない何かがまだ隠されているはず。
不確定要素がある中、限られた情報と時間で戦わなければならなかった。
いくら白鷺さんが時間を操れる”結界”を張っても、デメリットもあり、特に体に来る負担の大きさなどを考え、今回は”3日間”限定で結界を張り、訓練終了後一旦、解散となった。
”俺”から僕へと変わり、そのまま部室から這い出て、保健室へ向かい、保健室の先生に気分が悪いからとベットを借りそのまま眠りについた。
保健室のベットで仮眠していた僕は、2時間ほどで目を覚ました。
眠りについたのが、14時ごろで保健室の時計を見ると16時となっており、ずいぶんと体が動くようになっていた。
もう授業は完全に終わっているようで周りの雰囲気が静かだった。
ぼーとした思考を覚ますために顔に手を当てて、何度か顔を撫で回す。
ようやく意識がハッキリしてふと意識を集中すると、どこから寝息が聞こえてきた。ここは保健室だし、となりのベットからの寝息だと思っていたが、心の警笛が鳴りいやな予感がした。
朝の二の舞を踏まないように手はシーツの上にに触れるのではなく、そっとシーツを持ち上げる。
そしてゆっくり下ろす。
「うん。見なかったことにしよう。」
「匠~。何が見なかったことにしようだって?こんな可愛い子が添い寝してあげてるのに。」
そこに居たのは、幼馴染の湊ちゃんが寝たふりをしていた。
ボディタッチはなかったが、制服でスカートをはいたまま生足の女子が横に寝ていたら、興奮しない男がいるだろうか!?
僕個人としては断じて、幼馴染に対してそんな気持ちをもっているわけではないが、男の性にはさかえらるわけもなく、顔が赤くなっていたと思う。
そんな僕を、横になりながら覗き込んでいる湊ちゃんがうれしそうに声をかけてくる。
「匠のエッチ。」
「は、はい?」
「寝てるときに私の胸に寝ぼけながら手を突っ込んできたよ?」
「そんな事してません!!」
舌を出しながら、てへと可愛く返されて、は~とため息をつく。
なんでこう僕の周りの女性は、僕の寝てるベットにもぐりこんでくるんだ。
それも、さも当たり前のように。
いくら小さいとはいえ、僕だって男の子なわけで。
「間違いが起こったらどうするんですか!?」
「責任とってもらう?」
「なんで疑問系なわけ。」
「だって責任取ってくれるかわからないし・・。」
僕が少し頭を抱えていると、うめき声がベットの下から聞こえてきた。
湊ちゃんの顔をみると目をそらされ、ベットから下を覗くとそこには、布団に簀巻きにされた水無月姉さんがいた。
しかも口にはタオルが巻かれており、声が出せなかったらしい。
もう一度湊ちゃんの顔を見ると、口を尖らせながら黙っている。
僕はベットから降り、水無月姉さんの縛りを解いた。
「大丈夫?水無月姉さん?」
「たく~ちゃん。みなとちゃんにいじめられた~~~。」
どさくさにまぎれて抱きついてくる水無月姉さんを受け止めると、その大きな胸が僕の顔を埋める。
絶対この抱きつきを演じるために、わざと湊ちゃんに簀巻きにされたんだと思う。
これでも水無月姉さんは、妖魔退治のエキスパートで一般人にやられるはずがない
「ふごほごふご。」
「そんなに胸で暴れるとお姉ちゃん感じちゃうよ。」
その前に死んじゃう。僕死んじゃうから。
「なにやってるんですか!」
怒り狂った湊ちゃんが僕達を引き剥がし、新鮮な空気を肺一杯に感じてようやく落ちつく。
「ぶーぶー。」
水無月姉さんからブーイングを受け湊ちゃんがまたブチギレを行し、言い争いを始める。ここでそっと逃げ出せたらどんなに幸せだろうか。
仮に逃げ出したことを想定して、まず家で水無月姉さんに説教をうけ、湊ちゃんに呼び出されて、説教を再び受けるはめになると思う。
これから”食べ残し”狩りを予定しているのに、無駄な精神疲労を感じてしまう場合じゃないだけど。
「そ、そろそろ帰らない?」
言い争いをしている二人に、少しの間があり今しかないと声をかける僕。
ギロリと2人からにらまれ、苦笑いを浮かべる僕を見て、2人のボルテージが下がっていったのか、一旦休戦という雰囲気になり、ほっと胸をなでおろす。
しかし、そう思っていたのは僕だけで、現実はそう甘くなかったみたいです。
「ところで、何で匠は保健室で寝ていたの?」
「そうだよ~。お姉ちゃん担任の先生からたくちゃんが保健室で休んでるって聞いて心配であわててきたんだよ?」
「ちょっよ風邪気味だったから。」
この質問は想定の範囲内ではあるができれば、話をそらしておきたかった。
僕が”まけん”に入部していることは表の話として、話をしていない。
なぜなら、”まけん”は悪魔と”契約”をした人間で構成されており、一般人から見て悪魔は”悪”であり、その契約者も同罪としてみられているだろうと思う。
そして表向きの部活動の名前は、”手芸部”。
少し話しの筋はそれるけど、手芸部の話をさせてほしい。
僕が自分の”魔力”の存在に気がついて2日目のことだった。
「君が神野匠君だね。」
目の前にドレスを着た変態がいた。
学校の廊下で隣に看護士の女性服を着た白鷺さんと、黄色を基調とし、バラの飾りがすばらしいアクセントをつけたドレスを着たメガネイケメンの千秋先輩が話しかけてきた
周りの目はまったく気にせず、やたらと目立っており、答えにどうしたものかと悩んでいたが、「そうです。」と答えるしかなかった。
「うむ。大丈夫だ。私は変態ではない。ましてこんな格好をして学校を徘徊する趣味もない。ただ時代が私について来れていないだけだ。」
よくわからない日本語を使いがんばって意思の疎通を図ってくる千秋先輩だったが、初めての”変態”に僕は動揺を隠し切れず、そわそわしていた。
早くどっかにいってくれないかな。
心の叫びが顔に出てしまったのだろうか、必死に弁解する千秋先輩の横腹をフルスイングで殴りつけ、千秋先輩に膝をつかせると、白鷺さんが自己紹介をしてくれた。
「私は”手芸部”所属の白鷺といいます。こちらのへん・・・。こちらは部長を勤める黒戸 千秋といいます。」
「どうして、手芸部の方が僕に?初めてお会いするはずですが?」
そっと白鷺さんの顔が僕の耳元まで来ると、甘い吐息とともに小さな声で話し始める。
「あなたから、”魔力”を感知致しました。」
その言葉を聴いたとき、いやな予感がした。
このままシラをきって話を伸ばすのも可能性としてはあったんだけど、白鷺さんからそういった引き伸ばしの話をしても、うそはつけないと思い、肯定の意味をこめて少し沈黙してから返事をした。
「それをどこで?」
このとき、敵かも知れないという気持ちから緊張しており、額から大量の汗が出ていた。
「私達は敵ではありません。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。むしろ、見方と思っていただけるとうれしいです。」
耳元で優しく話しかけられる内容に、安堵感を覚えると息をはき、白鷺さんが僕から離れる。
そしてそっとポケットからハンカチを出し僕の額をふきふきしてくれた。
タイミングを見計らっていたように、話が聞こえていたかはわからないが、白鷺さんが僕から離れると、膝を着いていた千秋先輩が、起き上がり横腹を押さえながら話かけてくる。
「ま、そういうことだ。ここじゃあ人目もあるし、少し時間をもらって部室で話をしたいのだがいいかな?神野君?」
敵じゃない可能性もゼロではなかったけど、なぜか二人を信じてみたくなり、そのまま着いていこうとすると、前から3人走ってこっちに向かってくる。
「たくちゃん大丈夫?変態に襲われているって言われて走ってきてみたけど・・・。」
3人とは水無月姉さんと純姉さん、湊ちゃんだった。
まあ、こんなに目立っていればそりゃ走ってくるか。
3人は目の前にいる千秋先輩を見て固まっていた。
顔はメガネイケメン、長身で服装が、アレなので体格まではこのときわからなかったが、3人が固まるだけのインパクトはあった。
「みなさん始めまして、私は白鷺といいます。こちらの変態は、あ、違えましたこちらの変態、いえこちらは千秋部長で私達は神野さんに少し部活動について勧誘の話があり、すこしお時間を頂こうと思いまして。」
「変態を2回いうな。」
「大事なことかと思いまして。」
固まっている3人に対して、白鷺さんが主導権をにぎり3人に話をする。
僕も白鷺さんと千秋先輩のこれからの話が気になり、白鷺さんの話に口を合わせる。
「僕も少し気になる所があるから、白鷺さん達と話をしようと思うんだ。先に行っててもらっていい?」
とりあえず、3人が何かを言う前に、自分の意思を伝え3人の同意を得ると、手芸部の部室に行くことにした。
3人も着いてくるような話が出たがそこは白鷺さんがうまいこと話をし、3人が引きつった顔をして、ついてこなくなった。




