7:匠と裏部活
結界内のテストで”俺”状態になっているので話し方も変わっていた。
千秋先輩と部活について話をしておく。
”俺”の所属している部活の名前は、”魔法研究部”通称”まけん”。
だけど表立って”魔法研究部”の部活名は使われておらず、別の部活の名前が表で使われている。
部員数は3人。
俺と、千秋先輩と白鷺さん。
普通なら部活動をするのに5人は必要なのだが、千秋先輩の力というか、お上 国のお力で、部活として成立している。
”俺”と千秋先輩は”悪魔”と契約しており、魔力に目覚め、特殊な能力を発動することが可能だ。
”俺”は、どんな銃(夜店で売っているような銀弾のエアーガンでも可能)を持つことでキーとなり、言霊とあわせて魔力を開放することができるようになるのに大して、千秋先輩はドールマスターの力を持っており、自動人形を作ることができるらしい。
その人形が白鷺さん。
常に千秋先輩と行動をともにし、教室では恋人と勘違いされているぐらいだが、実際は主従関係にある。
見てるとどっちが主人か、わからないが。
”俺”も千秋先輩も”悪魔”と契約したと言ったが自分から進んで、悪魔と契約したわけではない。
無理やり、契約の解釈を捻じ曲げられ、成立してしまっている。
特に”俺”の場合は、契約自体いつ行われたのかまったく記憶にない。
”悪魔”は姉さんたちが戦っている”妖魔”とは、存在そのものが全然違う。
”妖魔”は人間の”腐”の感情が溜まる場所から生み出されるのに対して、”悪魔”は魔界で生まれ、そこで成長してそのまま人生を送って死んでいく。はずだった。
200年以上の昔に、魔界との通路をつなげることに成功した人間(馬鹿)がいたようだ。
名前などは文献に残っていないが、この通路が確定されてしまったことにより”悪魔”がこっちの世界(人間界)にやってくるようになった。
しかし、どんな”悪魔”でもこっちにくることができるわけではなく、条件が上級悪魔のみ通路を通ることができ、大小の悪魔が大量にこっちの世界に流れることはなかった。
幸か不幸か、上級悪魔は知識を持っており、単純な欲求から、趣味的な欲求までさまざまな悪魔達がおり、彼らの糧は人間の”欲”それも強ければ強いほどいいらしい。ある悪魔は人間の”独占欲”を、また別の悪魔は”恋愛”を利用し人間の”欲”を強くして最後に餌として食った。
上級悪魔と直接対面したことは今までないが、”食事”以外で”殺戮”に興味があった場合は、今頃人間は滅んでいるだろう。
昔からこの世界には”妖魔”が存在し、それに対する対抗手段として、”退魔師”が存在していた。
”妖魔”は人間から生まれているせいか、刀等の斬撃による攻撃に有効であり、さらに”力”による攻撃でよりダメージを与えることができる。
俺の神野家はその”力”の使い方と、刀による戦闘技術を磨いてきた家柄であり、政府も”退魔師”として地位を認めている。
姉二人も見習いとしてだが”退魔師”の称号を持っており、政府にある程度の権限を認められている。
では”退魔師”が”悪魔”と戦えばどうなるか?
必ず負ける。
”魔力”が人間が持つには異常すぎるぐらい異常であり、世界の秩序を根底から覆す世界を改変する力がある。
対抗手段は”魔力”を持つもの同士がその力をぶつけ合うことだけ。
”退魔師”が持つ”力”は人間が内に秘めているパワー”氣”と言われる体内エネルギーそのものなのだが、”悪魔”が持つ力”魔力”は上級悪魔以上の悪魔”魔王”が持つ力を借りてその体内で”魔王の魔力を使って新しく生成する”ものとなっているようなのだ。
魔族は完全な縦社会であり、”魔王”も複数いるらしい。
各”魔王”に従うことで上級悪魔は魔力を生成し、さらに自分の配下(下級悪魔)を増やし、下級悪魔は上級悪魔に従うことで魔力を生成できる仕組みになっている。
”魔王”に近ければ近いほど、魔力が高くなる。
上級悪魔が人間と契約を結ぶとどうなるか?人間は下級悪魔というカテゴリーではなく、下僕となり、見も心も悪魔に操れる。
”俺”と千秋先輩が操られているかと言えばそうではない。
どうも悪魔側にも、事情があるようで詳しいことは分からない。
ただ、人間側に危害を加えず、加勢している悪魔も存在しているという話で、政府側もその悪魔達と何か取引しており、”俺”らのような存在が認めれられている。
しかし、表立って、”悪魔”の話ができるはずもなく、”退魔師”のような好条件の待遇ではなく、小さな権限だけで止まっているのが現状である。
以上が以前、千秋先輩から聞いた話である。
ガバメントのテストもある程度終わり、千秋先輩が声をかけてくる。
「新しい銃のテストも上々のようだね。まあ後は使い慣れのほうかな。」
M1911A1ガバメントのルーンが正常に機能し、”俺”の能力を銃に直接伝えているかの確認を終えた。
「う~ん。前回(グロック17)よりかは大分いいんですが、まだ全力が出せないのはつらいですね。」
「今回ずいぶん改良を加えたと聞いているんだけどね。」
「それはわかっているんですけどね。手ごたえは確かに感じてはいますよ。」
「わかった。まだ改良できないか伝えておくよ。じゃあ今回の任務は、そのガバメントで行ってくれ。」
「お、もう任務が入ってきたんですか?前回より1ヶ月もたってないんじゃないですか?」
「そうなんだよ。ここ最近、近辺に住み着いた悪魔がいるらしくてね。悪魔自体の対処は別の部署に任せるとして、僕達は”食べ残し”の処理を行うほうでがんばらないとね。」
「で、その”食べ残し”についてなんですが、今回はどのあたりに。」
「それは、白鷺のほうから聞いてくれ。ぼくはあまり詳しく聞いていないんだ。」
「ではわたくしから。これをご覧ください。」
白鷺さんが作った結界内で、急に彼女の横にホワイトボードが出現し、ボードには張り紙が張ってあり地図が描かれていた。
「最近この近辺に、”食べ残し”が出現しております。」
彼女が地図を指して場所を確認する。
「これって隣町の噂になっている神父が不在の教会ですよね?」
「ハッキリ廃墟っていってもいいよ。」
「千秋先輩それは見もふたもないです。」
「話を進めてもよろしいでしょうか?」
「すみません。続けてください。」
「”食べ残し”を処理するために、別の”まけん”が対処に当たったのですが、うまくいかなかったらしく。」
「それで俺らに声がかかったわけですね。しかし、別の”まけん”が対処したってどこです?」
「花見月学園の”まけん”らしいです。」
「え?マジですか?」
「マジです。」
花見月学園とは”俺”の管轄している区内のナンバー3に入る”まけん”がある学校で、うちは新設されたばかりの弱小”まけん”だ。
そんな訳で今まであまり大きな”食べ残し”の処理の依頼はなかった。
そんな力の格差があり、花見月学園の”まけん”が負けてしまったような”食べ残し”との当たるような依頼があったわけで俺は驚いていた。
「これを解決できれば、ぼくたちの人員も増えると思うし、やってみる価値はあると思うけど、どうする?」
千秋先輩は”俺”に質問する。
もちろん、答えはやる方向で考えてはいるのだが、大丈夫なのかと思う部分もあった。
「やりますけど、情報がまだ不十分な部分もありますよね。今回の”食べ残し”についてもう少し詳しい情報ほしいです。」
「そうですね。最近発見されている”食べ残し”の共通点が白の勾玉と黒の勾玉をくっつけたような石が、倒した”食べ残し”から発見されており、中国でよく見かける陰陽図のような石で、その石を調べてみるとホワイトオニキスと、ブラックオニキスでした。」
「それを扱う”悪魔”はどんな感じの奴ですか?」
「それは判明されておりませんが、残された石から魔力を検知した時、かなりの魔力値をたたき出しており、今の私達の戦力では苦戦することが予想されます。」
「神野君、どうしますか?今回は、ぼくと白鷺だけで出ましょうか?」
「千秋先輩それはないです。俺が行きますよ。」
「そうですか。では白鷺を連れて行ってください。」
「白鷺さんを?いいのですか?」
「もちろんです。撤退しないといけない場合は彼女を見捨てて逃げてください。後はこちらで何とかしますから。」
千秋先輩が冗談で”見捨てる”といっていると思っていたが、目が真剣で本気でそういっているのだと感じた。
「千秋先輩、俺がそんな事できるとでも思っているのですか?」
「出来ないことは分かっていますよ。ですが彼女は”道具”です。”道具”ですがぼくが作った最高傑作です。それなりに仕掛けはしていますよ。それに彼女の力は知っているでしょ?」
目の前でそんな話をされていて人間だったら気分が良いものではないが、白鷺さんの顔は眉1つ動かさず、スムーズな動きから千秋先輩を卍固めでしめていた。
「うぎゃー。」
「匠さん。確かに撤退をする場合は私を置いて逃げてもらってかまいません。ただ、心無き暴言、いかにマスターとはいえ、心が痛みました。」
「ぎ、ギブです~。」
千秋先輩の腰からゴキゴキといい音が聞こえた。
「それと分かっていることがもう1つ。相手は女性の騎士らしいのです。」
まだ卍固めを決めながら平然と話しを進める白鷺に、俺はかなりびびっていた。
白鷺さんを怒らせないようにしないと”俺”もああなってしまう。
あ~~あ~~、もう千秋先輩のライフは0よ!やめてあげてー。
心の叫びとは別にちょっと千秋先輩がやられているのを見て、うれしい”俺”がいた。
しかし、女騎士?
”俺”の顔から疑問を感じとったのか白鷺さんが追加で説明してくれる。
「武装は槍。日本のような槍ではなくて中世のランスね。花見月学園からの情報提供で電撃を主体とした攻撃で超スピード型の”食べ残し”らしいです。」
「し、白鷺さん。そろそろ勘弁してあげてください。」
千秋先輩がぴくぴくし始めて”俺”は急に怖くなった。
うれしくなってごめんなさい!正直行き過ぎると怖すぎます。
「あらあら、まだマスターも鍛え方が足りないこと。これは調教メニューを増やさないと。」
卍固めをはずすと、ぴくぴくして泡を吹いている千秋先輩に活を入れ意識を戻す白鷺さんが”俺”は怖くて仕方なかった。