第13話 密談
「例のプロジェクト進行具合はどうだ?」
「順調に。これも肱川先生のおかげです。」
高級料亭の一室で向かい会う男性二人が豪華な和食料理に舌鼓を打っていた。
一人は笹川。
もう一人はこの国の野党議員で70歳を過ぎてもなお、その権力は野党最大といわれている肱川 忠道。
普段笹川はどんな時でも、基本アロハシャツとラフな格好で表の仕事を行う。
しかし、今はスーツに身を包みエリート商社マンのような雰囲気を出していた。
それもそのはず、黒の薔薇の組織のパトロンで肱川を前にしているのだから。
肱川は、与党の国家プロジェクト”退魔幻猟団”に対して、対抗組織の設立を行い、与党の力をそぐ事に尽力してきた。
その対抗組織の一つが”黒の薔薇”である。
この世にはびこる妖魔を退治することを古くから行い、国を影ながら支えている”退魔幻猟団”の権力は政界で絶大であり、絶対的な組織である。
そんな組織に野党が対抗する手段が今まではなかったが、”悪魔”という存在が出現したことにより、そのバランスを崩し始める。
”妖魔”退治のために影ながら予算を取っていたが、ここに来て”悪魔”退治を行うための予算まで算出しなくてはいけなくなった与党は、野党に詰め寄られる。
表向き国会でこの議論を交わすことができず、与党としては世論に発展する話ではないのでのらりくらりと話をかわしている。
そのあいまいな部分を使って、野党は勢力拡大を狙い、”退魔幻猟団”に変わる大きな組織を設立したのだが、反国家組織とみなされ与党に一度つぶされてしまう。
さすがに影の浅い部分ではつぶされる事が分かったため、もっと深い闇の部分で、ひそかにいくつもの組織を作り、非人道的なやり方だとしても、推し進める形で”黒の薔薇”が生まれた。
”黒の薔薇”は対抗組織としては中型で、肱川からすれば、メインロードを走るプロジェクトではない。
どちらかと言えば、与党の目をくらませる為のダミープロジェクトといってもいいのだが出資額はかなり大きい。
研究費用にかなりの金額をつぎ込んでおり、プロジェクトの総責任者である笹川を呼び出して釘を刺すつもりなのだ。
それを笹川はもちろん知っている。
しかし、もっと肱川から出資させる為に、研究資料の”一部”を肱川に公開する手段に出る。
「こちらが現在”飼っているモルモット”の資料にございます。成果としては約70%ですが、肱川先生が進められている”赤の薔薇”、”黄の薔薇”、”青の薔薇”のプロジェクトの成果より優れている部分もございましょう。もちろん私どもはこの成果を提供することで先生が進められているプロジェクトの活性化を望んでおります」
タバコを手にし、資料に目を通していく肱川の返事を待ちながら、得意げな顔を見せ内心では、少し警戒した気持ちでいた。
(俺が調べさせた”赤の薔薇”、”黄の薔薇”、”青の薔薇”の成果が最近芳しくないという情報と、”黒の薔薇”の成果が勝っているという情報を手に乗り込んできたが、このじじい何か隠しているのか?)
肱川は資料に目を通し、手を2回叩き、ふすまの向こうで待機していた第1秘書のメガネの男性に資料を渡す。
そのまま男性は下がって、肱川は口を開く。
「よく出来た資料だ」
「ありがとうございます」
「しかし、本当にここまでの性能があるのか疑問ではあるな」
「”かの者達”を殺すには同じ性質の能力が必要でございます。”我々”ではその力を持ち合わすことができません。ですので”かの者達”から抜き取るしかないという話です」
「抜き取った後”その力”を移す器の作成で、手間取っていると資料にはあったが?」
「その通りでございます。しかし”あるモルモット”を手に入れた事で、徐々に器の形が見えてきまして進行状態も悪くありません」
「でいくら必要なのだ?」
(よし、金額さえ間違えなければ乗ってもいいということだろう。よほど”向こう”の動きが悪いと見えるな)
笹川が事前に用意していた別の資料を手渡す。
研究費の見積もり書と、その詳細についての資料、約20枚ほどを手渡す。
そこに提示されていた金額は300億。
肱川としてはかなり冒険する事になる金額である。
当然すぐに首を縦に振ることができない。
1本目のタバコがすい終わり、2本目を箱から取り出し口に挟む。
笹川がすっとライターに火をつけると、その火でタバコに火を入れる。
大きく吸い込み、鼻と口から大量の煙が部屋を充満させる。
「この金額安くはないのだが?」
今後の組織継続費に加え、研究費用、人為確保などの経費、あとは表立って活動できる組織ではないことに対する費用だと笹川から説明せずとも、資料を見て判断しているが、他のプロジェクトに比べると15倍以上の費用である。
笹川としてもかなり吹っかけた部分は確かにある。
しかし、提示した資料は”良く出来ており”少し調べただけではこの金額の裏は取れないようになっている。
笹川はすぅ~と下がり机から離れて正座をし土下座をする。
「ご判断にお任せいたします」
(この小僧やりおるわ。わしの器量を図ろうというのか?しかし全額は出すことができん。ここで踏みつける事も可能だが、一定の成果を出している以上、つぶしてしまえば他のプロジェクトに影響してしまうだろう。現状より少し高め、他のプロジェクトに影響せぬようにせねば)
肱川の懸念は、金額に見合うだけのリターンがあるのか?という部分。
各プロジェクトは政権を取る為の布石でしかない。
プロジェクト維持が目的でも、軍事的に政府を掌握する為でもない。
組織維持のためにつぎ込んだ金額を考えれば、政治資金の貯蓄がかなり出来ていたはず。
さらに言えば初めつぶされた組織の設立につぎ込んだ金額の回収ができておらず、現在進行中の”赤の薔薇”、”黄の薔薇”、”青の薔薇”、”黒の薔薇”の組織設立金額より、初めに設立した組織のほうがでかいのである。
政党を挙げたビックプロジェクトを一度つぶしてしまったが為、野党最大といわれている権力をもっていたとしてもいつ転げ落ちるかわからない。
現在自分が立たされているバランスを考えると、非常にやっかいな金額なのである。
かといって踏みつけて、現状維持を言い渡したとして、各プロジェクトに示しがつくのか?
しかもメインロードにする為の”赤の薔薇”、”黄の薔薇”、”青の薔薇”の進行状況が底面しており、急激な変化は期待できない。
笹川から渡された資料で、各組織の進行を活性化できるとは思ってもいない。
肝心な部分が抜けているように思える。
開示を求めてもいいが、この男が自分の権利に繋がる”核”を渡すことは考えられない。
自分なら絶対に渡さないからである。
(こやつはそこまで見越してこの金額を提示してきたのか。面白い)
「わかった。研究費の増額を許可しようではないか」
土下座をして下を向いている笹川の顔がにやりと笑みが浮かぶ。
「しかし、全額というわけにもいかぬし、研究成果自体、実際の目で確かめる必要がある」
「おっしゃる通りで」
土下座をやめ、顔を上げると笹川は手を叩き、笹川の後ろのふすまが開く。
そこに立っていたのは、筒川 功治だった。
「肱川先生の護衛としまして、研究成果である”これ”を持参いたしましたお受け取りください」
「”D”ではないのか?」
「さすが先生お目が高い。あれは先生に差し上げる”極上のモノ”ではまだございません。期が熟しておりませんので。もちろん期が熟した際は必ず先生に」
「しかし、わしの趣味をよく知っておるの?」
功治のことを好色の眼差しで見つめる肱川に対して笹川は心で毒づく。
(下種が。じじいに俺の研究成果の一つでも渡すのが腸が煮えくり返りそうなのにこのくそじじいが)
笹川のお気に入りの一つである”筒川 功治”を差し出す事は、断腸の思いだが、”D”を渡すわけにはいかない。
欠陥品ではあるが”筒川 功治”も良く出来ている。
ばれるはずがない。
と笹川はそんな腹黒い思いを顔に出さず、笑顔で功治に肱川のお酌の相手をしろと命ずる。
綺麗な動作で、まるで芸者のような配慮で肱川を相手にする功治に対して、身を削るような思いで見る笹川を気にした様子はなく肱川は嬉々として功治にべたべたと触りまくる。
気を良くした肱川から今回出資できたのは50億。
提示した金額の6分の1。
現状の5倍である。
思っていたより引き出せたと笹川は思っている。
料亭前で用意していた肱川の海外高級車に乗り込む肱川と功治を見送り、スマホを手に連絡を入れると国産高級車が5分後に目の前に現れる。
乗り込んですぐに、笹川はネクタイをはずし、ラフな格好になると助手席の腹心の女性に話かける。
「すげー最悪だったわ。あのくそじじ。まじでありえね~わ。タバコぷかぷかすいやがってくせーってーの」
「しかし男色家という噂は本当だったようですね」
「すげーうれしそうに、”出来損ない”をもって帰っていったわ」
備え付けの100均で買える肩つぼ押しを手に、肩をほぐしながら、会話をする。
「”あの出来損ない”をどんなけ研究しても成果は知れてるけどな」
「あなたも御執心だったじゃないですか」
「気が利くし便利だったのは確かだ。しっかしケイの御守どうすっかね~」
「現在手ごまが少なくなっています。」
「いっそ”ソイ”を脱退させてケイにつけるか?」
「あのものは”我々”側ではありませんが?」
「だ・か・ら。ずっと御守(見張ってて)してくれるっしょ」
「ではそのように」
「頼むわ」
笹川を乗せた車が陣たちが所属する事務所へ向かうのだった。
修正:
まけん → 退魔幻猟団
まけんは、できたばかりのそこまで大きな組織ではないです;;




