第6話 魔力
”魔法とは、術を唱えて現象を引き起こすのではなく、魔力が現実の世界に干渉し世界を改変して、現象を起こす。”
エムが行った魔法訓練で仁に聞かせた事だった。
本来の魔法とは、本人しか使えない”ユニークな魔法”を魔力から変換する為の、”キーワード”でしかなく他人が同じ魔法を使うとなると不可能ではないが、非常に高度な技術を要求されるほか、力の似た性質の魔力が必要になる。
たとえば、アニメなどでよく見かける”火”の魔法。
同じ”火の魔力”を持つ者が同じ”キーワード”を使っても”同じ”にはならない。
魔力に色をつけて説明されると少しわかりやすいかもしれない。
条件は同じで”火の魔力属性”で”性質に色をつける”とどうなるか。
性質に色をつけると例えば、赤、白、蒼、紫、黄など人の数だけ色があり、赤は派手だが威力は少ない、逆に蒼は派手さに欠けるが火力が高い、紫は前2色の中間の威力を持ち、白は一度人を灰に変えそこから再生を行う、黄は広範囲の影響を及ぼす。 例としてあげた以外にも、ユニークな性質はあるのだが、さらに例えを重ねると赤と白の魔法使いが使う”ファイアーボール”では改変される現象が大きく違う。
赤は攻撃的で白は回復系なのである。
白の魔法使いの”火”の魔法が、回復系というのは少し誤解があるかもしれない。 なぜなら”一度燃やして灰にして”から”再生”しているのである。
フェニックスを思い浮かべてもらうとわかりやすい。
不死鳥と呼ばれ、傷を受けると燃えて再生が行われる。
火を得意とする魔法使いの性質を理解したところで仁が”火の魔法使い”になれるかは別だと言う事をエムから教わった。
まずは自分が”どんな魔法を使えるようになったのか?”を知るところからはじめなければならない。
もちろん例外も中には存在する。
”すべての魔法をまんべんなく均等に使うことができる存在”がいる事も教わった。
仁は自分が”すべての魔法をまんべんなく均等に使うことができる存在”かの検証からまずは行った。
なぜなら、”そうじゃなくても”訓練の無駄にならないからである。
すべてを試す事は時間がかかるやり方で、遠回りな方法だが、どれに手をつけていいのかわからず、ただ立ち止まっているより前に進むほうがよほど堅実的だと考えたのである。
今すぐ強力な”力”が必要になるわけではない。
8歳の仁は、体内の魔力を一点に集中できるようになるところからはじめ、体内での魔力コントロールがある程度の段階までくると、各性質の魔法訓練を始めた。
魔法は他人が”キーワード”を教えてもほぼ意味はない。
”魔力を現実と繋げて改変するときに浮かぶイメージ”が大切なのである。
火を出したいのに氷のイメージを浮かべても意味がなく、しっかりとしたイメージを持つことで、影響範囲、威力などをコントロールできる。
仁は色々試してみた。
結果できた事は、メインの術となる”凍結の魔法”と、魔力を扱う際に生じる副産物的な”身体変化”だった。
”凍結の魔法”はエムと同じ魔力の性質で主従関係にあるからというわけではなく、”たまたま”そうなっただけである。
身体変化については、動物などに変化できるわけではなく、少年から青年に変化し、魔力のコントロールを飛躍的に向上させる能力みたいだった。
特に変化する時に媒体が必要で、”銃”がトリガーとなっている。
銃はさらに魔法を使うためにも必要で、ほかの武器になりそうなものでは魔法を使うことができない。
限定された力だが、非常に高密度の魔力を使う事ができ、魔法も非常に強力である。
ここまでわかるのに時間がかかった。
しかし、エムに言わせるとまだ早いほうである。
まずエムという先生がいたことで、ステップアップの為の指導が可能であり、仁自身が状況判断をするのに非常に優れていた事もある。
人間界に”魔法”が存在せず、認知するだけでも時間のかかる”作業”なのである。
世間を知ってしまった大人(20代後半)だと認知できる情報と現実に大きく弊害が生まれ、うまく力をコントロールできないだろうともエムは言っていた。
エム自身何歳か詳しく聞いていない。
見た目が同じ歳ぐらいに見えるので今まで気にしていなかったが、ふと疑問に思う所がある。
すごい年上だったら、気まずくなりそうだし、逆に年下だと今までの魔力訓練でエムが知っている知識とはどのように得たのか気になる。
結果として自分と同じ歳だとうれしいなと仁は思っていた。
今日も昼、中学校の屋上で仁は魔力のコントロール訓練をしていた。
階段から屋上に出てすぐのプレハブ小屋があり、菜園部が花を育てる為に使っている。
そのプレハブ小屋の物陰を利用して、両手の指を合わせてボールをイメージするように魔力を集中させる。
外はなかなかに寒いはずなのだが、とくに気にした様子もなく目をつぶって意識を集中させている。
「面倒だな。」
集中していた意識を開放し、すっと立ち上がると仁は腰に隠していた”100均銃”を取り出し、”身体変化”を行う。
急にあたりが虹色に包まれたかと思うと、仁は白い空間の中に立っていた。
「魔力を感知してきてみれば、学生さんじゃない?」
160CMぐらいだろうか、スラッとした体型の女性だが胸が凶暴的で目を引くスタイル、歳は顔から推定するに高校生ぐらい。
顔がすごい整っており、ロシア人女性を思わせる美人である。
髪は金髪のツインテールで腰のまであり、服装は少しロリータっぽく黒をイメージさせる。
(金髪と黒のロリータってあんまり合わないな。)
仁は思いながら、彼女に銃を向ける。
銃を向けられているのに警戒心はないようで、彼女は笑みを浮かべている。
(何を考えている。)
仁は警戒心を煽り、相手の出方を見るつもりなのだが、彼女にはすごい余裕が感じられる。
銃を構えていつでも攻撃できる態勢があることを示すことで、優位性を強調し、この場の流れを自分にもっていくつもりが、逆に少しあせりが生まれる。
そんな葛藤の中、彼女が急に両手を挙げて敵意が無いことを示し、話かけてくる
「あなた、人間よね?」
「ああ。人間だと思う。」
魔力を持ち、魔法使いとなった自分が、彼女のいう”人間”の定義に当てはまるのかと思う疑問から”人間だと思う”という言葉が出てきた。
「じゃあ問題ないと判断して、私はあなたをスカウトしたいのだけど?」
なぜ俺の周りには主語のない奴ばかりなんだと仁は思う。
本当にほしい説明文がなく、急に展開が始まる。
人生そんなものなのかと思う部分はあるのだが、できれば人生ゆったりと過ごしたい。
「スカウト?何に?」
ああ、多分聞いて後悔するんだろうなと思う反面、ここである程度話に乗っておかないと、後々面倒な事になるような気もする。
とりあえず話しをあわせながら、いったん銃をおろす。
「”まけん”に。」
「”まけん”?」
「あなた、”下僕”でしょ?」
「その言われ方は好きじゃない。」
「ごめんなさい。けど、私達の一般常識の中で、わかりやすい”認識用の言葉”だから。」
共通した認識言語を話しするのはわかるが、あまり自分の立場を再確認したくない。
あくまでもエムとは”友達”でありたいと思っているし、できればそれ以上の関係になれればと下心がないわけではない。
だから、”下僕”という言葉が、13歳になったばかりの少年の心をえぐる。
話を変える為に本来の話の道筋に戻す。
「で”まけん”って?」
「まず自己紹介からするわ。私”エル=ダクト=ワン”。人造人間なの。」
さらっとすごい単語が出て来たのだがそのままの流れで、話が続きそうになるが仁が聞き返す。
「エム?」
「いえ、エルよ。」
言葉の聞き違いにちょっとほっとしながら、話の続きを聞く。
「人造人間という単語には驚かれないのね?」
「いや、驚いてはいるけど、悪魔だっているぐらいだから、科学が進んでいるこの世界で人造人間はまだありかなっと思って。」
「なかなかに面白い発想ね。私は国家プロジェクト”魔法研究部”通称”まけん”のとある研究チームより、1号として作られたの。」
会話の流れは微妙だが人造人間というわりには口調に違和感がまったくなく、滑らかだった。
現在、テレビで見るロボットは、かなり動きはスムーズになったがまだロボットとだとわかる違和感があるが、ダクト(エルと呼ぶとエムと勘違いしてしまうので)はそんなロボット的な感じではなく、生き物と呼んで支障がない”出来”だった。
「”魔法研究部”とは、この世界に降臨した悪魔、下僕達を保護し、人間達に背く悪魔を駆除するプロジェクトよ。」
「ようは、国の保護の下、悪魔祓いの国専用の用心棒をやれって話?」
「そう。私は魔力を感知しここに来たのだけど、腕のたちそうなあなたがいてスカウトしたいと思ったの。」
「断る。」
「理由を聞かせていただいてよろしいですか?」
「面倒だ。」
仁の簡素な意見に、動揺するわけでもなく、表情も特に変えずわかりましたと返事をするダクト。
「ただ、あなたに監視をつけさせて頂くわよ?」
「監視?」
「そう。”まけん”に入って頂く必要はないのだけど、国家反逆をされても困るし発見して事件が起こったら後味が悪いわ。下手をすれば核兵器以上の力を持った悪魔がいる可能性もあるし、あなたがその下僕だという可能性も。」
「まあ、確かに。理屈はわかる。しかし、俺はなにもしない。」
「あなたが何をいっても無理ね。頭のよさそうな、あなたなら、あなた自身が危険な存在になった事はわかるでしょ?」
「自由は保障してくれるのか?」
「監視の下になるけど、特になにもなければ。」
「監視官は紹介してくれるのか?」
「いえ、陰ながら監視ということで。」
面倒な事になったと思ったが、ここで事を荒立てては意味はないし、無用な争いは避けるべきだと思った仁は、監視の件を了承した。
「ちなみ聞くだけだが”まけん”に入ると監視はどうなる?」
「監視はなくなるわね。見張る必要がなくなるから。」
エムの機嫌次第ではそっちも視野にいれる必要がありそうだと思う仁だった。
「しかし、魔力を感知してここにきたといっていたが、俺がコントロールしていた魔力は微々たるものだったぞ。」
「私は言ったはずよ。私は人造人間だと。」
「確かに、しかし質問とはあまり関係ないような?」
「悪魔と戦うために造られたとだけ言っておくわ。」
詳しくはいえないと言うことだろう。
ダクトと話をしている間に、エムに監視の話をするべきかを迷っている。
下手に監視の話をして機嫌が悪くなるのも困るし、話をせず後でばれて怒られるのもかなり困る。
(さきに正直に話しを通しておくか。)
仁の考えがまとまり、ダクトに向きなおす。
「良い結界だが、そろそろ解除してもいいんじゃないか?」
仁と、ダクトがいる場所は結界が張られており、どこまでも広い白い世界が広がっている。
まだ仁に警戒をしているのかダクトが結界を解く気配がない。
「俺は何もする気はないし、このままだと昼休みが終わってしまうんだが?ほかに何だ、まだ何かあるのか?」
さっきからダクトの顔がいやに赤い。
「あなたの名前まだ聞いていないわ。」
ここで偽名を使っても身元はすぐばれそうなので、素直に答える。
「一之宮 仁」
「そう。では一之宮、私のモノになりなさい。」
仁がしかめた顔をダクトに向ける。
(この人造人間何をいっているんだ?私にモノになれ?)
仁はこれと似たような体験をしているので、インパクトは大きくはないが、どうやって返事をするか悩んだが、簡潔に告げることにする。
「いや、それは無理だ。」
「なぜ?私は造られてから言い寄られたことは多数あるけど、私の始めての告白を断るなどあなたごときができるはずもないと思ってるけど。」
「ごときって、それに今断ったし。」
「ふ、幻聴よね。もう一度聞くわ。私のモノになりやがれ。」
「いや、む・・・。」
仁の腕に、ダクトの凶暴な胸が押し付けられており、あまりにびっくりして、言葉が途中で途切れる。
見た目は魔法で10代後半になっている仁だが、中身はまだま13歳の少年、女性の武器を使われて、葛藤をなくせというのは酷な話である。
頭の中が真っ白になっているのだが、甘い香りと腕に押し付けられるすごい感触にやばいと警笛が鳴っているのだが、抜け出すにはあまりに惜しい。
「私のモノ?」
耳元で甘くささやきかける問いかけに仁の、のどがなる。
ダクトも仁が逃げない事に、ある一定の感触を掴んだのだろう。
観念して、ダクトのモノになるものいいかと思った瞬間、エムの怒り狂った顔が浮かび慌てて、腕からダクトをはずす。
「無理だから。怖い人いてるし。」
「彼女?」
付き合っていないエムをどう説明していいのか、悪魔で主従関係と口に出してしまっては本当に”そうなってしまう”ような気がして口から、言葉がでない。
俺はエムとどうなりたいのか。
答えは出ている。
13歳にして、ずっと一緒にいたい相手を見つけてしまったのだと自覚するが、口に出すのが恥ずかしい。
黙っていた仁の態度に肯定したと感じダクトが軽く言う。
「じゃあ、別れなさい。」
「なぜそうなる?それになぜそんなに俺に入れ込む。今日あったばかりだろう?」 「確かに今日あったばかりだけど、時間などは関係ないのでしょ。恋とはそういうものでしょ?」
仁は一目ぼれしてしまった自分に重ねてしまい否定できない。
「じゃあ、彼女がいてる家まで行って話をつけたらいいのでしょ?」
「今からか?」
「そうよ。」
「俺まだ学校あるし、昼休み中なんだぞ。」
「では放課後、校門で待っているわ。」
「ちょ、ちょっとま・・・。」
仁の呼び止めに聞く耳をもっていないと、結界をとき、ダクトは仁の返事を聞かずその場を飛んで立ち去る。
(ど、どうすればいい?)
ののんの時とは明らかに違う。
回避できるような話でもなさそうだ。
俺ははっきり答えを出したはずなんだ。
恋愛ドラマとかで、2マタをかけて、どっちにするの?とかよくある話で優柔不断なやつははっきり答えを出さない。
もう一度自分の心に言い聞かせる。
(俺は答えを出したはずなんだーーー!)
屋上でよつんばに崩れ落ちる仁を、プレハブから見つめている存在がいたことを彼は気づいていない。




