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「貴女を愛する事は無い」と言われた令嬢、それでも子作りに成功する  作者: ムニ


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後編

 やがて。


 アンラカが取り出した逆円筒形の折り紙内に、やや粘着性な液体が注ぎ込まれた。油紙で出来ており、平地に置いても中身が零れない形をしている。


「はい、子種、いただきました」


 その中身を、更に取り出した器具で吸い取る。


「はっ!? なんだ、それはっ!?」

「よくぞ聞いてくださいました。これはウチの者が発明した『注入器』という物でしてね」


 二重に成った筒の片方に細長い硬い管が、反対側には押せる突起のようなものが付いて居る、細長い器具の名前だ。大きさは、両手の平に乗るほど。


 押し釦を押し込むと、内部の筒も押され、中の液体が筒の押し釦とは逆の反対側の管から迸る仕組み。二重筒の密閉度が高くないと上手く押し出せないとかで、相当に技術が必要な器具だとか。


「これを使えば、別に身体を重ねなくても子供が出来るんですの」


 数年前、閨教育が開始されたアンラカが『子を作る為だけに、愛しても居ない男性に抱かれるなんて』とヤイレカに零した。

『領主を目指すなら仕方ない』と思って、それでも言わずには居られなかった、どうにも成らないのを承知した上での唯の愚痴、の筈だった。


 そうしたら、ヤイレカが真面目に対処を考え、職人に作らせたのだった。

 当時、既にヤイレカは、王都居住も将来の政略結婚も蹴飛ばす代わり、内々に後継者争いから降りる発言をして居たのに。


 あの日から、アンラカは妹を信用し、何でも相談している。


 まさか、初夜から夫側から、あんな台詞を吐かれ閨を拒否されるとは思わなかったが。

 そして、万が一の為に用意しておいたヤイレカと注入器に、本当に出番が来るとは。


 アンラカから見えるヤイレカも、『作っておいて良かった』と『まさか本当に使用する事態が起きようとは』を混ぜた、複雑な顔をしていた。


 新夫は【空間】属性持ち。

 後ろから羽交い絞めした上に顔を掴んで居るヤイレカごとながら、見知った共用廊下に【転移】する事は可能。


 そしてヤイレカは、普段はサイザイ領にヒッソリ住み、王都内のサイザイ領館で働く人々に顔を知られて居ない。

 そう成れば、本日にアンラカと結婚式を挙げたばかりの新夫を羽交い絞めしている彼女は、不審者扱いされるだろう。


 しかし同時に、下半身裸で少女に羽交い絞めされている姿を、新夫は警備兵達に見られる状況に陥る。

 自尊心が高そうな彼に、その辱めに耐えて【転移】する度胸は無いだろう。


 そもそも、婿入りなので、ここは王都に在るサイザイ領館の中。警備兵達は全てサイザイ領の者だ。

 よほど悪辣な事で無い限り、彼らは次期領主たるアンラカの味方である。

 ましてや事情を知れば、子作りに協力しない新夫の方に非が有ると判断を下すであろう。


 アンラカは、自身の属性である【時間】の【劣化遅延】を、『注入器』に掛ける。後で自身の体内に入れる予定である。


「大丈夫。ちゃんと何度も実験して、成功しておりますの」


 犯罪奴隷の男女を使って、何度か成功させている。

 成功した犯罪奴隷の女の刑罰は減刑したし、生まれた赤子たちは、孤児院に入れた。


「今後も、こうして子種だけ、いただきますわ。なにせ貴方には『愛する女性が、いらっしゃって、わたくしには性的な魅力を感じない』のですものね?」

「お前!」

「まあ! 仮にも妻を、そのように呼ぶなんて」

「もう俺は、この部屋には来ない!」

「そうしましたら、『このアンラカとの間に子を作る気が無い』と判断して、二番目の夫を婿取りする良い大義名分に成りますわね」


 鼻で嗤う新夫。

 だけど、少女に羽交い絞めされ下半身丸出しな姿では、全く様に成らない。


「相手が居ないから、弱小華族の三男坊な俺に決まったんだろうに」

「婿が華族でしたらね」

「!?」


 王家に邪魔できるのは、他領主の一族――華族から婿入りしてもらう場合。

 サイザイ領内の、領主一族に仕える士族の身分から探すなら、邪魔も入れられない。父親が誰かより大事なのは、次々代が、次期領主たるアンラカの血を引いて居る事だ。


 ただし将来、アンラカの同母腹で十歳年下の弟に領主を継がせようとする勢力が出現し、それに対抗するには、アンラカの子の実父は、士族より格上の他家の華族の方が良い。

 もちろん、これも、新夫に――第一夫君に教える義理は無い。


「既に第二夫君の候補は決まっております。貴方が、この夫婦共用寝室に来ない日が一ヶ月つづいたら、その候補を婿入りさせる予定です」

「自分の領の士族から婿取りか? 次々代は苦労するだろうな。実父の位が低いばかりに」


 そうは言うものの、新夫の眉間に皺が出来る。


「士族出身の第二夫君にも、俺と同じような事を、しでかすのか?」

『注入器』を使う事だろう。

「恋人が、いらっしゃらない方ですし。普通は、王家の次に大きい領の次々代領主の実父に成れる機会を、逃すかしら?」


 そう言うと、新夫は言い返して来なかった。


「王家の思惑を見破って居ても見破って居なくても、王家の事も、わたくしの事も悪く言えませんから、貴方が『単なる種なし』と噂されるでしょうね」


 新夫の眉が跳ね上がる。


「わたくしが第二夫君を婿入りさせたら、非協力的な貴方は御払い箱。でも実は王家肝入りの縁談なので、離縁できませんから、貴方は誰とも正式に結婚できませんわ。恋人との間に子が出来たとしても、日陰の出生ですわ」

「覚悟の上だ」


 その覚悟くらいは有るだろう。


(でも)

「貴方が命令された事を守るなら、御方は、おそらく多少は貴方に感謝するでしょう」


 あえて、新夫に密命を降した人物の名をボカす。


「ですが、その部下たちは、貴方の同僚達は、どう思うでしょうね? 華々しく敵国の将を討ち取った訳でも無く、長きに渡って治世に尽力した訳でも無く。ただ一ヶ月少々、妻を抱かなかっただけの事を、功績と思うかしら?」


 新夫は無言。


「貴方は男性で【空間】属性ですから、寿命は、あと四十年といったところかしら。わたくしは女性の上【時間】属性なものですから、あと六十五年は生きるでしょう」


 暗殺や病死や事故死が無ければ。


「それが?」

「御方は、わたくしより長生きしますかしら? 御方の後を継いだ方は、御方と同じくらい、残り人生四十年を孤独に生きる貴方に、感謝し続けてくださるかしら?」

「!?」


 当事者である御方――王でさえ、四十年も新夫に感謝するとは思えない。次代と成れば、その意識は更に薄く成るだろう。そもそも王の寿命は、あと二十年も無いだろう。


「――君なら感謝すると?」


 もう新夫の心は揺らいでいる。

 まあ、それも当然と言える。


 非公式な命令なので、やり遂げても誰かに誇れる事では無い。

 公的に何か功を挙げた訳では無いので、表に出来る金銭などを受け取る事も出来ないだろう。せいぜい実家に多少の無形の恩恵が有る程度だろう。


 内心ニヤリと笑いたかったが、表情には出さない。


「感謝するに決まってますわ。貴方との間に生まれた子や孫や曾孫が、将来、目の前に実在しているのでしたら」

「だが」

「正直に報告されたら、よろしいのでは? 『夫婦共用寝室に行けば、【氣】属性の侍女に押さえつけられる。しかし一ヶ月に一度も行かなければ、アンラカはサイザイ領の士族から第二夫君を婿入りさせる』、と。もちろん、貴方が夫婦共用寝室に、男性であれ女性であれ【氣】属性で無くとも、従者を入室させる事は禁じますわ」

「一ケ月に一度、来れば良いのか?」

(墜ちた!)

「ええ、だいだい」


 妊娠しやすい周期が有ると、ヤイレカは言っていた。その時期のみ、協力してもらえれば良い。


「『注入器』を使いますけどね」


 項垂れる新夫。


「生まれた子の父親かどうかを、貴方が選んだ【氣】属性の専門家に鑑定していただいても結構でしてよ? 安心なさって?」


 アンラカに恋人は居ないが、説得できそうな新夫を敵に回す、托卵という愚を犯す気は無い。


「子供を二人、生むまでは、第二夫君も恋人も作らない事も誓いますわよ?」

「――取引のように話すな、君は」

「貴方が、あんな事を言わなければ、わたくしだって素直に初夜の妻を演じる予定でしたわ」

「だが君は、事前に【氣】属性の侍女を夫婦共用寝室に潜ませていた」

「保険でしてよ。【魂】属性で無くとも、暴力と恐怖で妻を支配する夫も居ると聞きますから。あんな事を貴方が言わなければ、そのうち彼女もヒッソリ部屋から出て行く予定でしたわ」

「そうか」

「わたくしとの取引、朝まで考えてくださいまし」


 そう言い残し、アンラカはヤイレカを引き連れて、共用廊下に出る事なく、隣の妻専用寝室に引き上げた。






 扉を閉めて鍵を掛けると。


「姉さん。姉さんにばかり苦労を掛けて、ごめんなさい」


 普通の華族の次子は、次期領主の万が一の場合の『予備』として、同程度の教育を受けるもの。

 しかしヤイレカは、年齢が一桁の頃から『予備』として生きない道を選んだ事を、申し訳なく思って居るようだった。


「良いのよ。もし、私と貴女の生まれた順が逆で生まれたとしても、私は次期領主を目指し、その為なら、こうして政略結婚する事も厭わなかったと思うわ」


 なにせ妹のヤイレカは、両手の指数以上の前で話す事すら恐れる内気ぶり。

 領主一族――華族として生まれながら、政略結婚を拒絶する実妹は、異端とすら言える。


 一方で、『注入器』のような道具だけで終わらない発想力は百年に一人の天才だろうと、既に両親も祖父母も認めるほど。


『したく無い』と本人が明言し実際に向かない領主の『予備』としてより、本人が望む発明家として生きる方が、ずっとサイザイ領とヤイレカの為に成ると両親と祖父母を説得したのは、アンラカであった。

 

「貴女は、その知識と発想で、私を助けてくれれば良いわ」

「勿論よ。でも、その為の予算は、よろしく!」


 ・・・・ちゃっかりしている。

 だけど、そのちゃっかりブリを相手に披露できるのは、片手の指数も居ない本当に限られた人だけなのを、アンラカは知って居る。

 そして、ヤイレカが最も気安いのは、両親よりもアンラカなのも。


「でも私が十八歳になっても子が一人も出来なかったら、ヤイレカにも政略結婚してもらうしか無いわ。ヤイレカの相手が、私の新夫と同じ事を言うようなら、今夜のような手を使ってでも、子を作ってちょうだい」

「ひぃぃぃ! 姉さん、神さま、子供を、お願い!」


 次期領主位継承権は、一位は長子のアンラカ。

 二位以降は、成人すれば同母で二歳年下の次子のヤイレカ。三位は同母で二番目の十歳年下の弟、四位は別腹の一番目の弟、五位は別腹の三番目の弟。


 しかし、アンラカに子が出来ずヤイレカまで婚姻せず子が生まれなかった場合、二番目の弟か弟の子が次々代と成る。


 二番目の同母の弟に子が出来れば良いが、まだ現在四歳で、幼児の死亡率が高い現状、成人年齢の十四歳まで生き残れるかすら分からない状態である。


 そして、二番目の同母の弟が成人した後もヤイレカの権力を厭う性質と発想の才能を正しく理解できないので有れば、次期領主の座を弟に譲るつもりは無い。


「壁を背に、下半身が頭より上に成る体勢で、注入は行って。最初は痛いけど、頑張って」

「分かったわ」


 




 こうしてアンラカは、華族を父とする子と、敵に回るのを辞めた夫を手に入れた。

 新夫が連れて来た【氣】属性の鑑定人の実父鑑定結果は、もちろん――。


 2026年9月22日の日間ハイファンタジー〔ファンタジー〕 87位! 23日に79位!

 ブックマークやポイント、ありがとうございます!


『注入器』は、現代の不妊治療で使う、シリンジに近い物です。

 世界観的にプラスチックは無いですが、精巧な箪笥(引き出しをしまうと空気圧で別の引き出しが押し出されるようなの)を作れる木工技術者が居れば、木工細工で、この注入器を作成する事は可能かなと。


 犯罪者相手とは言え他人で試して居るので『悪役令嬢?』タグを、体外受精では無いので『白い結婚?』タグを、それぞれ付けてます。


 テンプレの逆なのは、

 女性は貴族家当主を継げない(あるいは継ぐのが難しい)→領主を継げる。

 身体を重ねないと子供が出来ない→専門道具が有れば出来る。

 生まれた子の実父が鑑定できない→鑑定できる。

(当主が男性で)子供が出来ないと第二夫人とも婚姻する→(当主が女性で)子供が出来ないと第二夫君とも婚姻する。

 あたりでしょうか。


 既に似たような話が有りましたら、すいません。

 

 イメージ的には、豊臣秀吉が徳川家康ほど長生きし同時期に死んだ、IF豊臣政権時代でしょうか?

 王家→豊臣家、サイザイ領→徳川家みたいな。

 王家→華族(各領主一族)→士族→平民といった階級世界でも有ります。


【時間】―緑眼(長女のアンラカ)

【魂】――青眼

【重力】―紫眼 今回、明記なし

【熱】――短編なのでカットしましたが。

     【熱】大陸なので、額に有る【額晶】が赤色で、この大陸で生まれた者は誰もが6歳前後から【熱】属性の能力が使えます。

     他大陸なら赤眼です。

【空間】―橙眼(新夫)

【氣】――黄眼(次女のヤイレカ)


 その後のサイザイ領で別の主人公の話を、書いてたりします。・・・・一般的な好みからは外れる話になりそうですが。

 完結したら投稿したいです。


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