前編
初めての投稿です。
テンプレの逆を書いてみました。
「貴女を愛する事は無い」
場所は、王都に在るサイザイ領屋敷の本館で、領主の夫婦共用寝室の次に豪華な夫婦共用寝室。
天蓋付きの広い寝台には、昼に結婚式を挙げた、十四歳に成ったばかりの新妻が腰かけて居た。
細身で小柄で、年齢より下に見える。
早めの結婚が推奨される上流階級とはいえ、成人年齢である十四歳での結婚は、そうそう無い。通常は女性でも十代後半である。
夫婦共同の寝室に入って来たのは、二十歳の新夫。
その新夫が、扉を閉めて直ぐ、そう、のたまったのだった。
そもそも、この婚姻は、新妻側のサイザイ領家と王家の攻防の末に決まった。
王家の民族統一に対し、最大にして最後の強敵が、サイザイ家であった。臣従し数十年が経った今も、王家を除けば王国内最大の勢力をサイザイ領家は誇る。
当時の領主には、二人の娘と三人の息子が居た。
長女アンラカの直ぐ下の妹は相当な病弱という事で、ほとんど表に出ない。一番目と三番目の弟は第二夫人の血筋。二番目の弟は同母ながら、十歳も離れて居る。
そしてアンラカには領主を務める器量と、やる気が有る。女性領主を認めない領も少なく無いが、サイザイ領では女性にも領主継承権は有る。
よってアンラカが次期領主なのがサイザイ領の既定路線であった。
十歳を超えたアンラカに相応しい婚姻相手を、他の領家から探した。
婿にはサイザイ領での権限は限定し、入り婿が住む場所もサイザイ領では無く王都にというのは、領主や領主候補への嫁入りなら、特に問題の無かった条件である。
そもそも『六歳以上の次期領主を王都に置く』というのは王家の命令なので、その子の親に成るであろう入り婿を王都に置くのも、将来の子の為とも言える。
別にアンラカは不細工では無いし、才媛の呼び声も高い。弱気や優柔不断とは無縁な性格だが、次期領主なら、むしろ相応しい。
なによりサイザイ領は、今も王家に次ぐ勢力を誇り。しかも数年ほど前から見た事の無い特産品などが開発され、波に乗って居る領である。
しかし、何故か婿取りに難航した。
遠回しに御断りされたり、候補に推挙される男性が二十も年上などサイザイ領から断らざるを得ない相手だったり。
やがて、王家から圧力が掛かって居る事が判明した。
サイザイ領主家と他の有力領が婚姻によって結び付いて、王家を脅かす勢力に成らないように、だろう。
判明したものの、どうにも出来なかった。
断わられたり断わったりしている内に、段々と交渉する他の領主一族――華族の格が下がって行き。
数年に渡る折衝の結果、王家に特に忠実ながらも小さな領地の華族の三男が、サイザイ領の長女に婿入りする事に成った。
王国内で最大領の次期領主の伴侶としては、格落ち感が否めない。
サイザイ領の負けであった。
次期女性領主であるアンラカに子が出来なければ、彼女の弟妹の将来の子が、次々代のサイザイ領主に成るだろう。どの弟妹の子が成るかで内輪揉めする。それは、王家としては望ましい展開。
その王家が誘導し選ばれた新夫の目的は、つまりアンラカとの間に子を作らない事。
それが、冒頭の新夫の台詞の裏とアンラカは悟った。
「他に愛する女性が居る。彼女に申し訳ない」
というのは、おためごかしだろう。
そもそも、新夫には愛人が二人、居る事は調査で分かって居る。さてはて、どちらを想定して言って居るのだか。
「わたくしとの間に子供を二人ほど作ってさえくだされば、その愛する女性と王都で暮らしていただいて結構ですわよ?」
新妻ことアンラカは、そう提案した。
政略結婚の相手であり、そもそも愛情は無い。先ほどの発現で、手を取り合って夫婦を、やって行けそうに無い相手である事も確定。もはや子種以外に価値を感じない。
「君に女性としての魅力を感じない。特に、その貧弱な胸には」
劣等感を感じる箇所を指摘され、アンラカの眉間に青筋が立つ。
「わたくしも、その顔立ちには魅力を感じませんわ」
新夫も不機嫌に顔を、しかめる。
しかし、ニヤリと笑う。
「では魅力を感じない者同士、今夜も何も、しないと言う事で」
「そうは参りませんわ。わたくしには子供を作る義務が有るのですから」
「俺には無いんでね」
(いや、有るでしょ!)
いずれ第二夫君をアンラカに婿入りさせるにしろ、また王家が妨害しまくるに決まって居る。
十代の内に複数の子を生んでおきたいアンラカとしては、生めない期間が有るのは困る。
ところで、この大陸では誰しもが属性を持つ。
属性能力は、能動的なものと、勝手に自身や周囲に影響を与える受動的なものに分かれる。
例えば【氣】属性持ちは、能動的なものだと、一時的に身体能力を上げる事などが出来る。
受動的なものとしては、そもそも基本的な身体能力が高く、長身で筋肉質に育つ。【氣】属性な女性は、【氣】属性の男性に勝るとも劣らない身体能力を誇る。
アンラカは緑眼の【時間】属性持ちで、【氣】属性は保有して居ない。よって、新夫を押さえ付けて閨を無理強いする事は出来ない。
また、【魂】属性でも無いので、禁じ手だが新夫を【魅了】でソノ気にさせる事も出来ない。
アンラカは、ゆっくり瞬きして、新夫――ではなく、その後ろに、合図を送った。
とたん、
「うおっ!?」
新夫は背後から羽交い絞めされる。
いつの間にか人が忍び寄って居る事に、全く気付かなかったようだ。
両腕を両脇に回され両手で両頬を固定された新夫は、首を動かす事も出来ない。
奇襲者の方が背が低いのに同身長に成るくらいに捕まって居るので、必然的に新夫の膝が曲げられて居る。
「女!? 【氣】持ちか!」
厚い胸皮鎧を着こんで居ても、感触や体臭その他で、さすがに襲撃者が女性とバレたようだ。
成人男性な新夫を両椀で抑え込める女性は、【氣】持ちのみ。
「アンラカ、おまえ、新婚初夜の寝室に他人を入れてやがったのか!?」
実は新夫を拘束した女性――少女は、アンラカの十二歳の実妹なヤイレカである。
よってヤイレカはアンラカの『他人』では無いのだが、それを新夫に伝える気はアンラカには無い。
彼女の身元も姿も、王家に筒抜けの新夫に知らせる方がマズい。
二歳下の同母のヤイレカが極端な病弱というのは嘘で、本人が人の注目を浴びたり人の上に立つ事を凄まじく恐れ、領主の継承権の放棄を言い出して居る事は、サイザイ領でも極々少数しか知らない。
アンラカはスルスルと、抵抗できない新夫の細袴を緩め、下着も降ろす。
「!? おい!?」
「こうかしら? あら」
ムスコを可愛がると、ムクムクと育った。精神状態によっては勃たないとも聞かされていたので、助かった。
「身体は正直です事」
性欲減退薬などを呑んだり、【魂】属性の誰かに【性欲減退】などを掛けてもらって居なかったようで、幸いだ。
「くっ」
逃げようにも、逃げられない新夫。
すると彼は、両足を床から離して後ろの女性に自身の全体重を掛けさせる。
しかし背後のヤイレカは平然と羽交い絞めを続行し、浮いた足で新夫に両足を攻撃されても、脛当てを付けて居るのも有り、倒れない。
むしろ両肩に全自重が掛かった新夫の方が音を上げ、抵抗は無駄に終わった。
この作戦を考えた当初、アンラカの結婚式で知り合ったばかりの男を羽交い絞めするのは、妹には辛いだろうと思った。
が、新夫と目を合わせないで済む為か、意外にも妹のヤイレカは挙動不審に陥らず、淡々と役目を、こなしてくれていた。




