3 記憶
アナスタシアは混乱している。
13歳のある朝、突然16歳の杏奈の記憶が頭の中に出現したのだ。
割り込んできた——という感じではない。
むしろ長く生きた分、杏奈がアナスタシアになってしまった‥‥という感覚だった。
全く別の世界で生きてきた2つの記憶があるにもかかわらず、感性や物事の捉え方は全然違和感がなく、ただ1人のわたしなのだ。
この体はアナスタシアのものだ。
杏奈の体は‥‥やっぱり死んでしまったんだろうか?
麻耶と英人は助かっただろうか? 助かってるといいな。
杏奈は死んじゃったけど‥‥。親友の麻耶だけでも生き延びててほしい‥‥。
そう思ったら、また少し涙が出てきた。
それにしても‥‥と思う。
普通、転生というと転生先の体の持ち主が死んじゃってて、そこに転移してきた魂が入り込む——とか、前世の記憶を持ったまま赤ん坊からやり直す——とかだと思う。
いや、普通というか、杏奈の記憶するマンガや小説で描かれている転生は——だけど。
今のわたしのこの状態は‥‥
アナスタシアの魂を追い出して杏奈が乗っ取った、ということだろうか?
それとも、杏奈の記憶だけがアナスタシアに転送された、ということなんだろうか?
2人分の記憶を持つ「わたし」はいったい‥‥誰?
‥‥‥‥‥‥‥‥
あ、いかん‥‥。
眠くなってきた。
頭がついていかん。
ま、どっちでもいいか。わたしはわたしだ。←(大雑把なひと)
そして、杏奈はひとつ失望したことがある。
アナスタシアの記憶をたどる限り、この世界には魔法なんてなさそうだった。
少なくとも一般の人の目に触れるところには魔法はなかった。王国の騎士団にも魔法を使えるようなイケメン騎士団長とかもいないようだった。
魔法使いはいたが、彼らがやって見せる「魔法」とは、21世紀の日本人の杏奈から見ればありきたりな使い古された手品だった。
そういう技術を見せて頭の悪い三流貴族などに取り入り、食い扶持にありつこうというさもしい根性の輩のようだった。
エンタメとしても質が悪すぎる。
王宮には癒やしの魔法を使う白魔法師がいるという話は聞いたことがあったが、杏奈の記憶を持った今ならわかる。
単なる薬草の調剤ができる医療技術者だ。
‥‥‥‥。
夢もファンタジーもあったもんじゃない。
転生って、こんなことだったのか? (´;ω;`)
ただの中世貴族社会で、何かというとあっちこっちで小競り合いのような戦争をやっている。
清潔な水洗トイレなんかないし、ネトスリもドラクユもない。要するに、文明未発達な世界でしかない。
21世紀の日本って‥‥ここの貴族の生活に比べたら、夢のような暮らしだったんだ‥‥。
しかし‥‥
とアナスタシアは考える。
ある意味これってすごいアドバンテージなんじゃないか?
杏奈は21世紀の日本人の知識を持っているのだ。
魔法使いの持っている「魔法」だって、いやそれ以上をやって見せることができる。(何の役に立つのか知らんが)
この世界にはまだない知識や技術を持っている。
それは‥‥!
チート能力ではないか!
杏奈にしてみれば、全然トクした気はしないけど‥‥。




