6 ベックの事情
カプ・ストライプ。
現在は多数の欠員によりライトニング隊に統合されたストライプ隊初代隊長の孫娘である。
ストライプ家はスノウのアルレビオ家や、タマのスタイン家と同様の新興の軍閥家である。
しかし知名度が示すようにアルレビオ家やスタイン家と異なり、二代目にこれと言った功績は無く、軍への影響力が著しく低下していることから斜陽と揶揄されていた。
カプはそんなストライプ家の二代目の唯一子。
雄子でなかったことに失望され、しかし取り敢えず受けさせられた教育で才を見せたことで父親どころか祖父にまで期待をかけられた。
雌であることのハンデ、祖父らの期待。
雌子らしい幼少時代を過ごすこと無く入学した士官学校で一般組に劣った自身。
それらの鬱屈とした感情が自身を下した一般組候補生に向くのは、ある意味で必然と言えるだろう。
ベックとしても、それなりの努力をしての成績で絡まれ面白くない。
これが一般の専門学校等であれば対立となったのであろうが、士官学校でそれはタブーであった。
そのため互いに抱く負の感情は、カリキュラムに関する努力へと昇華された。
いつしか二人は好敵手となり…。
(「オチは規律違反で仲良く退学…っとにゃ。」)
(『規律のおかげでいがみ合う関係にならずに済んだ
けど、良い関係を築いたら規律で追い出されるって
複雑な気持ちになるわね。』)
シアの言うように、途中まではスポ魂ものの物語のような展開ではあった。
そして肝心の「何故ベックが軍刑務所に居るか?」という質問の答えに入る。
「マズル戦で中間の前線援護部隊に配置されたんだけ
どよ…。」
要塞「ゲート」攻略戦と並んで300年戦争二大決戦と言われる要塞「マズル」攻略戦。
たった一機の大型戦闘ポッドに艦隊が焼き払われた、戦争の在り方の変化を決定的なものとした一戦。
「もしかしてアルファ連隊に?」
あの戦いでは作戦の性質上、腕のたつ者が前線寄りに配置されていた。
最下級スタートで前線援護部隊配置は、ベックのような性格からすれば自慢のタネだ。
しかしそのことを話すベックの苦々しい表情から、壊滅したアルファ連隊の生き残りであるとあたりをつけた。
「ああ…、こいつもな。」
ベックはわたしがアルファ連隊の話を出したことに意外そうな顔をした後、空気となって所存無さげにしていた連れの雄を示した。
「そういうことにゃ?
…わたしはアルファ連隊のおかげであの作戦は成功
したと思っているにゃ。」
突然ではあるがキャトラス軍には“厄ネタ”というものがあり、ここ数年で幾つか増えていた。
・ドギヘルス侵攻のきっかけとなった移動要塞攻略戦
の「スタイン小将」に関するアレコレ。
・要塞「マズル」攻略戦の「巨大ポッド」。
・要塞「ゲート」への侵攻ルート掃討のための「マル
コシアス隊単艦突破命令」。
・ドギヘルス反王派への「新兵器供与」。
・要塞「ゲート」攻略戦直後のアレコレ。
と、戦争中であった事や軍関係者からしてみれば「仕方の無いこと」と思えなくもないことも含まれていたりする。
しかし、後世に伝えるにあたって「道徳的な観点から忌避するべき事象」とされている。
アルファ連隊の話題は「巨大ポッド」に関連するため、肯定的な話は軍下部や一般でもあまり無いのだ。
「英雄がそう思うなら死んだ奴らも浮かばれるだろう
よ。」
わたしの言葉に元アルファ連隊の二人組は表情を穏やかにした。
「いけね、話が逸れたな…。
…まぁ、その時に俺らの艦の指令がな…。」
アルファ連隊が壊滅して各々が撤退行動をとる混乱の最中、ベックの所属する隊の指令官は頑なに巨大ポッドの撃破を命令した。
当然ベックら戦闘機部隊はその命令を拒否。
帰還後「命令違反」の疑いで軍法会議にかけられ投獄された…らしい。
「…ん、おかしくないかにゃ?」
確かに基本的には命令に従わなければならないが、ベックの話すような場合「指令内容不適切」となるのが普通だ。
そうでなければ指揮官が気に入らない者を、命令で間接的に殺害するということが許されてしまう。
「ああ…。
だがその指揮官がストライプ家と同派閥の家出身だ
ったらしくてな…。」
「あっ…。
…う~ん、それは何とも…。」
つまりその指揮官がベックの行動をストライプ家にチクり、ベックに再興計画を潰されたス
トライプ家が報復的に、ベックを有罪はする工作を行ったということだ。
(「身から出た錆ってやつにゃ。」)
わたしが反応に窮するのはそういうことだ。
(『でも自分たちの孫や娘の旦那さんを犯罪者に仕立
てるって…。』)
……ストライプ家が衰退するのは当然のことだったのかも知れない。
…………………。
…………。
…。
それからベックらといくらか雑談を交わしていた時、
「ピコ・フローレンス。」
いつの間にか寄って来ていた、ガタイのいい初老に差し掛かる大雄に名前を呼ばれた。
「「っ!」」
「何にゃ?」
ベックらの反応に疑問を感じながらも、大雄に用件を尋ねる。
「今日の夕食後、運動場で手合わせを求める。」
ガタッ!
大雄がそう言い切った途端、わたしは思わず飛び退いていた。
(マリーダ、コレはっ!?)
叩き付けられた重圧に、マリーダに確認をとる。
(ピコ、ビンゴにゃ。)
とりあたまを伸した際に感じた神の魔力波。
その活動状態にある神と契約しているかは定かではないが、神を宿す者と死合うことになりそうである。
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