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7  表ボスは何処へ?

 

ザワッ…ザワザワ…


 先ほどまで午後の穏やかな空気の流れていた食堂は、わたしが激しい動作をしたことでにわかに騒がしくなった。


「…わたしにここ(食堂)を利用するなって言ってるにゃ?」


 あまりの重圧に身構えたわたしだが、遠巻きに申し出を断る。


「禁じられているのは私闘、看守立ち合いの下であれ

 ば手合わせは認められている。」


 つまり乱闘は禁止だが、管理されたそれはスポーツ的な扱いになるということらしい。

 わたしはてっきり暴力行為全般が禁止されていると思っていたが、よく考えてみればここは軍刑務所である。

 出所後に軍に復帰することを考えれば、組稽古が認められていることは当然と言える。


チラッ


「……。(コクリ)」


 食堂の隅で監視をしている“真面目な”看守に視線を送ると、沈黙と首肯が返ってきた。


(「どうやら避けられんようにゃ。」)


(『わぁ…。

 マルのその顔久々に見たかも。』)


 言葉とは裏腹に非常に好戦的な雰囲気を醸し出すうちの戦闘狂(マリーダ)に、基本肯定のうちの天然天使( シ ア )も引き気味である。


「…どうなっても知らんにゃ?」


 とりあたまとの件を見ていたならば、ピコが何らかの異常な力を発揮していたのは一目瞭然だろう。

 いくら鍛え上げた肉体であろうとも大怪我を負うリスクが非常に高い。

 ましてや初老の身体では尚更だ。


「…ふん。

 何処で習得したかは知らんが、我が家に伝わる“真

 の”闘気術を見せてやろう。」


 わたしの挑発とも取れる言葉を鼻で笑い返された言葉から、この大雄がその身に宿す神と契約状態にないことが判明した。


「ピコ・フローレンス、ジャクソン・フォレストとの

 試合に同意するか?」


 話がついたと判断したのか、看守が最終確認のようなことを尋ねてきた。


「多少やり過ぎても見逃してにゃ。」


 互いの同意があると言っても、何度も相手を病院送りにしていては印象は良くない。

 それに大雄の言う“我が家”は、まさかのフォレスト家だ。

 ここ(軍刑務所)にいる以上は何かをやらかしていることは間違いないが、出所後に影響があっては堪ったものではない。


(『ピコもマリーダのこと言えないよぉ…。』)


(「とんだ“ネコ被り”にゃ♪」)


 中途半端にその都度凌ぐくらいならば、二度と火の粉が降り掛からないようにしたいのは当然のことではないか?


「ふむ…、同意を確認した。

 本日の19:00、ピコ・フローレンスとジャクソ

 ン・フォレストの格闘試合を行う。」


「「「「「「わっ!!」」」」」


 看守の宣言に、固唾を飲んで状況を見ていた服役者達が沸き立つ。

 正式な格闘試合の開催に、服役者達は既に賭けを開始するなど大いに楽しむつもりのようだ。


「ふっ…。

 年甲斐無くも楽しみにして待っている。」


 そう言って去って行くジャクソンの表情は一見冷静さを保っているように見えたが、瞳の奥には激しく燃える闘志を湛えていた。


 …………………。

 …………。

 …。


ざわざわ…


 ジャクソンが食堂から去ってしばらく。

 食堂内は混雑時並みのざわめきに落ち着いた。


「しっかしまぁ、裏ボスに目をつけられるなんて…。

 ついてないな?」


 そして、ジャクソンが話し掛けてきてからこれまで黙りこくっていたベックが口を開いた。


「ついてない?」


 ベックに聞き返すと、ベックと連れが心底気の毒そうにこちらを見ていた。


「ジャクソン・フォレストが何でここ(軍刑務所)にいるか知って

 いるか?」


 言われてみれば疑問が浮かぶ。

 フォレスト家といえば、キングハート家やウィング家と同様の古き血脈の軍門である。

 事実この三家の当主は、何れもキャトラス軍において八席しかない中将位に就いている。

 それぞれが軍内で異なる思想の派閥を率いて「三大派閥」とされているが、他二家に比べフォレスト家の率いる派閥は一歩及ばないという認識も定着している。

 話が逸れたが、要は多少の瑕疵であればどうにかなる要素があるにも関わらず服役しているのは少々不自然なのだ。


ふるふる…


 多少の瑕疵であればどうにかなるということの裏を反せば、どうにもならないことを仕出かしているということになる。

 しかしそんな事件など聞いたことは無く、当然知る由もないため首を横に振る。


「ま、だろうな。

 で無きゃいくら英雄でも無謀ってモンだ。」


 そしてベックは(何故か)得意げに説明する。


「まずここ(軍刑務所)のボスはトリアンダでも、ましてや看守ら

 でもない。」


 ボス云々やっているのは服役者達であり、看守がボスでないことは言われるまでもない。

 

(トリアンダって誰にゃ?)


(『さぁ…、でもどこかで聞いたような?』)


(「………。

 はぁ…、ピコが「とりあたま」って認識している奴

 にゃ…。」)


 トリアンダと聞いて疑問符を浮かべるわたしたち(ピコとシア)に、呆れたような間を空けてマリーダが教えてくれた。


(ああっ、そんな名前だったにゃ!)


(『弱い奴って一々覚えてられないのよ…。

 …なんちて?』)


 …何と言うか、はい。

 真面目な話、前の前のボスを病院送りにしたらしいトリアンダらだが、それも違うということだ。


「ジャクソンは前ボスやトリアンダ達、看守らすら気

 を使う不可侵(アンタッチャブル)…。」


 そのつもりは更々無いが、さらりとわたしがトリアンダを伸したことが無効(ノーカン)になっている。


(「んなことどうでもいいにゃ!」)


 余計なことをしているわたしに気づかないベックは続ける。


「受けた罰は永久収監。

 実力も生半可なものじゃないらしいってことからここ(軍刑務所)の“真のボス”て意味での「裏ボス」って呼ばれてる。」


「!」


 一般の刑務所と異なり、軍刑務所に終身刑は無い。

 しかし特例としてまでの措置に驚く。


「奴の罪は「上官殺し」…。

 しかも単なる上官じゃ無ぇ。

 殺したのは奴の親父。」


 そしてようやくベックは締め括る。


「上官に父親…。

 自分の格上を赦さない所業から奴につけられた渾名

 は「狂王」ってな。」


 


 



 


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