4 周囲の反応
RPG一周目のボスをサックリとクリアしました的な?
刑務所生活8日目の朝、起床したわたしは利用二度目の食堂に向かう。
(『え、計算がおかしくない?』)
(「…またこのノリにゃ?」)
まるで自分は関係ないかのように振る舞うマリーダ。
しかし一週間前に、みんなではっちゃけた過去は変えられない。
ただでさえ私闘厳禁という規則を破っている上に、あれだけの騒ぎに発展してお咎め無しとはならなかった。
つまりわたしは、この騒動の罰として一週間の謹慎を受けていたのだ。
もう片方の当事者のとりあたまと取り巻きA・B、暴れた一部の服役者は刑期の延長処分となった。
ここまで処分に差があるのは異例であることは誰でも気付くことだろう。
というのもわたし自身は、事が起こる前に散々止めようとしている様子が食堂と運動場の監視カメラに記録されていたこと。
本来静止するべき看守が職務を怠ったこと等が考慮され、過剰防衛としての扱いとなったのだ。
尚、職務を怠った看守には半年間の減俸と配置換えの処分が下っていると、わたしを牢に入れた看守が伝えに来た。
ざわっ…!
テンプレイベントを振り返りながら食堂に入ると、一瞬一層にざわめいた後静まりかえる。
(『あ~…、これは…。』)
(やり過ぎたにゃ?)
静まりかえった食堂で自身に向けられる視線。
コツ…
ビクゥッ!
一歩踏み出すだけで食堂にいた服役者達は弾かれたように動き視線を逸らした。
……………。
………。
…。
「「「「「……………。」」」」」
静かだ。
恐れられることをした自覚はあるが、わたしが食堂に入ってからほぼ食べきるまでの約15分間一切の会話無しは異常ではないか?
(「また絡まれるよりは面倒がなくて良かったじゃな
いかにゃ?」)
確かに初日からああだったから若干警戒はしていたが…。
(『平和なのは良いことなのよ!』)
恐怖で押さえ付けた平和は平和と言えるのだろうか?
(『まず争わないということが大事なのよ!』)
確かに。
言われて見ればわたしがここにいるのも“そう”したからであったか。
(「おま言うってやつにゃ。」)
物事には段階というものがあるのだよ、マリーダ君。(すっとぼけ)
………………………。
……………。
…。
優雅(※尚周囲の反応は考慮しないものとする)な朝食の後は刑務の時間である。
本日の刑務作業は、軍の射撃訓練で使用する銃弾の検品作業である。
訓練用の銃弾には、使用済みの薬莢や一部弾丸が再利用されている。
そのため暴発等の事故防止に、銃弾の錆びや歪み、ひび割れ等の不備がないかを一発一発チェックするのだ。
これが中々の苦行だと、作業内容を通達された際の他の服役者達の反応から察した。
チャリ…
作業机に山と積まれた銃弾の中から一発をつまみ上げ、まず分かり易い錆びやひび割れの確認。
「………。」
錆びやひび割れが見受けられなければスタンドライトで照らし、光の反射から歪みがないかを確認。
カチャ
問題がなければ検品済みの弾薬箱に向きを揃えて入れる。
(「……地味な絵面にゃ。」)
(『あっマル、もっと撫でて?』)
(「仰せのままににゃ、お姫様。」)
あまりの単調さに、マリーダとシアの間借りコンビはいちゃついているようだ。
(……………。)
延々と同じ作業を繰り返しているところに、濃縮シロップのような光景を強制的に見せつけられたわたしの精神は“圧倒的虚無”となっていた。
そうでもしなければ羨望で憤死することは間違い無しだっただろう。
『ジリリリリッ!』
しかしわたしは虚無を耐えきった。
鳴り響くアナログ目覚ましのような音は、今に限り救いとなった。
少し騒がしい福音により、機械化の呪いを受けていたわたしは無事に生物へと戻ったのだ。
……と、解放感からふざけるのはここまでにして話を戻す。
最初にこの音を聞いた時には異常事態発生かと慌てたものだが、一週間が経った今となっては何てこともなく席を立ち、足が自然と食堂に向かう。
そう、今の音は昼食休憩を知らせる、作業中断の時報なのだ。
そして到着した食堂前。
朝の光景の繰り返しを予想して食堂に足を踏み入れた。
ざわりっ……、…ざわ…ざわ…
一瞬沸くのは同様に、わたしがかまわずに昼食を取りに向かうと、少し観察するような間の後に僅かな喧騒が戻ってくる。
流石は軍関係者というべきか、たった一回である程度慣れてしまったようだ。
(「図太い奴らにゃ。」)
まあそう言わないで欲しい。
そもそも気弱では軍に入ろうとすら思わないだろう。
つまり彼らは元々ある程度の胆力はあるのだ。
(『ドッキリ大成功?』)
こちらとしてはそんなつもりは皆無だったが、不意を突かれたらああいう反応も致し方なしと言える(筈)。
(「まあ、腑抜けているとは思うけどにゃ。」)
戦場であれば兎も角、常に気を張ってはいられないことをマリーダには理解して欲しい。
(『そうして居られる世の中ってことね。』)
シアの言う通りで、前線の経験があるほど反動で気が抜けるというのも無くはないだろう。
(「分かってるにゃ。
結局コイツらは無法者ごっこをしているだけってこ
とにゃ。」)
わたしとシアに反論され、拗ねたようにマリーダが言ったことは言い得て妙であった。
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