3 引いても惹かれ
強制イベント
日もすっかり落ち、ライトに煌々と照らされる運動場。
普段であれば消灯までの自由時間にスポーツをする服役者がいるグランドの中央。
そこに相対して立つのはピコと、とりあたまとその取り巻きA・B。
そして半径10メートル程の距離を空けて円陣を形成するギャラリー。
普段と異なる突発的で刺激的な娯楽に、雰囲気は異様に高ぶっている。
………………………。
……………。
…。
「さて、俺も鬼畜じゃねぇ。
地面に頭擦り付けて「ペットにして下さい!」って
言えば、ボコるのは勘弁してやる。」
やらしい笑みを顔に浮かべたとりあたまが、知能指数の低いことを言う。
こういった輩はどうしてこうも同じようなことしか言わないのか。
「落ち着けにゃ。
痛い思いをする必要はないと思わないかにゃ?」
言葉としては何とか宥めようとしているように聞こえるだろう。
(「この場合痛い思いをするのは向こうさんにゃ。」)
(『つまり立派な挑発ね!』)
解説はマリーダ、実況はシアでお送りします。
「「「「Booo~!」」」」
消極的な姿勢にギャラリーからブーイングが起こる。
「…残念だが他の奴らもお前にお冠らしい。」
それは違う。
ギャラリーは滅多に無い娯楽が中止になることが嫌なだけだろう。
(余所事だと思って…。)
ここに来ざるを得なかった時点で良心に期待することはしていないが、それでも尚気に入らない。
(「そもそも向こうが複数とかダサいにゃ。」)
(『しかもピコは小さい雌なのよ!』)
マリーダには同意、シアには…小さいじゃなく小柄と言って欲しい。
(『あ、ごめんなさい。
小柄ね、小柄。』)
まあ、シアが言いたいことは分かる。
立ち合いの絵面としては最低にも程があるだろう。
(「だからこそ、この状況をひっくり返せば…」)
((「『面白い!』」))
わたし、マリーダ、そして意外なことにシアの意見が重なる。
(『わたしだって怒ります!』)
ぷんすこするシアを、マリーダが微笑ましげに眺めていることは、想像に易い。
(『ねぇ何で!
マリーダも笑わないで!』)
などと、結局内側では和気藹々としているが、不愉快なのもまた事実。
素知らぬ振りをする看守、当たり前のように不公平を突き付けるゴロツキ、そしてそのゴロツキを囃し立てる無責任な野次馬共。
(マリーダ。)
(「はいにゃ。」)
夜の闇とライトの光を目眩ましとして、バランスの良い白と黒の毛皮が黒味を強くする。
「いい加減ウザくなってきたにゃ。
…ほら、かかって来いにゃ。」
特に構えることなく、とりあたまに先手を促す。
「っ!?
…へっ、後悔しなぁっ!」
わたしが纏う雰囲気の変化に気付いた素振りがあったものの、結局とりあたまは大声で威嚇しながら正面から殴りかかってきた。
(「迷いが無いにゃ。」)
(『これは中々恐いものがあるわ。』)
手慣れている。
下手に正面から仕掛けるのは馬鹿だが、とりあたまはどう対象されても二撃目に繋がる体捌きをしている。
「半殺し」の異名は伊達では無いということだ。
だが、それだけだ。
(「未熟、長生きは出来んにゃ。」)
(『選択を間違えたわね。』)
パシッ…
「「「「「なぁっ!?」」」」」
恵まれた体格から放たれた拳。
並みの雄でもまともに受ければ吹き飛ぶ一撃を、平均より小柄な雌が、片手で微動だにせず止めた衝撃はいかほどのものか?
(シア。)
(『ほいっと、「防護」』)
触れた拳から、シアの魔法がとりあたまに作用する。
とりあたまは未だに唖然としたままだ。
(「隙だらけにゃ。」)
(『カウンターだ~っ!』)
「随分軽い挨拶にゃ。
次はこっちの挨拶にゃ。」
「っ!?」
声をかけることでようやく動き出すとりあたま。
当然、防御は間に合わない。
ドッ…パアッンッ!
軽く小突いたようなモーションに釣り合わない打撃音。
ドオォォンッ…!
とりあたまは野次馬共の垣根を越え、刑務所を囲う塀へと激突。
『ビーッ!ビーッ!ビーッ!』
その衝撃により脱走防止警報が作動。
「おい、お前ら何をしている!?
全員動くな!」
すぐさま駆け付けた看守や刑務官が、非殺傷の電撃銃を服役者達に向け事態の収集を行う。
「両手を揃えて前に。」
わたしのところに来た看守の指示に従う。
カシャン
手首に硬く冷たい感触、手錠だ。
「事情を聞かせて貰う。
ついて来い。」
わたしに手錠をかけた看守は、口調の割には丁寧な扱いでわたしを聴取室へと先導する。
刑務所の建屋に入る前に運動場を振り返る。
「俺たちは見てただけだ!」
「そうだ、それを向けるのは横暴だ!」
「動くなと言ったぞ!」
パシュッ!
「あばばばばっ!」
カオスであった。
(「阿鼻叫喚ってやつにゃ。」)
(『ちょっとお仕置きってね!』)
わたしたちはその光景を見て溜飲を下げた。
「ピコ・フローレンス。」
看守に呼ばれ、看守に続いてドアをくぐる。
ブワッ…!
「っ!」
不意に叩き付けられた強烈なプレッシャー。
(「ほう…、これは。」)
(『何今の魔力波は!?』)
「…どうした?」
一瞬の硬直を目敏く見た看守が不審そうに尋ねる。
「何でもないにゃ。」
「…そうか。
なら行くぞ。」
再び看守に続いて歩き出す。
マリーダの反応とシアの言う魔力波。
ここから導き出される答えは一つ。
(今のプレッシャーは神が?)
(『ええ、活動状態にあるわ。』)
現在把握されている活動状態の神は三柱。
金獅子。(キングハート)
閃猫。(ランナー)
そしてマルコシアス。
ピコが未知の神とその寄り代となる者と接触する機会は、わりとすぐに訪れることになる。
(「さーて、愉しくなってきたにゃ。」)
マリーダとシア、二柱で一つ。
その名も、マルコシアス!
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