キャベ30
もしかしたらルミノール領は危機に晒されているのかも知れない。トーマの言葉に私はそう思わずにはいられませんでした。
解決したかに見えた、聖女様誘拐事件は根本的な事は何一つ解決していません。現状平和なルミノール領ではありますが王国の兵士が、いや王国自体がこの領地を良く思っていない事には変わりないのです。
お昼前に農園に着く事は出来ました。あれからほとんど変わりない農園は平和な様にも見えます。そんな中、騎士を引き連れた馬車が来たとなると目立ってしまうのは仕方ありません。
「騎士様……何かあったのでしょうか?」
「いや、たまたまこちらに来る用事があったんすよ。それでキャベ子さん達を乗せてきたというだけっすよ!」
冷静に考えたなら、怪しいトーマの言葉も最近マリスを連れてきたり、畑消失事故でアレクに呼び出されていたので、なんとなく納得された様におもいます。
「ここっすか……」
「トーマ? 今何かものすごーく失礼な事考えてない?」
「あ、いや……」
「私が少し暴れたら壊れそう」
「聖女様! 絶対暴れないでくださいね!」
マリス達も家と認識してくれているのか、馬車で固まった身体を伸ばして「ようやく着いたわ〜」と、旅行でもしてきた様にリラックスしています。
「俺たちもちょっと休んで行っていいすか?」
「いいけど、狭いよ?」
「そのあたりは気にならないっすよ」
トーマは部屋に入ると、鎧を外しました。元々貴族の部下には辛いのか、馬車で休むとでていきました。
「本当、失礼なやつらね」
「マリスさん、悪くは思わないで欲しいっす。彼らはあれでも気を遣っているつもりなんすよ」
「まぁ、事ある毎に嫌な顔されるのも気分が悪いから、その方がいいわね」
トーマはそのあたりに置いてある毛布を見つめているのがわかりました。
「寒いなら使っていいよ?」
「それじゃ遠慮なく……」
少し恥ずかしそうに包まり、小さな椅子に座りました。
「この毛布、いい匂いっすね」
「そう? マリスのだけどよかった」
「……」
「貴方、何でちょっと嫌そうな顔してるのよ?」
トーマとマリスのやりとりにはお構い無しという様に聖女様は、周りを見つめています。
「何かありました?」
「微精霊が所々にいるわね」
「田舎の家はそんなもんすよ?」
二人の会話は、精霊が見えるようになったはずのわたしでも見えない物が見えている様です。
その日、野菜中心の質素な食事を囲みわたしたちは何気ない団欒を過ごしました。初めは聖女様に抵抗があったミルルやリリム、パリルも彼女の分け隔ての無い柔らかな雰囲気に少しずつ心を開いて行きました。
「聖女様は龍人なのですか?」
「あ、俺は獣人なので……」
「ふむふむ、フェンリルと巫女の末裔だねぇ。昔一度フェンリルには会った事があるよ?」
「本当ですか?」
「うん、300年位前だったかな? まだ、ここがルミノールでは無く私も放浪していた時だね」
そもそも聖女様は何歳なのでしょう?
人間の姿の時の見た目で、20代にすら入っていない様にもみえるのですが。
しかし、アレクも小さい時から同じような姿を見ていた様な事も言っていました。ですから随分と前から姿は変わってはいないのでしょう。
しばらくして子供達が寝始めると、トーマは聖女様に尋ねました。
「変な事聞いてもいいっすか?」
「なにかなぁ。私で答えられる事ならいいよー」
彼は息を飲むと顔色を伺う様に話しました。
「もし、王国が攻めて来たら戦ってくれますか?」
「ふむふむ。それはルミノール領を守るのか? という事でいいのかな?」
「……はい」
「回復はするけど、なるべくは手を出したくは無いかなー」
「そうですか」
「だけど、知り合いとかなら個人的に助けるかも知れないけどねー」
「それを聞けただけでも充分です」
トーマは聖女様が戦力になるのかを確認したかったのかも知れません。ですが、この質問でマリスは気づいていると思います。しかし彼女は何も言いませんでした。
夜も更け、結局トーマ達は1日泊まって行く事になりました。次来るのは聖女様の仕事のある一週間後、その時に元に戻っていなければわたしが影武者として行かねばなりません。
あまり代役はしたくないなと思いながらそのまま夢の中へ入りました。
次の日の朝。マリスはいつもより早くご飯を作っていたのか、既にご飯の用意がなされています。しかしトーマは既に鎧姿でソワソワしながら何かを待っている様でした。
「トーマ、どうかしたの?」
「来ないんです……」
「来ないってなにが?」
「隊長に伝令を入れているんすけど、返事が全く来ないんすよ……今までこんな事は無かったのに」
伝令というのはいつも飛ばしている光る鳥の魔法の事でしょう。几帳面なアレクは普段ならすぐに返事を送りそうなのですが……。
「もしかしたら、緊急事態かも知れないっす。一度街に戻ってみようと思います」
「うん、気をつけて!」
「聖女様、マリスさん。カトレシアの事、よろしくお願いします」
「もちろんよ。一応貴方よりは親しいはずよ」
「友達は任せて!」
そう言ってトーマ達は、森を抜ける為の道を帰っていきました。
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